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一流執事、一命を取り留める

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「もう少し眠らせてあげましょう」


「けど急がないと増援が」


「きっと大丈夫です。あの時王子はレジーナお義姉様の名に誓っていました。王子がお義姉様の名を汚すとは思えません」


「だが、念には念を・・・」


朧げな意識の中、リルティア様とロズベルグの話し声が聞こえてくる。


あ、そっか。シモンをぶん殴った後、力尽きて暫くの間眠っていたのか。


眠りから覚め、目を開ける。


「ん・・・えええ!リ、リルティア様!?」


重い瞼を開けると、目の前すぐ近くにリルティア様の顔があり、驚きのあまり跳ね上がる。


どうやら気を失った俺を膝枕で介抱していてくれていたらしい。


「ん?わ、わかったぞ!?おまえルカだな。もう騙されんぞ!」


キョトンとしたリルティア様、いやルカを指差して指摘する。


「フフ、今はルカさんではなく私ですよ。リルティアです」


優しい笑顔で答える姿を見て、この人がリルティア様本人だと確信する。


「し、失礼しました。ついびっくりして」


「いいえ、ご無事でなによりです。お身体は大丈夫ですか?」


そういえばさっきの戦いでボロボロだった身体が嘘みたいに軽い。


「はい、何故かいつも通り絶好調です」


「この嬢ちゃんに感謝しろよ?俺とお前を治癒するのに魔力がすっからかんになるまで魔法を使ったらしい」


ボロボロに壊れた大楯を治しながら語るロズベルグ。

ズタボロだった体の傷が綺麗に治癒されている。


言われてみればリルティア様の顔には少し疲れが見える。


「ありがとうございます。ですが、あそこまで重症の俺たちを治癒する為には最上級魔法くらいじゃないと無理なのでは?一体どうやって・・・?」


俺の身体もだが、ギルベルトはほぼ瀕死状態だったはず。

2人をここまで全快させるには、エクスヒール程度では不可能なはずだ。


「コレのおかげなんです」


リルティア様は自身の頭に付けた熾天使の宝冠を指差す。


「おおお、もしかして宝冠のギフトですか!?」


リルティア様の綺麗な銀髪の上には、黄金で形どられた煌びやかなティアラが乗っている。


「そうなんです。戦いが終わって傷ついたお二人に治癒魔法をかけましたが、私の魔力では回復が全然追いつかなくて」


「それは仕方ありません。ロズベルグがやられ過ぎなんですよ」


「な、なに!?お前なんて気絶してたじゃねーか!」


「あはは、その時ナユタさんの横に転がる宝冠を見つけたんです。打ち手が無い私は宝冠の力にすがる気持ちで頭に乗せてみたんです」


ちょっと興奮気味に話すリルティア様。

頭に乗せるジェスチャーがすごく可愛らしい。


「すると身体の中からすごく強い魔力が込み上げてきたんです。その魔力のおかげで最上級治癒魔法のエクストラヒールを使えて、それでお二人を治癒しました」


リルティア様の口からとんでもないワードが飛び出す。


「え?リルティア様、エクストラヒールを使えたんですか?」


いくら魔力が優れていても、最上級魔法を使うにはとんでもなく長いスペルを唱える必要がある。

ましてや普通は魔力が足りず、唱えても使う事など出来ないため、そんな長ったらしいスペルを覚えている人などいるとは思わなかった。

国でも大賢者レベルの者しか使えない魔法だ。


「はい、授業で一度だけ先生が序文を言っていたのを聞いて、これはテストに出るかもと必死で覚えました。結局出ませんでしたけど、アハハ」


さすがはドが付くほど真面目なリルティア様。

そんなのテストに出るわけ無いじゃないですか・・・。


でもその真面目のおかげで助かった。

特にロズベルグはあのまま放置していたら間違いなく死んでいた。


リルティア様の機転に心から感謝する。


「あれ、そういえばシモンは?あの後どうしたんですか?」


「それは俺から答えるぞ」


損壊の激しい盾を直せず、諦めたロズベルグが答える。


「リルティア嬢ちゃんが俺達を治療している間に部下に連れられて逃げ出したらしい。だからあまりこの屋敷でもたもたしていられねぇんだ。ましてや、先に逃げた皇太子達もいる。いつ軍を引き連れて戻ってくるともわからん」


