一流執事、驚愕する
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「ナユタ君、リルちゃん。出発準備の調子はどう?」
大きな長方形の箱を抱えたマキノさんが、俺達の準備の様子を覗きに来た。
「はい、もうすぐ出発するつもりです。それよりその箱一体何ですか?」
「これはね、我が家の家宝よ。逃げ伸びた後に倉庫から回収したの」
マキノさんは床に箱を降ろし、ゴソゴソと中を漁っている。
「ナユタ君は剣術は使えるの?」
「はい、幼少期より父に嫌という程教えこまれました。執事たる者、ご主人の護衛も充分に出来なければならないと、竹刀一本だけ持たされてジャングルに放り込まれた事もあります」
「あはは、じゃあこれを持っていきなさい。手ぶらじゃいざという時危険でしょ?」
マキノさんが箱から取り出したのは一振りの剣。
黒に銀で不思議な模様が装飾された鞘に、目貫きと言うらしい見たことの無い模様の柄。
鞘から剣を抜くと、鋭い片刃の刃がギラリと輝いた。
手入れもされた、見るからに切れ味の良さそうな剣だ。
「おぉ、立派な剣ですね!これ、貰ってもいいんですか?」
「もちろんよ。我がレオナル家に代々伝わる剣よ。『膝丸』って名前の名刀よ。こういう時の為に大切に保管していたの」
「ありがとうございます。使わせて頂きます」
貰った膝丸を腰に携える。
握った感じがとてもしっくりくる、使いやすそうな武器だ。
なんか名前もかわいいし気に入った。
「ナユタ君、魔法は使える?」
「軽度な怪我の治癒魔法くらいなら使えます。どうも魔法はあまり適性が無いらしくて」
「あらら、意外と脳筋なのね。リルちゃん、魔法は?」
脳筋言われた・・・。
マキノさんが続けてリルティア様にも問う。
「はい、学園で習う程度の攻撃と防御魔法なら使えます」
「学園で習う程度だと護身術レベルね」
「あ、でも回復系は学園でもトップでした!状態異常回復、治癒魔法、浄化魔法、簡単な結界魔法ならある程度は使えます」
え、すごいな。
そんな才能があるなんて全く知らなかった。
執事失格だなこれは。
「へぇ、すごいじゃない。じゃあリルちゃんにはこれをあげましょう」
そう言ってマキノさんが箱から取り出したのは細い銀のブレスレットだった。
ブレスレットには短いチェーンが二本垂れ下がっている。
「これは魔力増幅効果のあるアクセサリーなの。その二本の鎖が大気中の魔素を吸収してくれるの。通常の倍は魔法効果が出るわよ」
「わぁ、凄いです。有り難く使わせて頂きます」
リルティア様は深々とお辞儀をしてブレスレットを腕に付ける。
「それとリルちゃんはこれを持っていって。何かの役に立つはずよ。さしずめ、お守りと言ったところかしら。いつかきっと助けになるわ」
そう言ってリルティア様に首飾りを渡す。
細いチェーンの先に小さな水色の石のついたモノだ。
「私から貴方達に渡せるものはこれでおしまい。あとはお弁当を作ったから持っていってね!」
マキノさんから手作り弁当を頂き、俺とリルティア様はログハウスを後にする。
去り際にマキノさんへお礼を言い、レガシーアイテムを集め終わったら報告に来ると約束して別れた。
「では先を進みましょう、リルティア様」
「はい!」
マキノさん曰く、ログハウスがある地域はシルバーベレス西部にあるリドという村で、領主シモンの居る首都スラブへは徒歩だと丸一日かかるらしい。
そのため中継地点にあるヒューレッドという村で一泊し、翌日スラブ入りを勧められた。
途中お昼休憩を入れながらも夕方近くまで歩き続け、ようやくヒューレッドの村が見えてきた。
「リルティア様、もうすぐヒューレッドに着きます。まずは宿を確保しましょう」
「はい、さすがに足が疲れましたね、はは」
朝からずっと歩いているため、普段弱音を吐かないリルティア様ですらげんなりしている。
ヒューレッド村に着くと、そこは田舎の小さな村というイメージがピッタリの質素で小規模な集落だった。
村人の姿を発見し、泊まれる宿へ案内してもらう。
「一泊でお願いします。部屋は二部屋で」
「かしこまりました。二部屋ですね、ご用意可能ですよ」
元々俺が現金を少し持っていたのと、マキノさんからのカンパで数日分の宿代を支払うだけの所持金はある。
幸いにも宿は空いており、案内された部屋に荷物を置いてから暫く休む事にした。
それぞれの部屋で休んでいると、何やら外から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
窓を開けて外を覗いてみると、数人の若い女性が鎧装備の兵士たちに荷馬車に乗せられている様子が伺えた。
どうやら怒鳴り声をあげているのは村の青年で、兵士3人に取り押さえられている。
対する若い女性達はそれを見向きもせずに、大人しく荷馬車へ乗り込んでいる。
青年の大声に耳を澄ます。
「貴様ら!ユナ達を返せ!どこへ連れて行く気だ」
兵士に抑えられている村の青年が大声で喚く。
対して兵士の1人が青年を嘲笑い
「あきらめろ小僧。コイツらは既にシモン様のものだ。こんな村にいるより、シモン様の下でご奉仕する方が、コイツらにとっても良いだろうよ、ガハハ」
