第二章 真実の欠片(1)
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もしも
あの時
貴方と一緒に此処から逃げ出していたら
一体どんな未来だったのかな…
第ニ章
『…そろそろ』
従者の一人が周りを警戒しながら女性に伝える。
その言葉に頷き、女性は目の前の小さな頭を愛しげに撫でた。
『いつか、必ず迎えにくるわ…』
名残惜しそうに手を放すと、女性は少女の後ろにいる一組の夫婦に目を向ける。
『よろしくお願いね…』
その言葉に二人は深く頷き、馬車の方へ歩いて行くその後ろ姿に頭を下げた。
少女は始終うつむき涙を堪えて女性を見送っていたのだが、女性がステップに足を掛けた途端駆け出した。
『っ…いやだっ!!』
しかしその手を後ろにいた男に掴まれてしまいどうしても近寄れない。
その瞳からは大粒の涙が溢れだし必死に女性を呼び止めようとする。
『まって!おいて行かないでっ…かあさまぁ!!』
どうしようもない不安に押し潰されそうになりながら、少女は声の限り叫ぶ。
しかし、女性の決意は変わらない。
『ごめんね…っ』
女性もまた瞳に涙をため辛そうな表情をしていたが、しばらく少女を見つめた後馬車に乗り込んだ。
『まっ…いやだっ!まって!いっしょにいたいよっ!』
『ごめんなさい…今は一緒にいてあげられないけれど、貴方を愛してるわ……』
女性の言葉は馬車の走り出す音に書き消されて少女には届かなかった。
『まってぇ!おいてかないでっ!!やだぁ…』
必死に引き止めようとする声もまた、馬車を止めることはなかった―――――