【08】リリカの行方【17】
夏の夜風が入り込む。空は雲一つなく、星が綺麗に見える。
すっかりと夜だ。夕飯はまだらしいがこんな時間まで眠っていたとは。
お婆さんは少し落ち着かない雰囲気だった。
何かトラブルがあるなら相談して欲しいものだがな。
お婆さん曰く『先にお風呂に入っておいてください』とのこと。
今、ちょうどハルルがお風呂を終えて部屋に戻ってきた。
「あれ。ハルル、お前そんなネックレス付けてたっけ?」
ハルルの髪型がいつもより落ち着いている。
湯上りで銀白の髪の毛が少ししぼみ、いつもより大人っぽく見える。
「これッスか?」
槍みたいなものが飾りとして付いているネックレスを見せてくる。
「それそれ。その槍の飾りの」
「えへへ。これはポムッハさんが作ってくれた槍ッスよ~。
縮小の魔法で持ち歩けるようになってるんス!」
縮小の魔法。ああ、ルキが教えてくれたな。
へぇ。武器を小さくして持ち歩けるなんて、今の時代は便利だな。
「それと、師……じゃなくてジンさん」
誰も居ない部屋でも逆師匠ごっこの意味はあるのか。
未だに疑問だが、ハルルは顔をぐいっと近づけてきた。
「な、なんだ?」
「これはネックレスというより、ペンダントッスよ?」
「何? つか、ネックレスとペンダントに違いってあるのか?」
「厳密には、あるッスよ?」
「マジか!?」
「おお、師──ジンさんにも知らないことがあるんスね。ふっふっふ」
得意げな顔をしやがって。
「まぁ、違いなんて考えたことなかいからな……」
「じゃぁ正解したら、何でもお願い聞いてあげるッスよ~」
……ほう。
絶景──俺の技『絶景』は、走馬灯を応用した技術で世界をゆっくり見れる。
というのは、超高速で思考を加速させた結果の副次物だ。
これを用いて、俺は、過去に手に入れたアクセサリーを一瞬のうちに思い出す。
……よし。
「……飾りの部分がチェーンと一体化しているか、していないか、とかか?」
「!?!?」
「ほう。その反応、正解のようだな」
「せ、正解ッス……え、知ってたんスか!?」
「いや。今まで手に入れたアイテムの共通点から導き出した」
「ぬぅ……。そうッス。厳密に言うと、ネックレスは首に飾るモノの総称っス。
ペンダントは先端飾りが付いているものを言うッス。
これは、武器を先端飾りにしているので、ペンダントとカテゴライズされるッス」
「うっし」
「……そ、そんなに」
「ん?」
「そんなに、したい、お願い……あるんスか?」
……あ。
「い、いや、それは」
「約束、した手前ですし……その。いいッスよ。なんでも」
なんでも。ハルルの頬が柔らかそうだ。
なんでも。ハルルの首筋が。
なんでも。ハルルの。
ハルルと目が合う。
透き通った薄緑色の目が、少し潤んだ。
『すみません。ハルルさん、ジンさん。今、よろしいですか』
扉の向こうからお婆さんの声がした。
少し焦ったようなその声に、嫌な予感がした。
◆ ◆ ◆
「リリカちゃんがいなくなった!?」
ハルルが声を荒げる。
「それに……ワダツノミコの要求がリリカちゃんだと?」
お婆さんから、俺たちは全ての説明を受けた。
ワダツノミコが村長たちにリリカちゃんを要求したこと。
それに村人たちは猛反発し、ワダツノミコと戦闘を行ったこと。
結果、ワダツノミコに怪我をさせて撃退したが、呪いを受けてしまった。
そして、三日後にまた来るから、その時にその子を渡すか死ぬかを選べ、と。
「一応確認ですが、リリカちゃんにこの話は?」
「も、もちろんしていません」
「ですよね。そうなると、ワダツノミコが攫いに来た?」
「三日後という約束でしたが……」
お婆さんが呟く。難しい所だな。
竜種は約束を破らないが、死期に入った竜種ならその限りじゃない。
「まぁ、純粋にリリカちゃんが遊びから戻ってきてないだけかもしれないか」
「そうッスね」
しかし、こんな時間まで一人とは考えにくいか。
「お婆さん。ワダツノミコの住処はどこにあるんですか?」
お婆さんは少し口を噤んだ。
「二ツ山の中腹です。地図をお渡しします」
「ありがとうございます。ハルル師匠には、海の方を頼んでもいいか?」
「え、ワダツノミコの住処に二人で乗り込むんじゃ?」
「ワダツノミコが攫ったとは限らないからな」
「え、そうッスか?」
「ああ。お婆さんの話によると、村人との戦闘で怪我してるんだろ?
怪我した野生動物はたいてい自分の傷を治すのに力を使う」
住処から出るとは思えない。
まぁ、とはいえ、頭がおかしくなった竜の行動は読み辛いから何とも言えないが……。
「了解ッス!」
「よし。後、何か異常があったら知らせろよ」
「はいッス!」
ハルルは真面目な顔で返事をし、部屋から出た。
その後すぐにお婆さんが地図を持ってきた。
その地図に従い、俺は山道を行く。
獣道だ。だが、十分、歩ける。
お婆さんの話じゃ、ワダツノミコは海の竜だ。
それが陸棲。そして魔法も使う。厄介そうだな。
海の竜の種類は、四種類。
魚竜種、海竜種、蛟竜種、蛇竜種。
魔法に長けているのは、海竜種か、蛇竜種。
話の印象じゃ、蛇竜種か? いや、先入観は危険だな。
山に入って数十分。
朽ちた建物が見えてきた。苔生した石の壁。
お婆さんの言葉で言うなら、社ってやつか。




