【08】花天絶景【22】
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ」
ハルルが、その場にへたり込んだ。
──クエスト中一度しか使えないロマン砲!──
そんなポムの言葉を、ハルルは思い出した。
(本当に、とんでもない火力ッスね……)
槍を解装して現れる赤鉄の三叉槍。
50センチほど伸び、突き刺さった場所で内蔵された術式を全て発動し──超高火力の爆発を起こす。
超高火力の仕組みは、……誤作動である。
誤爆。爆発機能をショートさせ、大爆発を起こす。
まさに、ポムの家が吹き飛んだ時の現象。あれである。
槍を相手の体に突き刺し、相手の内部から爆破する。
当たれば、正に必殺の一撃だ。
しかし、爆発機構をショートさせている為、代償として幾つかの機能が失われる。
爆発機能が失われ、三叉槍を槍頭に収納することも不可能。
戦いが終わってから、ポムに直して貰わないとならない。
しかし、燃える三叉槍としては使用できる。
そんな三叉槍で体を支えてから、ハルルは立ち上がる。
そして、槍を握りしめて、動かない蛇竜ワダツノミコを見下ろした。
爆裂により、蛇竜の顔半分は吹き飛んだ。
身じろぎ一つない。
だが、ハルルは直感で悟っていたのだ。
ハルルは息を吸い、言葉を吐いた。
「隙を衝くのは……悪じゃないッス。
戦闘において、隙を晒す方が……悪いんスから」
蛇竜は、動かない。
「だから。死んだふりをしてても……一切問題ないッス。
ただ、一応、伝えようとしているだけなんで」
それでも、動く気配はない。
「今から、……そうだ、三秒後。
三秒数えたら、あんたの首を、落とすッス。いいッスね」
槍を上段に構える。
「三」
腕に力を入れる。
「二」
三叉槍の先端が赤く燃える。
「一」
『っち!! 攻撃をするんじゃないっ! 周りをよく見ろ!』
頭半分失った蛇竜は声を荒げた。
息は荒い。どばっと血の塊がその場に落ちる。
『アッハッハ! 後ろの弟子二人の周りに、水刃の魔法を放った!
百にも及ぶ水刃! お前、攻撃を止めないと、二人の弟子は』
「見えてないだろうから言っとくぞ。
水の刃、計八十二本、全部叩き落としたからな。
つか、百にも及ぶって、及ばねぇじゃねぇかよ。盛るなよ」
蛇竜の言葉を、ジンが遮った。
『はっ?』
「だから、叩き落とした。ハエかと思ったよ」
『ば、ばかなっ!』
「流石……ジンさんッス」
ハルルは振り返らない。
槍を向け、蛇竜ににじり寄る。
『くっ……くそぉ……! 嫌だ、死にたくないっ!』
蛇竜は我武者羅に水の魔法を投げつけてくる。
刃だったり塊だったり。
ハルルは、受け流し、斬り裂き、間合いを詰める。
『嫌だああああ!!』
乱雑に先端の無い尻尾を振り回す。
偶然が重なった。
海水が巻き上げられ、ハルルの目に掛かった。
一瞬だけ止まったハルルに、適当に投げつけられた水の塊が鳩尾に命中した。
二つとも、偶然だった。
「がっ」
よろけた。
片膝をつき、槍で体を支えた。
「ハルル!!」
『あ! ああ!』
チャンスだ。蛇竜は、おおおっ、と訳の分からない声を上げてハルルに背を向けた。
逃げる。戦闘はもう無理だ。殺される。そう判断した。
海へ逃げて、どうにか体を治そう。
死を前にした蛇竜は生きることしか考えていない。
竜人の幼女を攫うのはいつでもできる。今はとにかく逃げなければ。
だが、蛇竜は、海へ飛び込めなかった。
『なんだ……なんだ、この熱……』
両目を完全に失った蛇竜は、温度感知器官で周りを見ていた。
だから、水面に浮かぶその熱が何か、理解するのに時間が掛かった。
「ワダツノミコ様……! リリカは、捧げられませぬ!」
「そうだそうだ!」「リリカちゃんは渡せないぞ!」
村人の声だ。
海で、松明を焚き、皆一様に農具を持っていた。
『くそ、村人が……アッハッハ。ここに来て、掌返しか!
今まで、散々、守ってやったのになあ!』
「……いまだに、我々は恩を忘れてはおりませぬ。
薬や、金銭なら、喜んで差し出しましょう。
ですが……村の人間の命となれば別です」
村長が、そう告げた。
まだ呪いで痛みが続いている筈だが、それでも気丈にそう語った。
『どいつもこいつも……そいつは、人間じゃなく、竜人だ……!
それに、そのガキの親は、この村の人間じゃねぇだろうが!』
蛇竜の怒号は響き亘る。
『ただ難破した船に乗っていた母子だっただろう! 母がその後すぐ死んだ!
そのガキはその時、死に損なったのをお前が拾って』
「……悲しい話です。何故、ワダツノミコ様は、あの船のことをご存じで。
いや、あの夜の事件の時、何故、その船に母子が乗っていたことを知っておられるのですか」
蛇竜は、あっ、と声を上げる。
『そ、それは』
「ハルル様のお弟子さんが持ってきたこの資料は……真実なのですね」
村長は、その紙を強く握っていた。
蛇竜の社にあった資料を、ここに来る前にジンが村長に渡したのだ。
『し、資料……まさか、余の社にあったものを!? くっ!!』
蛇竜は、空気を吐く。怒りの音だ。
『クソが。もういい。もう、お前ら全員、殺してやる!』
「させないッス!!」
蛇竜の背に、槍が刺さり、火が出る。
『あっがっ!!』
「言ったッスよね。隙を晒す方が悪いんスって!」
『クソがあああ!』
振りほどき、蛇竜はハルルへ向き直る。
『お前さえ! お前さえ居なければああああ!!』
蛇竜が向かってくる。
その時、ハルルは──槍を今までにない構え方をした。
さながら、居合。
槍先を左の腰の下へと構えた。
それは──ジンにとって、どこかで見たことのある構えだった。
(ああ。そうか)
ジンは、少し口元を笑ませた。
絶景を攻撃に転用しているだけで、その本質を忘れていた。
絶景は、そもそも防御の技だ。
だから、相手の攻撃を受け流すことも、反撃を取ることも容易。
ハルルは……考えて。いや、感覚か? ともかく。
「花天──……」
『お前があああああ! 居なければあああああああ!!』
「……──絶景」
絶景を最大限に活かせる技──ハルルは反撃に辿り着いた。
音もない横一文字の薙ぎ払い。
その場のジンの他、誰も目で追うことも出来なかった。
『……余が……かみ……』
蛇竜は、息を吐くような、絞られた声を上げた。
「うちの弟子を泣かせる神なら、いらないッス」
ぼとり。
蛇竜の首が、その場に落ちた。




