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異常な日常  作者: 壬生みぶぶ
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第一章:異常

「今晩は、かなり冷え込むでしょう――」

「嫌だわー、春なのに霜降りてんじゃん」

俺の母の甲高い声が朝からキンキンと鳴り響く。例年に比べて今年は異常気象らしく春だというのに厳しい寒波が続いている。

そんな中でも時間はいつも通り過ぎていき、変わり映えのない日々が今日もはじまるのだ。


春、薄曇りの空の下には散り際の桜が咲いている。

校門の周りには真新しい制服に身を包む新入生の姿がちらちらと目に入る。

新年度のはじめといっても、2学年に上がった俺たちにとって、入学式というのはそれほど大きなイベントでなはい。しかし、俺たちの後輩がどのような面々なのかは誰だって気になるものだ。

俺、榊明良(さかきあきら)は校舎に入ると、新入生の居る教室を横目にどんな逸材がいるのかを怪しまれないよう確認する。

本当はまじまじと見たいところだが、同級生に可愛い子探しをしてるなどと思われるのは恥ずかしいので、あくまでチラ見程度にしておいた。

う~ん、今の一瞬じゃわからないか。そう思いながら、今年1年間世話になる2階の2年Aクラスへと足を運ぶ。


「ガラガラ……」

「うぃっす」

自分の教室の扉を開け、友人である武田晴彦(たけだはるひこ)へと適当に挨拶をする。すると、俺の存在に気付いた晴彦はこちらを振り向き、

「おぅ、久々ー」

と、雑に挨拶が返ってきた。

友達がそれほど多くない俺は、晴彦と話すことがほとんどだ。

晴彦は高身長、瘦せ型ということもあって、俺以外の同学年からは『のっぽ』と勝手に呼ばれている。本人はそのことに関して無関心なようで、現状気にしている様子はない。

俺は晴彦の隣の席に腰を下ろした。

朝の爽やかな静寂のなかに、晴彦の野太く低い声が響き渡る。

「あきら、お前さぁ、新入生見たか?」

「チラっと見たけど、ようわからんかった」

「じゃ、朗報だな!俺が登校したときに廊下で新入生の子を見かけたんだけど、めっっっちゃ可愛かったぞ!!」

「へぇ~、そんなに可愛いなら見てみたいな」

「すごいぞぉ~、黒髪ロングが似合いすぎてて、まるで黒髪ロングという概念がそのまま具現化したような透明感があった」

晴彦は女性の容姿に対してとても厳しく、面食いだからその言葉の信憑性は十分あった。特に晴彦は黒髪ロングが大好物であり、廊下で目にした新入生にゾッコン状態であろう。

また、晴彦は好きな話をするとき気分が高揚してオタク特有の圧巻な早口を見せる。その姿は若干不気味だが、その気持ち悪さが晴彦の特徴でもあり、面白みでもあると思う。


しばらく晴彦と他愛ない話をしていると次々とクラスメイトが登校してくる。時刻は8時半過ぎで普段ならそろそろHRが始まる時間になっている。教卓の前には教師が何か話したげにクラス全員に向けて無言の圧をかけている。それに気づき皆が静まり返ったところに一言。

「えー、この後入学式及び、始業式があるので5分後に講堂に順次移動するように。あ、あと移動は静かにな」

とのことだったので、俺は晴彦と講堂へと向かうことにした。

講堂に向かう途中には1年生の教室を横切る必要がある。

そのついでに晴彦の言ってた子探すことにする。

1階へと降り、1年生の教室の目の前を通り過ぎる。そこで、俺は晴彦とともに1年生教室を一生懸命に見渡した。

すると、1年C組に少女はいた。その少女は真っ黒の艶やかな長髪を華奢な肩にぶら下げ、凛としたイメージがある。また、その表情は人形の如く無表情で、どこか儚さも放っている。

素直に可愛い、というかあまりの透明感に澄んだ空気を見ていると錯覚してしまうほどだった。

思わず、俺はその場に立ちとどまりその少女に見とれる

(めっちゃ可愛いだろう!あの美しさはどっかしらの社長令嬢を彷彿とさせるよな~)

(――ん?おい、明良!早くいくぞ)

「あ!すまん……」

動揺してつい声が大きくなってしまった。教室内からの1年生の視線が少々痛い。それでもあの黒髪の少女はただ整然とした態度でこちらを見向きもしなかった――。


講堂の中に入ると、次々と生徒が名簿番号順に整列していく。俺の名簿番号は8番だから縦2列の前から4番目の右側に並んで、式の開始を待っていた。

しばらくすると、教頭がマイクの前に立ち、新入生入場を促す言葉を発する。

その言葉に応じるように新入生が後ろの講堂入り口から次々と入場してくる。

講堂の右端には吹奏楽部がおり、(E.エルガー)作曲の行進曲『威風堂々』第一番を奏でている。

新入生の活き活きとした顔から高校生活に対する期待が見て取れる。

次から次に入場してくる新入生の顔を俺はまじまじと見つめ、どんな人がいるか確認し楽しむ。

すると、例の黒髪少女が入場してきた。

俺は、緊張のあまり尻の穴を引き締め、少女の姿を目に焼き付ける。無意識のうちに鼻の下が伸びてくる。

後ろを向くと、晴彦も俺と同じようだった。

同学年なら接点はまだある方だが、後輩ともなると関わることはまずない。そんな高嶺の花を俺と晴彦は今のうちに堪能することにしたのだ。


数分後、最後のひとりであろう、新入生が入場してくる。顔は……お世辞にもかっこいいとは言えない眼鏡をかけた男だったが、自身に満ち溢れたような表情でズカズカと足を運ぶ。

いかにも、キモオタって感じだな。と内心小馬鹿にするといきなり、そのキモ眼鏡は足を止め――

「俺っっち、文芸部創るので可愛い子猫ちゃんたちおいでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

――瞬間、講堂全域に旋律と今世紀最大の寒波が走った。

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