一流執事、パーティへ向かう
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「お嬢様、お召し物をご用意致しました。メイド長とも夜通し打ち合わせ致しましたが、本日は赤を基調とした大人っぽいドレス、または白をベースとした清楚なドレ・・・」
「この黄色にするわ。着替えるから出てって」
「・・・。承知致しました」
メイド4人がお嬢様を取り囲み、ドレスの着替えに移る。
今日はバードランド領の新しい領主、シンシア=クロスタード様の領主ご就任祝いのパーティが開催される。
バードランド領は王国の貯蔵庫と呼ばれるくらい、小麦や米などの生産が盛んな大穀倉地帯である。
シンシア様は王妃エメルダ様の腹違いの妹に当たり、エメルダ様からの信頼も厚く、めでたく領土を任せられる事となった。
俺の住むこの国、聖教国ミラベルは計4人の領主様が治める領土に分かれている。
どれも全て王家クロスタード家の親族が領主を務めており、王と王妃のいる王都を中心として、一族で各領土を治めている。
要するにクロスタード家の思うがままに国民を制御し、王族とその旗下の貴族が優位に生活出来るようにコントロールしている訳だ。
そのせいで貴族層と平民との間で貧富の差が広がっているのも実情だ。
レジーナお嬢様の着衣が終わり部屋から出てきたので、パーティ会場へ向かう事にする。
「お嬢様、本日は皇太子殿下も出席されるとのことです。会場に着きましたら、まず最初にご挨拶に向かいましょう」
「何で私から挨拶に行かなきゃならないのよ。向こうから来なさいよ」
「お相手は皇太子殿下ですよ?こちらから伺うのが礼儀です」
「なんなのよ、めんどくさいわね。仕方ないわ、見つけたらすぐに教えなさい」
「承知しました」
パーティ会場へはベネディクス家専用の馬車で向かう。
装飾ゴテゴテのホロ付き馬車を白馬二頭が優雅に引く。
道を歩く者は皆、それが公爵家のモノと認識し、路肩に跪いて平伏する。
会場前に着くと、停車場には多くの馬車が停まっていた。
どれもこれも金ピカの悪趣味な装飾が施されており、出てくる貴族達も気取った態度と豪勢な衣装を身にまとっている。
正直、これらの悪趣味な貴族嗜好はあまり好きではないのだが、他家より如何に目立つかを競うのがこの国の貴族の風習であるため、当家も負けじと派手な登場を演出する。
「お嬢様、着きました。では参りましょう」
「ふん、ホントめんどくさいわね」
勢いよく馬車の扉が開き、レジーナ令嬢が現れると同時に周囲がザワつく。
王家に次ぐナンバー2の権力を持ち、国教である聖天十字教を司る一族の令嬢の登場に、周りの貴族達の注目が一斉に集まる。
会場エントランスに向かいコロコロとレッドカーペットが敷かれ、その上をレジーナ令嬢が澄まし顔で歩く。
取り巻きのメイド達が紙吹雪を飛ばす。
レジーナ様の見た目の美しさと華やかさに、囲む貴族達が目をハートにして見蕩れている。
「なんと美しい。さすがは皇太子様の婚約者だ」
「ああ、レジーナ様。憧れちゃうわぁ」
「くそっ、王子との婚約が無ければ俺が!」
レジーナ様の本性を知らない者達がそれぞれ感嘆の声をあげる。
受付を済ませてパーティホールに入ると、奥に国王様と王妃様、そして目当ての皇太子様のお姿を見つける。
「お嬢様、あちらに皇太子様が居られます。ご挨拶に向かいましょう」
「分かってるわよ。サラ、あれを頂戴」
「かしこまりました。お嬢様、こちらをどうぞ」
突如メイドのサラに指示を出すレジーナ様。
お付きメイドのサラが、何か小さなモノをお嬢様に手渡す。
サラから何かを受け取ったお嬢様は、カツカツと足音を鳴らしながら皇太子様へ近づく。
「お久しぶりですわ。国王陛下、王妃様。それに皇太子殿下」
ここに来る前とは打って変わって、にこやかな柔らかい笑顔を見せるレジーナ。
本性を知らなければ愛嬌の塊の様な笑顔。まさに愛嬌詐欺。
「おぉ、レジーナではないか。美しくなったな。まさに王家への輿入候補に相応しいぞ」
