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プロローグ

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「ナユタ、紅茶の用意をお願い」


「かしこまりました、お嬢様。いつものダージリンでよろしいですか?」


「は?当たり前じゃない。いちいち聞かないで」


「申し訳ございません。すぐにご用意します」


「早くしてね」


「どうぞ、ダージリンでございます」


「うん、やっぱりダージリンの気分じゃないわ。甘めのを淹れ直して」


「承知致しました。お取替え致します」


「喉が乾いたから急いで」


俺の名はナユタ=クローゼ。年齢は今年で満19歳。

幼少期から家業の後継者として育てられ、現在は若くしてベネディクス公爵家の筆頭執事として仕えている。


そして今まさに、俺の前でワガママ放題振る舞うお方こそ、俺の仕える愛しきご主人。

公爵家のご令嬢レジーナ=ベネディクス様だ。


今朝もお嬢様のワガママはいつも通り全開だ。

しかし一流執事の俺としては、これくらいの事は些細な事象でしかない。

こんな事でいちいち立腹していては、一流の執事は当然務まらない。

何せ俺は、由緒正しき公爵家に代々仕える執事一族の末裔なのだから。


「どうぞお嬢様、甘さをやや加えたアッサムミルクティーでございます」


「やっぱり紅茶はいらないわ。ローズの店のフルーツスムージーを買ってきて。3分でね」


・・・。こんのクソ(アマ)ぁ。


おっといけない。

俺とした事がご主人に対して、つい汚い言葉を使ってしまった。

お嬢様の喉の管理は執事の役目。

こういう時は急ぎ買いに行くのが筆頭執事としての義務だ。


「急ぎ買ってまいります。暫しお待ちください」


「早くね。明日からは最初から用意しといて」


優雅に、且つスピーディにレジーナお嬢様の部屋を後にする。


執事たる者、いくら急いでいるとしてもご主人の前では優雅に華麗に振る舞うものだ。

だが、一歩部屋を出たらそこは全力ダッシュよ。


「うおおお、朝からめんどくせぇぇえ!」


一人になるとつい言葉に出てしまうが、これが俺の本性。


そりゃそうだろ!

俺だってアイツと1つしか変わらない19歳の青年だぞ。

家業とはいえ、なんであんな我儘くそ女に毎日振り回されなきゃならないんだよ!


誰も見ていないとはいえ、立場上そんな下品な言葉は口に出来ない。

なので心の中で叫びながら近隣のスムージー店へ全力ダッシュする。


息を切らしながらも目当ての店に到着する。

人気店のため朝から行列が出来る程に賑わっていたが、ベネディクスの名前を出すだけで優先的に提供してくれる。


「皆様、すいません。本当にすいません」


並んでいる他の客に後ろめたさがありながらも、目的のフルーツスムージーを手にする。


「よし、急ごう」


帰りも全速力で戻り、お嬢様の部屋の前で乱れた身なりの整頓と額の汗を拭う。

呼吸を整え、爽やかな笑顔で扉をノック。


「お待たせしました、お嬢様。フルーツスムージーでござい・・・」


居ねぇし・・・。


いやいや、きっとトイレだ。そうに違いない。

このスムージーを楽しみに待っていた余り、過度な期待にお腹を壊されたのだ。


一応だが、念の為に廊下を清掃するメイドに尋ねる。


「レジーナ様は先程お出かけになりましたよ。なんでもご学友とご朝食のお約束とかで」


「・・・」


「どうかしましたか?」


「いや、君にコレをあげよう。いつも掃除を頑張っている私からのお礼だ」


「え?はぁ、ありがとうございます?」


「気にしないでくれ」


レジーナの部屋の紅茶セットを無言で片付けてから自室へ戻る。


ふざけんなよ、あの超絶ワガママ放蕩くそ女め!

蝶ネクタイを勢いよくベッドに投げつけ、そのままうつ伏せに倒れる。


おっといかん、またまた取り乱してしまった。

こんなことでは紳士執事の名が廃ってしまう。

目を閉じ、今一度冷静さを取り戻そうと深く深呼吸する。


思い返せば俺が17歳の時に亡き父の跡を継ぎ、ベネディクス家の執事として仕えて早一年半年。

今日に至るまで、こんな理不尽な事ばかりでは無かったてはないか。


お嬢様にも良いところは沢山あったはず。

ついカッとなってしまった事を反省しつつ、今までのお嬢様との良い思い出エピソードを振り返る。


部屋のモノに一切触らずに部屋を片付けろとか。

これは違うな。


お嬢様の苦手な授業の時に女装して代理出席させられた挙句バレたらクビだとか。

これも違う。


部屋に虫が出た時なんかは窓の外で24時間見張ってろとか。


良いところ1つもねぇじゃねーか!!!


頑張ってあの女の良い所を探してみるが一向に見つからない。


俺の家系は代々、公爵家ベネディクス一族に仕える執事家業を生業としている。

幼少期より執事の次期跡継ぎとして、紳士としてのマナーはもちろん、いざという時の護衛としての剣技、格闘術を厳しく叩き込まれた。


親父亡き後、俺がその跡を継いで公爵家に仕える事となり、歳が近いという理由から一人娘であるレジーナ様に仕えることになった。


しかしこのレジーナが、いやレジーナ様だが、親の寵愛を悪い意味で受けまくり、常識とはかけ離れた超絶ワガママ女に育ってしまう。

自分中心に物事が進まなければ、親の権力を振りかざしてでも他を服従させて思い通りにする。

典型的なクソ貴族に育ってしまった。


お陰様でこの一年半溜まった俺のストレスも限界に近い。

何度か心が折れかけて逃げ出そうとしたが、執事一族としての誇りのみで耐え抜いてきたのである。


しかし、そんなレジーナ様だが間もなく他家に嫁ぐ事が決まっている。

ここ聖教国ミラベルを治める王族、クロスタード家の皇太子ギルベルト=クロスタード様との婚約を結びつけたのだ。


レジーナ様は性格こそ最悪中の最悪だが、見た目はかなり美形のため、公爵家に咲く一輪の花として王家の目に止まったのである。


1本1本が繊細で美しいツヤのある赤髪。

パッチリ二重の大きな瞳と白くキメ細かい美しい肌は、すれ違う男達を虜にする。

皇太子様との婚約以前から、レジーナ様の美貌は貴族達の間では噂の的となっていた。


公爵家としては一族から念願の王族誕生のチャンスを勝ち取った娘に対して過度な愛情を注ぐようになってしまう。

その結果がこのモンスターの誕生である。


とは言え、俺としてはありがたい話ではある。

王族への嫁入りが上手く運べば、あの憎きレジーナお嬢様から解放され、妹のリルティア様に仕える事が出来るからだ。


リルティア様は歳にして俺の2つ下の17歳。

レジーナ様とは義理の妹になるが、優しく他人想いの性格で姉とは正反対の立派なお方だ。


ただ、ベネディクス家との血の繋がりは無く、1年半前に亡くなった前王様の一人娘として公爵家で預かっている身。

特にレジーナ様なんかはリルティア様を目の敵にしており、ベネディクス家の中でも浮いてしまっているのが実情だ。


俺が執事として仕える際には、そのお立場をしっかりとサポートして差し上げなければならない。

そう心に誓い、今晩行われる王家主催の新領主様就任祝いのパーティに向け、お嬢様の衣装や持ち物など諸々の準備を進めるために自室を後にした。

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