憑依悪魔、ドン引きする
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「執事君、あれで気付いてくれたかな・・・」
「ん?どうした、リルティア。早く儂とイチャイチャしたくて堪らないのか?」
「あ、はい〜、そうですね、アハハ」
後部の荷台に座らされているリルティアに、前方座席からゲスいニヤけ顔を覗かせるシモン。
思わず作り笑いで答えるのは、リルティアに憑依したルカである。
今は宿主であるリルティアと入れ替わり、ルカがリルティアを演じている状態なのだ。
しかし、さっきの催眠はホント危なかったな。
ヒューレッド村で執事君が兵士と戦っている隙に、このエロジジイがリルちゃんに話しかけてきたのだ。
「のう、リルティアよ。ちょっと儂の目を見ておくれ」
「はい?」
リルちゃんが領主シモンの目を見た途端、その視線を通してリルちゃんの中にかなり強力な催眠効果が入り込んできた。
危険を感じた私は咄嗟にリルちゃんと入れ替わり、入り込んできた催眠効果を打ち消す。
おかげで、シモンの催眠にかからずに済んだのだ。
どうやらこの強烈な催眠魔法は、人間以外には効果が薄いらしく、悪魔の私なら簡単に打ち消す事が出来た。
そして今、私があえて催眠にかかったフリをしている理由は2つある。
1つは、熾天使の宝冠の在処を突き止めるため。
私が潜入して宝冠の在処を探し出すことで、執事君が来た時に探す手間を省くため。
2つ目は、多分この子達を救わなきゃ宿主のリルちゃんが怒るからだ。
私が潜入する事で彼女達の催眠を解き、執事君が攻め込んだドタバタに乗じてこの子達を逃す。
けど、それらを出来るだけ急がなければならない事情もある。
私が憑依出来る時間には限りがあり、私の憑依が解けるとリルちゃんはその後数時間、深い眠りについてしまうからだ。
仮にノロノロして敵地で憑依が解けると、このエロジジイが眠るリルちゃんに何をするか分からない。
想像しただけで鳥肌が立つくらいキモい。
なので、出来るだけ早くそれらを済ませて執事君と合流する必要がある。
「きっと執事君なら気付いてくれるはずよ。私は信じるわ」
自らに言い聞かせるように呟くルカ。
今はネガティブ思考は止めて、到着後の事態に備えようと頭を切り替える。
暫くして荷馬車が停車し、最後部の扉が開けられた。
「着いたぞ。付いてこい」
シモンが私達を扇動し、豪華な屋敷の敷地を歩く。
敷地は広く、しっかりと手入れされており、外壁に沿って多数の衛兵達が警備している。
「この人数はヤバいなぁ。執事君、どうか頑張って」
シモンに連れられて屋敷の中に入った所で、驚愕の事実を知ることになる。
『おかえりなさいませ!ご主人様!』
ええええっ!何人いるのこれ!?
出迎えのメイドの人数に驚くルカ。
ざっと数えても50人くらいはいそうだ。
「うむ。村の女どもは全員メイド服に着替えさせろ。リルティアは儂と一緒に来い」
「かしこまりました、シモン様」
お抱えメイド達が、ヒューレッド村の女の子達を連れてどこかへ消えていってしまった。
仕方なく私はシモンの後に付いて歩く。
階段を上り、シモンの部屋らしき一室の前に到着する。
あー、これはいよいよヤバいなぁ。
まあ、エロいことしようとしてきたら殴り倒して逃げればいいか。
楽観的に考えるルカ。
しかし、この時のルカはまだ知らなかったのだ。
この後、ルカのそんな甘い考えなど、一瞬で吹き飛ばすような出来事が待ち構えている事を。
シモンがドアを開けるとそこは、ファンシーな家具があちこちに配置されている部屋だった。
部屋の中には6人のセクシーメイド達があちこちに座っていた。
どの子もかなり可愛い顔立ちをしており、シモンの特別お気に入りの子達だと勘付く。
自分もここの仲間入りするのかと、げんなりしながら部屋の中に入る。
部屋の中を見渡し、決定的な違和感に気が付く。
部屋にある家具が、やけに小さいのだ。
ベッドはベビーベッドのように小さく、テーブルや床に散らばる衣服も子供サイズの大きさ。
その違和感こそ、これから起こる恐怖の正体だった。
「おかえりなさいませ。私のかわいいかわいい、バブちゃん!」
「ただいま、ママ達!寂しかったよぅ、ばぶっ、ばぶ、ばぁぶぅ」
・・・。は???
これは一体何が起きているのであろうか。
ルカは目の前で起きている事が全く理解出来ずにいた。
改めて今の状況を冷静に分析するため、深く深呼吸をする。
そう、今私はシルバーベレス領主シモン=クロスタードに連れ去られて、彼の部屋であろう一室に招かれた。
そして今私の目の前には、6名の綺麗なメイドに囲まれて、仰向けでおしゃぶりを咥えながら、ばぶばぶ言っている50代くらいのオッサンがいるのだ。
ま、まさか幻覚魔法!?