シモンには逃げられたか。

でも宝冠の無いシモンに、この後何か出来るとも思えない。

ましてや死兵団を使えない今、Uターンしてくるだけの根性がアイツにあるとも思えない。

あの皇太子軍団なら尚更だ。放っておいてもいいだろう。


「なるほど。多分大丈夫だロズベルグ。アイツらは当分戻らないよ。シモンは王都にでも向かったんだろ」


「ならいいけどな。ただ、村の皆が心配しているはずだ。ユナ達を早く村へ帰してやりたい」


「分かった。じゃあまずは辻待ち馬車でヒューレッド村へ向かおう」


「恩に着る、ナユタ。じゃあ俺達は馬車を探してくるから、ここで少し待っててくれ」


ロズベルグがユナと他の村娘達を連れて屋敷の外に出る。

その後、暫く待っているとロズベルグが馬車二台を連れて戻ってきた。 


「おーい、見つかったぞ!早く乗ってくれ」


ロズベルグが見つけてきたのは、5人乗り馬車二台。


一台に村娘達3人が、もう一台に俺とリルティア様、そしてロズベルグと村娘のユナが乗り、ヒューレッド村を目指した。


村に向かう途中、馬車の中で改めてロズベルグにお礼を告げた。


「ロズベルグありがとう。あの時、お前が無理してでも皆を守ってくれなければ、今頃俺達は捕まっているか、既に殺されていたかもしれない」


「いいってことよ、気にするな。それに俺達もお前達2人には助けられたし、お互い様だ。けど、死にそうだった俺を助けてくれた嬢ちゃんには頭が下がる。本当ありがとうよ」


「いえ、元はと言えば眠りこけてた私を守って皆さんが怪我をされたのですから、全然気にしないでください。それより、村の皆さんが全員無事で何よりです」


「私達こそ、お二人にはいくらお礼を言っても足りないくらい感謝しています。それにロズ、助けにきてくれて本当にありがとう」


「な、なんだよ改まって。いつもみたいに憎まれ口を叩きやがれ!」


ユナの言葉に照れるロズベルグ。その様子を見て3人で笑う。


「でも本当に良かったです。こうやって皆さんと仲良くお話出来るのも全員の頑張りですね」


嬉しそうなリルティア様が顔の前で手を合わせて微笑む。

その姿を見たロズベルグが


「嬢ちゃん、本当に天使みたいだな。なんで嬢ちゃんみたいのが国の指名手配なんだ?」


不思議そうに首を傾げる。


「ああ、そのことだが」


村に着くまで暫くかかりそうだったため、これまでの王都での出来事を2人に話した。


「なるほど、そりゃムカつくな。逃げてきて大正解だぜ」


「そんな酷いことが・・・。今回の私達の件といい、なぜ貴族の皆様は立場の弱い者を虐げたがるのでしょうか。互いに助け合い、喜びを分かち合う国を作るのが貴族の皆様の役割なのではないでしょうか」


ユナの言葉に暫く全員が黙る。その沈黙を破るように俺が口を開く。


「実は今回、最初から俺達の目的はここの領主、シモンを倒すつもりでこの領に来たんだ」


「なんだと?!クーデターするつもりだったのか?」


「ああ、この国の王に、ここにいるリルティア様になって頂くためにだ」


ロズベルグとユナは驚きを隠せず、ポカンと口を開けながら聴いている。


「リルティア様は前国王の一人娘、すなわち元王女だ。現在の王家である偽クロスタード家に廃嫡されて今でこそいち貴族だが、本来はこの国の王の座にいるお方だ」


「そ、そんな高貴なお方だったのですね。どうりで他の人とは違う雰囲気を感じていました」


ユナは改めて納得している。


「待ってくれ。今の王家が偽物ってどういうことだ?」


「ああ、今の国王ラングは正統なクロスタード家では無い。本名はラング=エストリア。前国王専属の執事であり、当時の国王様であるリルティア様のお父上を殺した逆賊だ」


「まじかよ・・・。大スクープじゃねぇか。てかそんな事実を知ってたら確実に始末されるだろ」


「あ、すまん。2人もこの事を知ってることがバレたら始末されちゃうかも、ハハ」


「いや、誰にも言うつもりはねえよ。ここだけの話ってことで聞いておく。だが、個人的には俺達の命の恩人がそんな酷い目に合っていたなんて、例え現王家だとしても許せねえ話だ。ムカつくぜ」


ロズベルグが話を聞き1人ヒートアップしている。やはり義に厚い男だ。


「それで、これからお二人はどうされるおつもりなんですか?まさか王都に戻るとか・・・」


ユナが今後について俺達に問う。


「いや、次は聖ヨスガ領に向かうつもりだ。あそこの領主の持つアイテムを回収しに行く」


「待て、聖ヨスガって言ったら国教である聖天十字教の聖都だぞ。あそこには聖天十字軍という厄介な軍隊がいやがる。攻略の難しさはシモンどころの騒ぎじゃないぞ?」


「ああ、それでも俺達は止まる訳にはいかないんだ。それが俺達自身もそうだが、さっきユナさんが言った皆が幸せに暮らせる国を造るためにも、避けては通れない道だと確信している」


ロズベルグがリルティア様に問う。


「嬢ちゃんも行くのか?目的を果たせず死ぬ可能性が高いんだぞ」


その質問にリルティア様は穏やかに答えた。


「ハハ、そうですね。でも逃げて希望を諦めるより、逃げずに希望に向かって頑張る方が私には合ってるみたいです。例えそこで果てても、胸を張って死ぬ覚悟は出来ています」


華奢な体から出るその言葉からは、鋼の精神を持つ勇者の様な強靭さを感じさせる。

この方は本当にご立派になられたと、いち執事として誇りに思う。


「まあ、死なない様に俺がリルティア様を守るよ。だからロズベルグ、お前は村の皆を、ユナさんを守ってやれ」


「お、おう。言われなくとも・・・守ってやるよ」


その時、ロズベルグを見つめるユナの目は一見嬉しそうではあったが、少しの寂しさが見え隠れしていた。


そうこう話しているうちに、俺達を運ぶ馬車はまもなくヒューレッド村の手前まで到着していた。

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