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一流執事、男として負ける

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うっとりとシモンの横顔を眺めるリルティア様。


「ワハハハ、だから言ったであろう小僧。貴様は(ワシ)には勝てんのだよ。そう!それは男としてだ!!」


ジジイのくせに分厚い胸板をドヤ顔で張るシモン。


「お、男として・・・だと!?」


「そうだ、1人の男としてだ。証拠を見せてやろう。おいリルティア、お前は俺とあの小僧とどっちが好きなんだ?」


「ええ、それはもちろんシモン様ですわ。私はシモン様のためなら何でもします」


え、えええええ!?

どうしちゃったのリルティア様・・・。


きっとこれは何かの間違いだ。

いや、あの男、リルティア様に何かしたな?

きっと洗脳されてるんだ、そうに違いない。


「待て、お前リルティア様に何をした!我が主人への冒涜、決して許さんぞ」


愛刀の膝丸に再び手をかける。


「おっと、女に振り向いてもらえずに暴力に訴えるのか?お前は最低な男だな。リルティア、どう思う?」


「最低です。シモン様の足下にも及ばないクズですね。男として1からやり直した方がいいのでは?」


リルティア様が更に冷酷な目で俺を見下す。


「ぐぬぬ。貴様!リルティア様を盾にするとは卑怯だぞ!」


「面白いことを言う。儂は何もしとらんぞ?リルティアの素直な気持ちじゃ、ワハハ」


くそっ、これではコイツに手が出せない。

いや、もういっその事コイツを斬ったらリルティア様の洗脳も解けるんじゃないかな?


試行錯誤していると、先程の青年が背後から俺に呼びかける。


「おいアンタ!コイツらと闘うなら俺も力を貸すぜ。俺の幼なじみのユナも連れていかれそうなんだ。さっきの力でこの兵士共をなんとかしてくれ!」


振り向くと3人の兵士に抑え込まれている状態の青年。

その目は怒りと闘志に満ち溢れている。


「ほう?ユナと言ったか?おい、ユナ。ちょっとこっちへ来い」


領主シモンが、今度は荷馬車にいる村の娘、ユナを呼ぶ。


「はい。お呼びでしょうか、シモン様」


荷馬車から降りてきたユナの目は虚ろに、ただ一点シモンを捉えている。

見た目素朴なだが、綺麗な顔立ちをした女性だ。


「ユナよ、お前はあの男と儂のどちらが好きなんじゃ?」


「はい、シモン様一択でございます。あんな野蛮な男は問題外中の問題外です」


うわぁ・・・。

あんな言い方、幼なじみに言われたらさすがにヘコむぞ。

まあ、俺もクズ呼ばわりされたけど・・・。


恐る恐る青年の顔を見る。

青年は明らかに大ショックを隠せない表情で固まっている。


「ワハハ、そういう訳じゃ。ということでこの娘達は儂が貰っていく。お互いの同意があってのことじゃ。貴様らに文句を言う筋合いはない、そうじゃろ?」


そう言ってユナの肩を抱き、荷馬車へと戻るシモン。


「待て、シモン。リルティア様は連れていかせんぞ!」


シモンと一緒に歩くリルティア様へ駆け寄ろうとすると、振り向いたリルティア様が俺に向かい


「ホントしつこいわね、執事君。さっさと宿屋に戻って1人で準備でもしなさいよ。私はシモン様の元で他の女の子達と一緒に居るから、次の目的地へはアンタ1人で行きなさい!」


冷たくリルティア様に追い返された。


「ワハハ!ついに名前すらも呼んでくれなくなったか!まあそういうことだ、執事君」


そう言い放ってシモンとリルティア様達は荷馬車に乗り、残りの兵士を連れてヒューレッドの村を立ち去ってしまった。



「くそっ!!」


リルティア様を連れ去られ、怒りと不甲斐なさに力強く地面を蹴る。


何故リルティア様はあんな事になってしまったんだ。

それに最後のリルティア様の言い方。

名前も呼ばずに執事君とか酷すぎる。

あれじゃまるで・・・


ん?執事君?


それにあの喋り方・・・。


アイツ、悪魔のルカじゃねーのか!?

思い出せば思い出す程、いつも通りの悪態全開のルカだ。


という事はアレは演技・・・?


あれがルカの演技だとしたら、何を考えているんだ。

もしや単身でシモンの懐に潜りこんだのか?


