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【08】リリカと師匠【12】


◆ ◆ ◆


「リリちゃん、良かったわね。お姉ちゃんが出来て」

 お店の恰幅の良い女将さんが笑いながら竜人(ドラゴニア)の幼い女の子、リリカに笑いかけた。

 リリカは、にっこりと優しい笑顔を浮かべながら、首を横に振った。


「ししょぉー!」

「あら! そうだったわね! リリちゃんのお師匠様だったわね!」

 ハルルに抱き着くリリカ。そして、もうデレデレと笑うハルル。


「こんな可愛い弟子なんて、幸せッス」

「あらあら。本当のお弟子さんも中々に可愛い顔とは思うけど」

 俺の方を見て女将さんは笑った。

 苦笑いを返した。


 あ、弟子と言われたことではなく、可愛い顔と言われたことに対しての苦笑いである。

 そう。今は、ハルルの弟子ということにしている。


「いえいえ。うちの弟子は不愛想なので! もう少し微笑んで欲しいくらいッス!」

 ほーう。ハルル。言うじゃあないか。


「でも、良かったわ。リリちゃんと年の近い子、隣の村にしかいないから」

「そうなんスね。意外と大きい島なのに」


 この島には村が三つしかない上に、学び舎がないそうだ。

 だから若い世代は王国本土側に移住してしまい、この村は割と高齢な人が多いそうだ。

 とりあえず、楽しく会話している二人の隣で商品を見る。

 今は、村長の代わりに村に買い物に来ているのだ。

 俺は、村長に頼まれた物の会計を済ませる。

 卵と芋と、干した白魚に、牛乳。それから山菜に……。


「毎度あり! またね、リリちゃん!」

「うん! また!」

 リリカが元気に返事をして手を振った。

 お店の外に出て、リリカは俺の隣にひょこひょこ来た。


「ん? どうした?」

「リリも、持つ!」

「おお。そうか。じゃあ、これをお願いしようか」

 一番軽い紙袋を渡す。

 両手で抱きかかえるようにリリカは持って微笑んだ。


 だが、やっぱり避けられているのか、ささっとハルルの後ろ側へ行く。

 やはり、心は開かれていないようである。


 リリカは親を亡くしてから人にあまり心を開かない、と言っていた。

 村人とは流石に打ち解けているみたいだが、外から来た客人に懐くことはまずないらしい。


「しし──じ、ジンさんが怖い顔だからッスよー」

 師匠、と言いかけたハルルがそんなことを笑いながら言ってきた。


「怖いか? というか、師匠は何も持たないんッスかねぇ」

「えへへ。そりゃ、私、師匠なんで~……じょ、冗談ッス!」

「いえいえ、師匠。どうぞごゆるりお歩きくださいませ」

「ししょぉ。ごゆるり。おあるきー!」

 リリカも真似してそう言った。


 村長は、ああ言ったが、この子自身、そんな人嫌いに見えない。

 意外と打ち解けてくれそうな雰囲気だな。


「もう、冗談ッスよー! 一袋持つッス!」

 俺から一袋ひったくり、ハルルが俺の隣に並ぶ。

 リリカの歩幅に合わせているから、俺たちはいつもよりゆっくりと歩いていた。

 まぁ、ゆっくり歩いているから声を掛けやすいのかもしれないが。


「あっ、リリちゃん! 今日もお手伝い、偉いねー! これあげるよ!」

「リリちゃん。これ、海賊を追い払った姉ちゃんと一緒に食べな!」

「おお、リリカ! これ持ってきな!」

「リリ! リリ! これも勇者様方に食べてもらいなさい!」


 おじいちゃんおばあちゃんたちのプレゼント攻撃が続いた。

「いっぱい!」

 リリカが楽しそうに笑う。


「そうッスね、みんな、リリちゃんにメロメロみたいッス!」

 まぁ、海賊を追い払ったハルル師匠に、感謝してる面もあるんだろうがね。

 村長の家に戻った時には、買い物した荷物が倍ほどに膨れ上がっていた。


 ◆ ◆ ◆


 本日の夕飯は、村長の料理上手な奥さんが振舞ってくれた。

 漁師のパイ(フィッシャーマンズ・パイ)という料理であり、割とメジャーな郷土料理である。


 そういえば、俺も先ほどハルルから聞いて知ったが、漁師のパイ(フィッシャーズ・パイ)はパイ生地を使わないそうだ。

 ソテーした白身魚と他の魚介類を細かくほぐして、ホワイトソースであえたものが中身となる。

 満遍なくグラタン皿に敷き詰められた中身の上に、溢れんばかりの潰した芋と野菜を合わせた物を乗せて、オーブンで焼くらしい。

 個人的にはホワイトソースと魚介の味わいが絶妙な逸品であった。

 今まで食べて来なかったことを後悔した。好きな食べ物の上位にランクインである。


「そういえば、なんで、師匠、ってお前は呼ばれてるんだ?」

 食後、ハルルの部屋でベッドで大の字に横になるハルルに訊ねた。

「え? いや、海賊から助けたからッスよ?」


「いや、そうじゃなくて。なんで、『師匠』なんだ?」

 普通に考えれば、勇者様、とか、おねえさま、とかじゃないか。

 ……おねえさまは、笑っちゃうが。


「あー。多分ッスけど、私と同じものの影響ッスかね」


「……あ? 同じものの影響?」

 言ってることが理解できん。なんだ?


 ハルルが自分の鞄を漁る。ハルルの背鞄(リュック)は、遠出用で小さめだ。

 とはいえ、出会った当初と同じで、パンパンに膨れている。


「これッス、これッス」

 それは、本だ。娯楽小説だろう。

「……勇者レイヴェルドとレピーの物語? つか、このもじり方」

「そッスね! し──ジンさんがモデルッス!」

 ライヴェルグを、レイヴェルドね。なるほどなるほど。

 いや、そうじゃない。


「なんなんだこれ?」

「あれ。ジンさんは知らないんスか?」

「知らんな」


「当時、物凄い流行ってたんスよ? 貸本屋で一週間待ちとかザラっしたもん」

 ……まぁ、ハルルの背鞄(リュック)から出てきた時点で、ある程度想像がつく。


「魔王討伐の勇者である《雷の翼(おれら)》がモデルの小説ってことね」


「そーッス! 中でもこの『レイレピ』はレピーがレイ様の弟子に入門して、一緒に冒険するというお話なんス! で、レピーが」


「レイ様とやらのことを、師匠、って呼ぶのな?」

「そーッス! リリカちゃんもこれ読んでるみたいで、それで私のこと、師匠って呼びたいみたいッス!」

 なるほどな。

 あー……。


「もしかして、お前も?」

「あはは。今考えると、そういう刷り込みがあったかもしれないッスね! でも昔から、弟子になりたかったのは事実ッスよ!」

「弟子ねぇ。募集したことなんか無いんだがな」

「でも、今はこうして、弟子にしてもらえて幸せッス!」

「ったく。……いや、違う。弟子じゃない。従業員な」


 危うく押し切られそうだった。

「えー。弟子でいいじゃないッスかー。もうなし崩しで!」

「弟子は取らないって言ってるだろーが」

「もー。強情なんスからーっ」

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