一流執事、おちょくられる
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「この国はまもなく滅びるわ」
いや国が滅びるって。
「熾天使様の加護が消えてしまうと国が滅びる、そういうことですか?」
「そうね。私達の住む世界は天上の神が自身への信仰の為にお造りになったと言ったわよね」
「言ってましたね。そのためにウリエル様にこの国を任命したとも」
「熾天使様へ国の信仰心を届けられるのは、天使の血筋を持つ正統クロスタード家だけなの。すなわち今の偽王家ではその供給が止まっている状態なのよ。加護は信仰の供給量に比例して与えられる。信仰の供給が止まっている状態の今は、熾天使の加護も止まっている状態なの」
「加護とは一体何なのですか?」
「この世界にある災厄の全てから護ってくれているの。水質や大気の汚染、疫病、異常気象、天変地異。それとね、加護が消えるとこの国から魔法が消えるわ」
「魔法が消える!?」
この国は多くの医療、生活インフラ等を魔法に頼りきっている。
魔法の無い国とはどんな国になるのだろうか。
それに代替する技術を生み出す必要があるのではないか。
医療技術とか、災害対策技術とか、例えば・・・。
考えていると突然の耳鳴りと目眩が俺を襲う。
フラついた俺を見て二人が慌てて支える。
「大丈夫?まだ疲れが残っているのね。今日はここで休んでいくといいわ」
「ありがとうございます。正直まだ身体が重くて。お言葉に甘えさせて頂きます。リルティア様もそれで宜しいですか?」
「ええ、もちろんです。それにまだマキノさんに聞きたい事もありますし。一晩休ませて頂きましょう」
それから俺とリルティア様はお互いに少し仮眠をとった後、夕食や入浴など、自分の家の様にゆっくりと過ごさせてもらった。
お風呂からあがり廊下を歩いていると、リビングから二人の話し声が聞こえてきた。
「ねえ、リルちゃん。今日は私の部屋で寝る?いくら信用できる執事とはいえ、年頃の娘が男性と同じ部屋は抵抗あるでしょ?」
「私は別に構いませんが、ナユタさんをゆっくり休ませてあげたいので、お言葉に甘えます」
「そうね。じゃあ眠る前に貴方のお父上の話をたくさん教えてあげる。あの人、国王様のくせにやる事が庶民じみてて。面白い話がたくさんあるわよ!」
「聞きたいです!やったぁ」
はしゃぎ喜ぶリルティア様の声。
そうだよな、元王女様とはいえ中身は普通の17歳の女の子なんだよな。
そんな子が何故こんなにも多くの苦労を背負わなきゃいけないんだ。
何が加護だよ。
最終的に得するのは王家を中心とした貴族連中で全然平等じゃないだろ。
マキノさんから全てを聞いた今、この国の全てに不信感が募ってくる。
待て、こんなネガティブな気持ちではダメだ。
一度冷静に自分の気持ちの整理をする必要があるな。
寝室に戻った俺はベッドに横たわり、これまでの事の整理を始めた。
・今の王家は偽の王族。その正体は略奪者
・この国は熾天使ウリエル様の加護を受けて成り立っている
・熾天使様と謁見するには4つのレガシーアイテムが必要で、現王家がそれを所有している
・熾天使様への信仰心が止まると加護も止まる
・加護が止まると国が滅亡する
・信仰心を熾天使様へ届けられるのは正統な血筋の王族のみ
・正統な血筋を持つお方はマキノさんとリルティア様のみ
・本来ならリルティア様は次期国王候補
すなわち今の王家を排除し、正統王家の血筋を持つマキノさんかリルティア様が玉座に着かなければこの国は滅ぶ、そういう事か。
次に俺達が今置かれた状況についてだ。
・俺は王家に対し数多くの無礼を働き多分今頃は指名手配中
・更に仕えていたベネディクス家を見限って現在は放浪の身
・リルティア様に至っては第二王子との婚姻を拒否した挙句、数々の暴言を吐いて多分今頃は指名手配中
・二人で逃げてきたとはいえ、ここは身寄りの無いシルバーベレス領
・指名手配犯なので長居すると助けてくれたマキノさんにも迷惑がかかる可能性がある
・この先どうするかまだ方針は決まっていない
すなわち今俺達は王家に狙われていて、この国のどこに居ようと追っ手がかかる可能性がある。逃げ回るか、戻って戦うかの二択だが、どちらも難易度が高そうだ。
落ち着いて整理してみると俺達の今の立場って酷いな・・・。
とりあえず、これからの方針を決める必要があるが、結論は見えている気がする。
この国を護るには今の王家を排除し、リルティア様とマキノさんを王家に戻す他ない。
あとはどうやってアイツらを倒すかだ。
それにラング国王お抱えの「冥嵐の盟」という殺し屋集団にも注意する必要があるな。
明日二人に相談してみようかと考えていると徐々に瞼が重くなり始め、そのまま眠りについてしまった。
数時間程時間が経過したところで、誰かが部屋に入ってくる気配を感じて目が覚める。
「誰だ!」
枕元の花瓶を手に持ち、侵入者へ短く問いかける。
体内時計ではまだ深夜のはずだ。
「私です」
へ?リルティア様!?