すぐに自分にリルティアの得意な状態異常回復の魔法をかける。
しかし何一つ効果が表れることはない。
「こ、これは一体・・・」
予想の斜め上を行き過ぎていて、脳の処理が追いついていない。
また、異次元レベルの気持ち悪さのせいで、思考回路がバグってしまい、情報を処理する機能が正常に働かない。
一方、オッサンに無理矢理赤ちゃん用の靴下とベビー服を着させようとしているメイド達の姿を見て、何故かとても悲しい気分にもなる。
「これは・・・新手の精神攻撃なの・・・」
呟くルカに対しシモン=クロスタードがついにその口を開いた。
「リルティアママも早くこっちに来てよ。ボクちゃんはママのおっぱい飲みたいのっ!ばぁぶ!」
17歳の女の子に対して、ほっぺたを膨らませてプリプリ怒るシモン=クロスタード52歳。
私の動揺を気にもせず、赤ちゃんプレイに夢中のこのジジイに対し、何故か底知れぬ怒りが湧いてきた。
「い、いい加減にしろ、このド変態野郎!攫われた先に赤ちゃんプレイ強要させられるとか予想外過ぎるのよ!」
「ば、ばぶ?何で怒ってるばぁぶ?まさかお前、催眠が解けたのか!?」
「こんなの見せられたら衝撃過ぎて誰だって解けるわ!まあ、私は最初から演技だったけどね」
「儂の催眠魔法が効かないだと!?秘密を見られた上に催眠も効かぬとは、貴様は断じて生かしてはおけん!者共、敵襲じゃ!」
ベビー服にヨダレ掛けを付けたシモンが、部屋の外の兵士を呼ぶ声と同時に、窓の外から大きな破壊音が聞こえてきた。
窓の外を覗くと、兵士達の群れと戦う二人の若武者が大暴れしている姿が見えた。
「ベストタイミング。さすが執事君!」
しかし直後、シモンが呼んだ複数の兵士が赤ちゃんプレイルームになだれ込んできた。
「そこの女!大人しく観念しろ!」
「じゃあ私も戦おうかな。リルちゃん、ちょっと魔力を借りるね!」
ルカは胸の前で手を合わせ、印のようなものを結ぶ。
「喰らいなさい!シスターズレイジ!」
唱えたルカを中心に、電磁波を帯びた磁場結界が部屋中に広がり、周囲の兵士を包み込む。
「な、なんだぁ、体が言う事を聞かんぞ、」
「ぐっ、体が痺れて、う、動けん!」
「パラライズ効果よ。1時間は動けないだろうからそこで大人しくしててね」
麻痺効果のあるルカのシスターズレイジを浴びた兵士達は、その場で動くことが出来ずにいる。
それらを横目に、いつの間にか部屋から姿を消したシモンを追う。
「ったく、あの変態オッサンはどこ消えたのよ。そろそろ憑依リミットが近付いてるって言うのに。とにかく早く探し出さなきゃ」
リルティア様の身体に憑依したルカの憑依可能時間は間もなく限界を迎える。
そうなる前にシモンを探し出さなければならない。
万が一逃げられでもすれば、これまでの全てが水の泡になってしまう。
「ここにもいないわ。最後はあの部屋ね」
2階フロアの各部屋をくまなく探し、最後に突き当たりにある部屋のドアを勢いよく開ける。
すると中には、共に荷馬車で連れられてきたヒューレッド村の娘達が、皆同じデザインのメイド服を着て静かに座っていた。
「あ、あんた達」
ルカの呼びかけに一切応じない娘達は、皆虚ろな目をして一点を見つめている。
「まだ催眠効果が残っているのね。いいわ、アンタ達を助け出すのも私の役目だもんね」
ルカが全員に状態異常回復魔法をかける。
「リルちゃん程じゃないけど、みんな目は覚めたんじゃないかな?」
「あれ?私なんでこんな服を?」
「え、ここどこ?確かさっきまで店番をしてたはず・・・」
「ロズベルグ?さっきまで一緒にいたはずなのに」
娘達に催眠中の記憶は無く、今の状況が理解出来ていないようだ。
「アンタ達、領主シモンの催眠魔法で誘拐されたのよ。とにかくゆっくり説明している暇は無いわ。この屋敷から・・逃げ・・るわ・・よ」
突然全身の力が抜け、強烈な眠気に襲われる。
「あ、ヤバい、もう限界かも。ごめん執事君、後は任せ・・た・・」
ストンとリルティア様の身体が床に崩れる様子を見て、慌てて駆け寄る娘達。
敵地ど真ん中にも関わらず、憑依が解けてスヤスヤと眠るリルティア様と、催眠の解けた村娘達だけの最悪な状況に陥ってしまったのであった。
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