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一流執事、脱出する

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「リ、リルティア?どうしたのだ?」


リルティア様の義父である公爵が、息を飲みながら娘へ声をかける。


「どうしたもこうしたも無いよ。アンタも義理の父親なら私を助けなさいよね。どっからどう見ても娘が困っていたじゃない」


「お前、何を・・・」


「ちょっと、お父様に向かって何よその口の利き方は!アンタ調子にのってん」


「うるさいなー、バカ女。アンタは黙ってそこの男に股でも開いてなさいよ。それしか才能無いんだから」


「なっ!!!」


壮絶な悪口にレジーナ様が思わず固まる。


そうだ。これはあの時と同じだ!

学園を休ませたあの日、リルティア様の部屋に紅茶をお持ちした時に聞いたリルティア様の本音。

過度なストレスから生まれた別人格。


確かにしっかり自分の意思を伝えろとは言ったが、まさかこんな形で出てしまうとは・・・。


「ねぇ、そこの執事!私このクズだらけの空間から出たいんだけど、協力してくれない?」


「へ?俺、ですか?」


突然の協力依頼に間抜け顔で自分を指差してしまう。


「そそ。だってこの子、このままここに居るとそこのキモ豚くそったれ野郎の嫁になっちゃうんでしょ?そんなの私も嫌すぎるし」


「ぼ、僕がキモ豚くそったれ??」


「他に誰がいんのよ。あ、そろそろ行かないと私が消えちゃう。ねぇ執事君、手伝ってくれるの?」


別人格リルティア様が俺に目を合わせて問う。

その目はイタズラに満ちた、まるでこの状況を楽しんでいるかのような目。


何が何だか分からないが、こうなってしまった以上この人に乗るしか無い!


「ええ、分かりましたよ。もう何でもしますよ!」


「素敵!じゃあこの場を切り抜ける方法を考えてみて!」


「は?俺が考えるの!?」


何が手伝えだ!何も策が無いんじゃねーか!


