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2. 破壊力が天と地ほど違う。

 

 管理人さんと話さないでと言われて2日。

 顔を合わせたら良くないと思い、管理人室前は足早に通り過ぎるようにしているが、何があったのか気になって仕方がない。


 共用部や備品の扱いが悪いなどのお叱りであればすぐに改めたいし、何かイベント事があるのなら早く知りたい。とはいえ木嶋が話すと言っているのに、管理人さんにこっそり内容を聞きに行くのは不誠実な気もするので出来ないし。

 このもやもやは中々話題にしない木嶋に問題がある。てっきりあの日、寮に帰ったら話をしてくれると思っていたので、まさか2日も待たされ続けるとは思わなかった。



 一瞬、ピという音が聞こえ、木嶋のモーニングルーティンが始まる気配がする。

 今起きて、聞いてみたらどうだろう。お互い構えるから言いにくいし聞きにくいのだ。

 そうだ。そうしよう。


 気持ちだけは起き上がるが、頭も体も眠っている。管理人さんの話って何。木嶋に向かって声を掛けなければ、と考える。

 ドアの開閉音。衣擦れの音。着替えているんだな。いつもは聞かない音が聞こえるのだから、俺はちゃんと起きている。良い話だったら良いけど、悪い話だったら困るから早く聞きたい。

 なあ木嶋。呼び掛けたつもりだが、勿論声は出ていない。


 ふわり、と頭に。

 最近、いや近年めっきり経験していない、優しい感触がある。頭を撫でられている、のだろうか。確認しようにも目が開かない。感触を確かめる為に頭に手を持って行こうにも、布団から手を出すことも出来ない。

 明け方の薄暗い部屋なのに、ふと影が掛ったような錯覚を覚えた瞬間、額に何かが当たった。その『何か』は一瞬ではなく、3秒くらい当たったままで。


 その時俺は寝ている自分を俯瞰していた。

 スースーと寝息を立てる俺を、ウエアに着替えた木嶋が見下ろしている。

 その内に屈んで俺の側頭部を優しく撫でる。数回撫でると前髪が動いて額が露になり、それを見て木嶋は頭を撫でていた手を俺の顔の横に付いて、ゆっくりと顔を寄せる。

 額に唇を押し付けた後、離れてまた側頭部を撫でる。

 それまで俯瞰していたくせに、俺の視点は急に寝ている自分に戻った。

 俺を撫でる木嶋は、優しく微笑んでいた。



「うわぁっ」

 文字通り飛び起きた。口角を上げるのと微笑むのとでは全く違う。何が違うって破壊力が天と地ほど違う。心臓がばくばくいっている。はぁはぁと口で息をする。ゆっくり呼吸を整える。何だこれは。

「大丈夫か?」

「……っ!」

 振り仰ぐと、制服に着替えた木嶋と目が合った。屈んでこちらに手を伸ばしている。

「な、何、え、何時?」

 視線を躱して時計を見ると、7時だった。いつもの「あと5分」で起こしてくれるところだったのだろう。

「急に叫んだからびっくりした。調子悪い?」

「ああ、ううん、ちょっと変な夢を見た…んだと思う。わ、忘れたけど」


 勢い良く起き上がって洗面所に向かい、冷水で何度も顔を洗った。鏡の中の自分を見て、恥ずかしさが爆発する。何だこの顔は。

 鏡の中の自分は木嶋が好きだと言っていた。頬が赤い。顔が熱い。良い夢だったと喜んでいる。何これ。いつからこんな。


 ドアがノックされて、飛び上がる。

「大丈夫か?」

 心配そうな声が掛かり、大丈夫大丈夫問題ないと慌てて返事をするが、洗面所から出た俺が赤い顔をしているのを見て、管理人室から体温計を借りて来てくれた。


 熱なんてないのにと思ったが、計るとまさかの37度。熱があっても体調にこれと言って変わりはないのだが、同じクラスだと木嶋がずっと気にするだろうし、学校を休んでゆっくり寝ていることにした。


 熱があるからあんな夢を見たのだろうか。

 あんな夢を見たから熱が出たのか。

 あれが俺の願望だというのか。

 昨日までどう接してた?

 今朝はどうだった?

 普通って何?

 ……。


 大して辛くもないのに学校を休んだから、今日はゆっくりしようと思っていたけど、同じことをぐるぐると考えては急に恥ずかしくなり、布団の中でバタバタと暴れて、疲れてうとうとと浅く眠る、ということを繰り返した。


 結局この発熱は翌朝まで続くことになる。

 これを知恵熱と呼ぶのだろうか。


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