「ふざけんな!貴様らのやっていることは人攫いじゃねーか!いくら領主だからって許されんぞ!みんな、コイツらを倒してユナ達を救うぞ!」
青年が後ろに立つ村民達に呼びかけるが、皆下を向き微動だにしない。
「お、おい!?みんな、武器を持ち立ちあがろう!」
「・・・」
青年の呼びかけに対して、バツが悪そうに立ちすくむ村民達。
「お、おい!村の仲間が攫われそうになってるんだぞ!?」
すると村民の一人の男が
「黙れ、ロズベルグ。ここで領主様に逆らうと俺達全員が罪人になってしまうんだぞ。お前は今の感情に流されて、この子達まで犠牲にするつもりか?」
そう言って小さな子供の肩を抱く。
「くっ・・・。しかし!」
青年は悔しそうに顔を歪める。
一連の流れを見る限り、恐らく村の娘達が領主の元へ連れて行かれようとしているのだろう。
貴族が自らの権威を盾に、平気で平民から搾取する。
非常に胸糞悪い光景だが、今ここで騒ぎを起こす訳にもいかずに傍観していると
「ナユタさんっ、大変です!」
リルティア様が勢いよくドアを開けて俺の部屋に飛び込んできた。
その表情には怒りと焦りが全面に表れている。
あぁ、この展開は予想出来たぞ・・・。
「ナユタさん、今この宿の外でっ」
「ええ、私も見ていました。この村の娘が連れていかれそうになってるみたいです」
「そ、そうです!こんなの公爵家として見過ごせません。今すぐ助けにいきましょう」
やっぱり・・・。この聖女の様なお方が放っておくはずがない。
「ですが、大丈夫ですかね?我々は指名手配中ですよ」
「う・・・。でも、やっぱりダメなものはダメです!私、ちょっと行ってきます!」
そう言って1人で部屋を飛び出すリルティア様。
俺も慌てて帯刀し、リルティア様の後を追う。
宿の外に出ると荷馬車の扉が閉まり、既に出発しそうになっていた。
「その馬車、待ちなさい!」
普段聞かないリルティア様の張りのある声。
それに反応し、周りの兵士達が集まってきた。
俺はリルティア様の前に立ち、近づいてくる兵士達を威嚇する。
すると兵士のうちの1人が
「なんだ女。我々に何か用か?」
先程、そこで項垂れている青年とやりとりしていた兵士だ。
その兵士に対し、リルティア様が毅然と物言う。
「貴方達の横暴は一部始終見ていました。今すぐその子達を解放しなさい。これは公爵家からの命令です」
「こ、公爵家!?」
「はい、私は公爵家次女のリルティア=クロスタードです。私の前で誘拐の様な真似は許しません」
あちゃー、指名手配中なのに自分の名前言っちゃったよ。
コイツらが俺達のことをどこまで知っているか分からないが、場合によっては大乱闘になるな。
だが、こうなった以上はもう後戻りは出来ない。
それに俺だって個人的にこういう輩は許せん。
襲ってくるなら熾天使のギフトで大暴れしてやるよ。
腰の剣に手をかけたその時、荷馬車の前方座席より中年の男が降りてきた。
その男が地に足を着けると同時に、周りの兵達が跪く。
「リルティア=クロスタードだと?前王の忘れ形見が何故我が領土にいるのだ」
黒いハットにタキシード、鼻ヒゲの中年男がリルティア様に近付いてきたのでその間に割って入る。
姿を見るに如何にも気取った金持ち貴族だ。
「どけ小僧。無礼であるぞ。儂はここシルバーベレス領の領主、国王ラングの弟、シモン=クロスタードであるぞ」
首都スラブに向かうまでも無く、ここで早くも真打ちの登場かよ・・・。
コイツが「熾天使の宝冠」の持ち主。
確かマキノさんのメモでは、宝冠は女性用のティアラだ。
さすがにこのオッサンの頭に付いている形跡はないのでちょっと安心する。
「どきませんよ。貴方こそ旧王家の姫に対して無礼ですよ。どうぞお下がりください」
「ふん、生意気な。殺れ」
「「はっ!」」
直後10人程の鎧武装の兵士に周囲を囲まれる。
目を閉じ、思念創造を働かせる。
「熾天使よ、俺に力を貸せ!」
俺の願いに呼応するように身体に強力な魔力が宿る。
王宮で闘った時同様に、身体の中心から不思議なエネルギーが湧く。
「いい感じだ。手加減出来ないから覚悟しとけよ」
地面を強く蹴り、目の前の兵士との距離を詰めると同時に、愛刀膝丸で斬りかかる。
一瞬で兵士4名を斬り伏せる。
「な、なんだコイツの動きは!」
驚いた残り6名の全身鎧の兵士が、一斉に剣を振りかぶり襲いかかってくる。
「遅いよ。そんな動きじゃ俺には当たらない」
6人全ての剣筋を見切り、鎧の隙間を正確に斬りつける。
斬撃が治まると共に、残りの兵士達も崩れる様に地面に倒れた。
「さあ、村の女性達を解放してください。あなた達に勝ち目はありませんよ」
領主シモン=クロスタードに向かい剣を向け、攫った村民の解放を要求する。
正直ここまで力の差があるとは思わず、内心びっくりしているのを隠し、ポーカーフェイスで告げた。
「ほう、やるな小僧。だがお前は儂には勝てんのだよ。のう、我がリルティアよ」
「ええ、シモン様。ナユタさん、剣を下ろしなさい。これ以上の愛しのシモン様への狼藉は私が許しません」
「い、愛しのシモン様!?!?」
いつの間にかシモンの隣にいるリルティア様。
そして、見た事の無い程の冷たい目で、俺に下がるよう命じたのだった。
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