明かりを付けると薄いセクシーなパジャマを見に纏ったリルティア様が俺の横に立っていた。
「突然来てしまってごめんなさい。急に会いたくなっちゃって・・・」
「え!?リ、リルティア様??一体どうしたのですか?」
「急に人肌が恋しくなりまして。隣よろしいでしょうか・・・」
こ、これは・・・!!
潤んだ瞳で、俺の顔を覗くように顔を近づけてくるリルティア様に、俺の心臓は破裂しそうだ。
てか近くで見るとこの人、めちゃくちゃ綺麗だな。
「あ、えっと、もちろんいい・・・っていや、やっぱりダメです!!!」
俺の布団に入ろうとするリルティア様の肩を抑える。
危なかった・・・!
誘惑に負けてご主人に手を出すところだった。
こんな事じゃ一流の執事として大失格だ。
深く反省しつつも、目の前のリルティア様に語りかける。
「いいですか、リルティアお嬢様。貴方は皆の見本となる貴族なのです。一時の寂しさで自分を見失ってはいけません」
優しく、そしてちょっぴり厳しく貴族の心得を説く。
「ナユタさんは、私の事がお嫌いなのですか!?そんな・・・ひどい!」
「え!?ち、ちち違いますよ!嫌いとかでは無くてですね、ああ、泣かないでください!」
俯き顔を覆ってしまったリルティア様。
しまった、貴族の心得を優先し過ぎて乙女の心を踏みにじってしまったのか!?
やはり隣で抱きしめてあげるくらいは、って。
「え?」
リルティア様の肩が小刻みに震えている。
これ笑ってないか?
「リルティア様?」
そう呼びかけた途端、リルティア様が勢いよく顔を上げ
「ダメだー、もう無理!あっははははは!」
突然手を叩いて大爆笑し始めた。
「ひぃ、君めっちゃ面白いね、あははははは」
「まさかアンタ、ブラックリルティア様か?」
おちょくられたと気付き、冷めた口調で問いただす。
「あー面白かった!そうそう、君の言うブラックリルちゃんだよ。本名は違うけど」
「本名?リルティア様ではないのか」
するとブラックリルティア様は姿勢を正し真っ直ぐに俺を見る。
「改めてよろしくね、私の名前はルカ。今は訳あってこの子に取り憑いてるの。君達の概念でいうと・・・うーん、悪魔とかなのかな?」
「悪魔!?何故悪魔がリルティア様に取り憑いているんだ」
「私は願いから産まれた悪魔。この子、自分を犠牲にしすぎる所があるでしょ。もっと自分の意見を言える強さ、それを願う力から産まれた悪魔だって言えば分かりやすいかな」
ルカと名乗る悪魔は俺のベッドに腰掛け、髪の毛をくるくると指で弄びながら説明する。
「リルティア様が心の強さを欲しがるあまり産まれた悪魔ってことか」
「そうそう、大正解」
さっき天使に纏わる話を聞いたばかりなので、突然悪魔と言われても不思議に感じなくなってきた。
「でも悪魔と言えば悪さをするイメージだが、お前の場合はリルティア様を助けるために産まれたってことでいいのか?」
「悪魔=悪って決めつけるのは人間の勝手な思い込みだよ。少なくとも私はリルちゃんを守ってあげるつもり。この子本当にいい子なのよ」
そう言って穏やかに笑う悪魔ルカ。
見た目がリルティア様なだけに、いつもの穏やかな笑いに心なしか安らいでしまう。
「私ね、この子にはもっと幸せになって欲しいの。この子が本当の強さを持つようになるまでは私が必要なのよ。それまでは助けてあげるつもり」
「リルティア様の心が強くなればお前は消えるのか?」
「消えるかもね。私は願いから産まれた悪魔だもん。願いが叶えば消えるんじゃない?」
ルカはベッドに座ったまま、足をバタバタさせながら答える。
「てか感謝してよね!私のおかげであのキモ豚と婚約しなくて済んだんだから」
「ああ、あの時はありがとう。俺も助かったよ。お前が居なきゃもっと悲惨な事になっていた」
「てゆーかお前ってやめてよね!私の名前はルカ!」
「だな。すまんルカ」
「別にいーよ。あ、私そろそろ戻らなきゃ。1日1回の入れ替わりが限界なの。あまり長い時間入れ替わるとめっちゃ疲れちゃうのよ。じゃあまたね、執事君!」
またねの直後、力が抜けたようにリルティア様がベッドに倒れる。
あ、そういえば俺の不思議な力の覚醒について聞くの忘れた。まぁいいか、次回会った時に聞こう。
しかし、天使とか悪魔とかって本当に存在するんだな。
確かに魔法の存在する世界だし、居ても不思議ではないが。
子供の時に読んだ絵本の世界みたいだ。
確かあれは、不思議の国のア・・・って、おい!
リルティア様を部屋まで連れていってから入れ替われよ!
どーすんだこの後!!
当然リルティア様を抱いてマキノさんの部屋へ行く訳にもいかず、1時間程悩んだ結果、リルティア様を俺のベッドに寝かせ、そして俺は冷たい床で寝たのであった。
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