そう告げてレジーナの身体を隅から隅まで眺める壮年の男は国王ラング=クロスタード。
このミラベルの国王であり、無類の女好きで多くのメイドを私的に囲っているとの噂。
でっぷりとした腹と立派な髭が特徴の大男。
「綺麗な色のドレスじゃない。場が明るくなるわね」
国王の横でド派手な赤いドレスを着て、目つき鋭く品定めしているのがこの国の王妃エメルダ=クロスタード。
この人も若い男が大好きで、金にモノを言わせ多くの若い執事を雇っている。
性格は見た目の通り恐悪で、気に障る者は過去に何人も処分してきたとの噂。
「やあ、レジーナ!来ていたんだね。今日もなんて美しいんだ。まるで美しい太陽みたいだよ!」
この男が皇太子ギルベルト=クロスタード。年齢は今年で20歳。
少し癖っ毛の金髪で鼻の高い色白の美青年。
レジーナ様の婚約者であり次期国王陛下。
それより美しい太陽ってなんだよ。普通月とかだろ。
「まぁ、ギルベルト様ったら!女性をお褒めになるのが上手ですわ。皆にそういう事を言ってるのではなくて?」
レジーナ様が上目遣いでギルベルト王子を見つめている。
「そんな事ないさ。僕は君のフィアンセだよ?僕の目には君しか映ってないよ、フッ」
「ギルベルト様・・・」
見つめ合う二人。
その様子を周囲で伺っていた貴族達のうっとりとした眼差し。
それらを冷めた目で見つめている俺に気付いた王妃様がキッと俺を睨む。
やべ、この人恐ろしく勘が鋭いな。
目をつけられると怖いので愛想笑いで誤魔化していると
「あっ、ギルベルト様!少し動かないで」
「む?どうしたレジーナ」
ギルベルト王子の襟に手をやるレジーナ様。
「痛っ!あ、でも取れました。こんなところに仕立て用の針が」
レジーナ様は短い仕立て用の縫い針を指で摘み掲げる。
その指には血が滲んでいた。
「レジーナ!指から血が!」
「いいえ、ギルベルト様の危険を防ぐことが出来て良かった・・・。それに比べて私の怪我なんて」
「だめだ、ほら指を貸して!ちゅぱっ、んふーふー」
う、うわぁ・・・指くわえた!気持ちわるッ!!
何を考えたのか皇太子が怪我したレジーナ様の指を咥えながらレジーナ様を見つめている。
対してレジーナ様も皇太子殿下をうっとりと見つめる。
さっきメイドのサラから受け取ったモノはあの針か。
なるほど小ズルい。
まぁ、あんな猿芝居に騙される方も大概だが。
それよりも二人の気持ち悪いやりとりを目の当たりにして悪寒が走る。
「きゃあ、見て!王子が婚約者を守っているわ!」
「あれはきっと愛の接吻よ!」
この反吐が出そうになるしょーもない反応にも呆れるが、そこは俺も執事の端くれ。
すぐに救護魔法班を呼び、お嬢様の指の治療の指示をする。
「お嬢様、あちらに救護班を用意しております。まずはお怪我の治療をしましょう」
「ええ、わかったわ。ではギルベルト様、また後ほど」
「ああ、愛しのレジーナ。パーティが始まったら僕と踊ろう。それまでにしっかり治療しておいで」
ギルベルト王子に会釈をし、レジーナ様の治療のため奥へ下がる。
奥へ下がると同時にレジーナ様が烈火の如く開口する。
「なんなのよ!普通他人の指舐めたりする!?怪我なんてどうでもいいからすぐに消毒して!」
「か、かしこまりました。浄化魔法、ステライズ!」
救護班の男がレジーナ様の指に浄化消毒の魔法をかける。
「あー、ホントきもい!でもまぁ、これであのバカ親子の私に対する評価がまた上がったわね。あとはパーティ中に王妃様を取り込むわ。結婚さえしてしまえばこっちのものよ」
レジーナ様の逞しさに感心しながらも、改めてこのお方の恐ろしさを知る。
だがこの逞しい方が後の王妃になると考えると、ある意味この国は安泰なのかもしれない。
隣国が攻めてきても何とかなりそう・・・
それから間もなくして、新領主様のご就任祝いパーティが始まった。
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