「いいから何か想像してみてよ」


くそ、貴族だからって無茶言いやがって。


ここから逃げる方法・・・


やはりアレか、ここで格好よく俺が覚醒して兵士達をバッタバッタと切り倒してってそんな事出来る、わけ、な・・・。


「お!ぉぉおお?」


別人格リルティア様が嬉しそうに俺を見て笑う。


なんだこれ。

過去に感じた事のないエネルギーを自分の体内から感じる。体力、魔力が身体中にみなぎるのが分かる。


「おおおお!なんだこれ!?」


「やったじゃん!あまり時間持たないだろうから急いで!」


これなら周りの兵士達と闘えるかもしれない。

そう考えていると早速兵士数人が俺に飛びかかってきた。


「舐めんな、こちとら幼少期から親父に鍛えられてんだよ!」


最初に斬りかかってきた兵士の一撃をかわし、掌底をこめかみに当てる。

兵士は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


兵士の落とした剣を拾い構える。

いつの間にかリルティア様も俺の後ろにピッタリ張り付いている。


「やるじゃん。このままここを突っ切ってよ」


「無理言いますね。周りを見てくださいよ」


騒ぎを聞いて駆けつけた応援の兵士達に、いつの間にか完全に包囲されている状態。


「ふん、ここまでだ小僧。貴様ら二人は不敬罪でここで処刑だ。なかなか面白い茶番だったぞ」


ラング国王が玉座にふんぞり返って笑う。


くそ、もっと俺に力があれば。コイツらを倒す力が欲しい。

そう強く願うと更に身体に力がみなぎってくるのを感じる。

なんだこの現象。力が欲しいと願う度にエネルギーが湧いてくる。


「願い過ぎはやめといた方がいいよ。後で本当に死んじゃうよ?」


別人格リルティア様が後ろで呟く。

とにかくこの力を使ってこの状況を切り抜けるしかない。この状態ならいける気がする。


「うおおお!」


雄叫びをあげ、出口付近を固める兵士達との距離を詰める。

兵士達は一斉に俺に槍を突き出すがその動きは遅い。

全ての槍をかわしつつ、兵士10名程を斬り倒した。

その光景を見た周りの兵士がどよめき、俺との距離をとった。


「今です。出口への活路が開きました。リルティア様、急ぎましょう!」


リルティア様の手を引き、兵士達の合間を全速力で駆け抜ける。


「ねぇ、ナユタ!アンタ私を、ベネディクス家を裏切るっていうの!?」


出口へ駆け抜ける途中、レジーナお嬢様が俺に向け大声を張り上げる。

出口に着いたところで振り返り、追っ手の兵士を数人斬りつけた後、レジーナ様に剣を向け


「いいえ、今のベネディクス家は腐っています。私は筆頭執事として、それを正してみせます。レジーナお嬢様。あなたも」


そう言い放ちレジーナ様に背を向け、謁見の間を後にした。



謁見の間を出てからも多数の護衛兵達の追っ手が絶えない。

最初は俺の不思議な力で斬り倒しながら進んでいたが、10分程経過したところで身体が妙に重くなってきた。


「なんだこれ。体が異常に重い、一気に疲れが・・・」


「急に強く覚醒したからね。身体へのダメージが限界に近いのよ」


「覚醒?俺にそんな力があったという事ですか?」


「その辺はここから抜け出したらゆっくり話してあげる。とりあえずこの王宮から出るわよ」


「そうですね。急ぎましょう」


重い身体を無理に動かしながら先へ急ぐ。

1階エントランスから脱出を試みようと近づくが、既に多くの衛兵達が先回りしていた。


「くそ、ここからは出られそうにない。裏口へ回るか」


しかし行き着いた裏口、それ以外の出口という出口全てが衛兵達に塞がれていた。


それから王宮内あちこちを見つからないように逃げ回りながら出口を探すが、一向に見つからずに二人で途方に暮れていると


「ナユタ様、こちらです」


一人の若いメイドが一室の扉から顔を出し、俺達に手招きしてきた。


「あ、君はあの時の!」


そのメイドとは、新領主就任パーティの時、腹痛の俺に全く効かない謎の薬を飲ませた、黒髪三つ編みのメイドだった。


「また会えましたね。でも今は再開を懐かしがっている場合ではありません。とにかく部屋へお入りください」


そう言って三つ編みメイドは、俺たちを一室に招き入れる。部屋の中を見渡すに、どうやらこの子の部屋っぽい。


「このチェストをずらします。手伝ってください」


指示通り大きなチェストを横にずらすと、地下へ繋がるハッチが現れた。

そのハッチを開けると地下へ通じる階段が出現する。


「これは過去に緊急避難用の通路として使われていた地下通路です。ここ王都リリアルの隣の領であるシルバーベレス領へと繋がっております。この通路の存在を今の王家は知りませんので、安心してここからお逃げください」


「ありがとう。君は一体?それにどうして俺の名前を?」


「ふふ、それはそのうちです。必ず逃げ切ってくださいね。そしてまたここに戻ってきてください」


「分かった、恩に着る。では行きましょう、リルティア様」


「う、うん・・・」


地下へと続く階段を降りると、暗い一本道の通路が続いていた。

壁や天井の所々に発光するヒカリゴケが生息しており、かろうじて足元が見える状態だ。


「では先へ進みましょう」


リルティア様の手を引いて先へ進もうすると、ポフッと背中に何かがもたれかかってきた。

振り向くとリルティア様が目を閉じ、俺の背中に頬を付けてスヤスヤと眠っている。


「そう言えば前の時も最後は眠っていたな。仕方ない、背負っていくか」


眠るリルティア様を背負いながら狭い通路を進む。

先程から次第に重くなる身体にムチを打ちながらも、1歩1歩と先を急ぐ。

リルティア様の体重が軽いのは不幸中の幸いだが、進むにつれ身体が思うように動かなくなっていくのが分かる。


「これ、隣のシルバーベレス領までって。一体何キロあるんだよ・・・」


それから暗い通路を何時間もかけて歩いた。

途中休憩を入れながら先へ進むが、一向に出口が見えてくる気配がない。


「あぁ、目がチカチカしてきた」


身体中に鉛が付いているかの様に重い。前に出す足も次第に出なくなる。まずい、喉も乾いた。暗い、暗い。

身体の感覚が無くなってきた。

しかしここで止まるとそのまま意識を失う気がする。

意識がほぼ保てない状態でひたすら前へ進む。


何時間経過したか分からないが、ようやく前方に天井から伸びる一筋の光が見えてきた。


「あぁ、出口が。出口が・・・近いぞ」


唇は極限まで乾き、足や背中の感覚もほとんど無い。

かろうじて背負うリルティア様がどういう状態かも分からないし、確認する気力も出ない。

行き止まりに到着し、目の前にある階段を1段ずつ上り、天井のハッチを開く。


ハッチを開き顔を出すとそこはログハウスの様な建物の一室だった。部屋の中に人の気配は無い。


「やっと、着い・・・た」


ハッチから地上に上がり、リルティア様を床に横たわらせると同時に、俺の意識は途切れ勢いよく床に倒れた。

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