3. 部屋割りの話。
金曜日に発熱し微熱が続いた為、結局学校は2日間休んだ。
そのまま土日に入り木嶋から話があるだろうと思っていたが、翌週から3学期の期末試験が始まることもあり、何となく手元にノートや参考書を置いていることが木嶋が話しかけて来るタイミングを阻害しているようで、中々そんな雰囲気にならない。
木嶋に話を濁されて、話してくれるのを待って4日目になるが、実は意図せず内容を知ってしまったので、待っているのが異様に辛く、個人的に非常に気まずい。
発熱して学校を休んだ金曜日の昼過ぎ。
ノックの音で目が覚めた。
ああそうか、学校を休んでいるんだったなと思いながらドアを開くと、廊下には管理人さんがトレイを手に立っていた。
「学校を休んでいると聞いたから。具合はどう」
トレイにはおにぎりが2つと卵焼きと味噌汁が載っていた。
基本的に平日の昼間は学校に居るので、寮での昼食は事前に申告しないと出して貰えない。きっと木嶋が頼んでくれたのだろう。
「有難うございます。頂きます」
礼を言いトレイを受け取る。
ずっと寝ていれば大丈夫だと思っていたのに、味噌汁の匂いを嗅いで急激にお腹が空いて来た。とても嬉しい。
何かあったら遠慮なく連絡をと言い、管理人さんは体を退く。
管理人さんの肩で押さえていたドアが惰性で閉まり始めたところ、ああそうだと管理人さんが戻って来て、手でドアを止めた。
「木嶋くんから聞いた? このままで良いよね?」
「え?」
「あれ? 聞いてない? 部屋割りの話」
「……部屋割り?」
胸がどきりとした。
「初年度はこちらで適当に振り分けるけど、合う合わないがあるからね。進級する時に一応意見を聞くことにしているんだよ」
先週末のある朝、ランニングから戻った木嶋にたまたま会ったので、二人で相談の上返事して欲しいと伝えたのだそうな。
聞いてませんでした、一応相談します、有難うございますと機械的に返してドアを閉める。
部屋割り? 木嶋が言っていたのはこの話か?
発熱した同居人の為に体温計を借りに行き、登校前に昼食のお願いをするわけだから、管理人さんから見ればシャッフルする必要はない二人だと思うだろう。
けれど。
それを、いつまでも俺に話さない理由ってある?
何もないなら「管理人さんがこう言ってたけど別に良いよな」と30秒で終わる話題だ。
話題を引き伸ばしている理由は、部屋を変わりたいと言い出し難いからとしか思えない。
木嶋と同室になった時、気になることは我慢せずに言い合おう、と約束した。だが木嶋からは特に何も言われたことはない。
やはり何か我慢していることがあったのだろうか。
心に黒い靄が掛ったような気がした。