いや、アイツは去り際に俺に、自分は他の女の子達と一緒にいるから、次の目的地へ俺1人で行けと言った。


すなわち俺がシモンの拠点に単身で攻め込んでいる間に、ルカが女の子達を逃がす、という事なのか。


そう考えるとルカのとった行動にも合点がいく。


いずれにしろリルティア様を連れ戻さなければならないし、この推測に賭けて単身で攻め込むしかないのか。


ならば急がねば。

リルティア様や他の女の子達があのクソ領主の毒牙にかかってしまう。


「よし、まずは準備だ」


シモンの拠点攻略の準備のため、急ぎ宿へ戻ろうと振り返ると、先程の青年が俺の腕にしがみついてきた。


「おい、アンタ!助けに行くんだろ?そうだよな?」


「あ、ああ。今から準備してアイツらの拠点に攻め込むつもりだ。上手くいけば君の幼なじみも連れ戻せるかもしれないが、過度な期待はしないでくれ」


「待ってくれ!俺も連れて行け。こう見えても体力だけは自信があるんだ」


青年の体つきを改めて見ると、俺より大柄で筋肉の付いた良い体格をしている。

短めの青い髪と青い目、熱血気味な顔立ちの好青年だ。


「俺の名前はロズベルグ=リンドル。年齢は20歳だ。アーミントン出身で、今はここ、ヒューレッド村で暮らしている。連れ去られたユナは同郷の幼なじみなんだ。なんとかアイツを助けてやりたい」


熱く真剣な目で訴えかけてくるロズベルグ。


「一緒に戦ってくれるのは助かるが。命の保証は出来ないぞ」


「こう見えても昨年までは軍に所属していたんだ。そこでは盾役、タンクをやっていた。アンタに降りかかる火の粉を払うくらいなら出来るぜ!」


そう述べて自分の胸を叩くロズベルグ青年。

軍隊経験があるのなら力になるかもしれない。


「分かったよ、じゃあ宜しく頼む。それなら君も準備した方がいい。そのままじゃ野垂れ死にだぞ」


「ロズベルグでいいぜ!えっと、アンタは・・・」


「俺はナユタ=クローゼ。ナユタでいいよ。公爵家の筆頭執事だが、今は訳あって休業中だ」


「公爵家ってマジだったのかよ。分かった、よろしくな、ナユタ」


準備をしてまたここに戻ると走り去るロズベルグ。

俺も宿屋に戻り、改めて旅の支度をする。

今日ずっと歩き続けて来たので溜まった疲労感は拭えないが、急がなければリルティア様が危ない。


支度が完了し宿屋の前に出ると、既にロズベルグが路肩に立っていた。

ロズベルグは真鍮製の甲冑に身を包み、大きな鉄製の盾と、ショートランスをその手に持っている。


「よう、こっちは準備出来たぜ!ナユタもか?」


「ああ、すごい重装備だな。そんなんで移動出来るのか?」


「さっき言ったじゃねーか。体力には馬鹿みたいに自信があるんだよ。アーリントンでは『熱血の鉄壁』って言われてたんだぜ!」


ああ、やっぱり顔だけじゃなく性格も熱血なのね。

多分コイツ、俺以上に脳筋だな・・・。


「じゃあ行こう、ロズベルグ。シモンの拠点への行き方は分かるのか?」


「もちろん分かるぜ!ここからそんな遠くないスラブという街の北側にあるでかい屋敷だ。ユナ達みたいに領内の女性を洗脳して、何人も屋敷で囲んでるって噂だ」


「ただの色欲ジジイじゃねーか・・・。やっぱりさっきのアレは洗脳なのか?」


「ああ、前から噂はあったが、さっきのユナを見て確信したよ。あの時はショック過ぎて何も言い返せなかったが、後々考えてみるとアレはユナの目じゃない。何かに洗脳された、別人の目だ」


「ふむ。あのジジイ特有の魔法か何かなのか。そんな魔法は聞いた事が無いが、人を操れる能力だとしたら俺達も気を付ける必要があるな」


「そうだな。お前は脳筋っぽいところがありそうだからな。気をつけろよ」


「いや、お前の方が絶対脳筋だからね!?」


「そうかもな、ハハ」


初めて笑顔を見せるロズベルグ。

熱血脳筋タイプではあるが、性根は悪いヤツでは無さそうだ。

むしろ幼なじみを助ける正義感には好感を覚える。


「じゃあロズベルグ、道案内は任せたぞ」


「おうよ!」


そうして俺とロズベルグはシモンの拠点のあるシルバーベレス領の首都、スラブを目指して旅立ったのであった。

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