立ち退かない幽霊
楽しんでいただけると嬉しいです
「すいませんが立ち退いて頂きたいのですが、お願いをきいていただけますか?」
スーツ姿にヘルメットを被った男は、そう言って軽く会釈をした。
「無理です,動けないですから」
毅然とした態度で19歳ぐらいの幼さの残る女性は言い返した。
彼女は 黒いフリルのついたブラウンスに黒いのフレアミニスカート姿で5センチほど宙に浮いている。
幽霊に足がないと誰が言ったのだろう、黒の革靴まで履いているではないかと野田は思った。
「このビルの跡地にはマンションがたつ予定なので、退いていただけないと工事ができません。私にできることでしたらお手伝いしますので仰ってください」
腰の低い口調で野田はお願いした。
野田 は29歳の現場担当員だ、ガリでヒョロく痩けた頬は神経質な雰囲気をかもしだしている。
「お願いします立ち退いてください」
深々とお辞儀をしながら野田はお願いをした。
女性は 腰まである黒髪を指先で遊びながら野田を見つめ、なんて地味で冴えない男なんだろうと思った。
無視してやろうか?この手のタイプはおちょくると面白いから暇つぶしに遊んでやろうと決めた。
「この場所からはのけませーん、地縛霊だし、成仏しようにも名前すらわかりませーん」
ニヤつきたいのを隠しながら女性は話した。
「そうですか ご心配なく大丈夫ですので」
慌てふためくことなく野田は返事をした、 いつの間にか鞄から出しただろう資料を手に持って目を通している。
「えーと名前は紗枝さん 19歳死亡理由は自殺となってますが、黒ミサを行い血の捧げすぎで事故死とも書いてありますね。この場合はどちらになるのでしょう?」
紗枝と呼ばれた女性は慌てた、まさか自分の名前を知られているとは思ってもいなかったからだ。
地縛霊になってから何人もの人に立ち退きをお願いされたが、ここまでするやつは初めてだった。
「なんて言われても動けないので、ほっといてください」
早く追い返そうと紗枝は声を荒らげた。
「そうは言われましても、工事ができませんので、どうしましょうか?」
話しながら野田は鞄から黒縁メガネを出してかけると、より神経質そうな顔になった。
そして無言で資料に目を通している。
「御両親はご健在のようですね,そちらにお願いにうかがった方がよろしいでしょうか?」
嫌だというのをわかっての質問だ、この野田って男はとんだ食わせ物だ。
「やめてください工事したいなら勝手にしてください両親に合うのだけはやめてください」
敵わないと感じ紗枝はお願いした。
野田はニヤリと笑いながら「明るくして工事をすれば紗枝さんの姿は見えませんよね、お互いの為にそうしましょうか?」と言った。
「それで、お願いします」
しぶしぶ紗枝は返事をした。
「わかりました、そういたします。ですが成仏したくなった時はいつでも仰ってください協力しますので、それでは失礼します」
話が終わると野田はそそくさと帰っていった。
気味の悪い男だ二度と関わりたくないと紗枝は思った。
その後、地縛霊の紗枝の姿が見えないように光で照らしながらの工事がはじまった。
そして数ヶ月後マンションが完成した。
「あの野田のやろう、やりやがったなー」
地縛霊の紗枝は動くことができない、野田はそれを利用して下半身だけ天井から見えるようにマンションを設計した。
1階と2階の間に紗枝の体がくるようにして、1階から天井を見上げると紗枝の下半身だけがみえている。
真下からスーカートの中が丸見えなのだ。
最後に野田が話したセリフが紗枝の脳裏をめぐった、「成仏したくなったらいつでも仰ってください協力しますので」
「ふざけるな~野田」
殺意のあまり、大声で紗枝は叫んだ。
「呼びましたか?そろそろ成仏したい頃合だと思い、うかがいました。」
下の階から野田は天上を見上げながら返事をした。
「上を向くな下着を見るな 変態」
紗枝はスカートを押さえながら下の階に話しかけた。
「大丈夫ですよ今は明るいので見えませんから」
そのセリフに紗枝はホッとしてスカートを抑えるのをやめた、そうか明るいのか、それなら大丈夫だと思った。
「嘘ですけどね」
ニヤリと笑いながら野田は黒縁メガネを人差し指で押しあげた。
「この変態メガネ〜」
「成仏したくなったら、いつでもおっしゃってくださいね」
そう言って野田は去っていった。
呼んでいただきありがとうございました