【08】ししょぉー!【10】
◆ ◆ ◆
別に、ハルルが心配な訳ではない。
確かに無事か心配に思う所はある。
だが、ハルルはナズクルから渡された最新型の無線機? みたいな物も持っている。
いざとなったらそれを使って、誰かしらに連絡する頭はある。
戦闘面でも、『絶景』──時間をゆっくりと視認することが出来る技術──を教えた。
あれがあれば殆どの攻撃を回避できるはずだ。
いや、『絶景』は全体攻撃や設置系魔法には弱い。
看破の仕方を理解している奴も少なからずいる。
……魔王も看破するだろう。
早朝。日が昇り始めた。
落ち着け。
戦闘が行われているとは限らない。遭遇していない確率の方が高いはずだ。
しかしながら……添付されていた資料には、高魔力の反応があった。
つまり、敵性勢力は少なくともいるのか。
くそ。寝過ごさなければこんなモヤモヤした気持ちにはならなかったのに。
というか、西に行く時に馬車で寝過ごした。直近三ヶ月中に二回目だ。
普通職の職員だったら、階級降格レベルの事件だ。
いや、反省は後回しにしよう。
「二ツ島への定期便? 今日は祝日だから昼過ぎまで出ないよ?」
「……マジ、ですか」
「あそこは村が三つくらいしかないから、頻度が少ないんだよ」
昼過ぎまで、待つのか。
今日は晴れている。あの向こうに薄く見える島が、目的の島だそうだ。
場所も分かったし、俺の【迅雷】を使えば雷化して海を越えられるかもしれない。
しかし……俺の【迅雷】による全身雷化を使っても飛翔できる訳じゃない。
端的に言えば、足場が無いと続けられない。
あそこまで一足飛びで行くためには、『全身雷化』で飛ぶしかないだろう。
だが、全身雷化を使っても自分の体を質量を持った雷にするのが限界。
そもそも、全身雷化は危険な技だ。
戦闘中の一瞬ならまだしも、移動に使うのは、肉体が崩壊しかねない。
長時間の全身雷化は、数度だけ、やったことはある。その全てが後悔する結果にしかなってない。
仕方ない。
「……その船、買えます?」
「え、ええ?」
ナズクルから貰った軍資金は、前金で金貨二〇枚。
船っていくらするんだ。いや、いくらでもいいが。
「これで売ってもらえますか?」
軍資金の袋ごと渡す。
「え、ええ!? こんなに!? 金貨十枚以上入ってるけども!? べ、別に、金額的にはいいけども。その船だよな?」
「ええ」
「それで、島まで行こうとしているの?」
「そうですけども」
「そのさ。言っちゃえば島まで行けるようなもんじゃないぞ? 三人乗りの中古船だし。ここから定期便の船で、三時間くらいかかる程度には離れてるし」
ボロとまではいかないが、使い込まれた船だ。
とはいえ浸水している様子もないし、程よい中古という感じだ。
「そこは大丈夫です。無理やり行きます」
「無理やりって……」
「じゃあ、船貰います。心配してくださってありがとうございます」
おじさんに挨拶して、俺は船に乗る。
方向も分かっているし、後は力押し。
「迅雷。雷魔法強化」
迅雷は自身の体を雷化する──だけ、ではない。
雷魔法の強化も行える。
船の後ろ、海の中に手を入れる。
俺は剣がメインだ。とはいえ、魔法が使えない訳じゃない。
「【雷の嵐】」
爆撃のような轟音を響かせ、一気に沖まで吹っ飛ぶ。
船に力を加えて、水面に着水。
おし。一撃で港町がミニチュアに見える沖合まで出れた。
正しい魔法の使い方ではないが、これなら物の一時間も掛からずに到着できるだろう。
◆ ◆ ◆
くそ。途中で海に落ちた。
もう少しで島、っていう時に、大破させてしまった。
何とかなったが……海中でサメと目が合った時はどうなるかと思った。
まぁ、サメはね。微弱な電気にも過敏に反応してくれるから、すぐに撃退出来た。
もう大昔に海に落ちたことがあったからな。その時に、撃退法は誰だかから教えてもらっていた。
後は、迅雷使ったり、泳いだり、飛んだり跳ねたり。
まぁ、どうにか着陸出来て良かった。
浅瀬から、砂浜に上がる。
ずぶ濡れのまま浜辺にあった岩に座る。
上着を脱いで、干す。
夏も始まったことだし、少ししたら乾くだろう。
ぬちゃぬちゃしていて気持ち悪いが……少し我慢するか。
とりあえず、ハルルは無事だろう。
島に付く直前に全景を見たが、争った形跡などは見えなかった。
それと、これは俺の直感だが、魔王との戦闘が合ったような雰囲気ではない。
何か、嫌なモノの気配はあるが……それも今は薄い。
だから、まぁ、無事だろう。
ぼんやりと、海の方を見る。青い空には雲一つない。
波打ち際の透明さが綺麗だ。
ため息が出た。綺麗な景色に? いや。
「まだまだ気配と足音を消しきれていないぞ。ハルル」
「あ、バレたッス。脅かそうと思ったのに」
俺の隣に、銀白のもさっとした髪の少女が微笑みながら座った。
一日ぶりのその笑顔を見て、安堵した俺がいた。
……安堵? いやいや。
「えへへ。朝の散歩に来たら、師匠が打ち上がってたッス。定期便で来るのかと思ったのに」
「はは。流石に寝坊遅刻したからな。力技で来たよ」
「力技! 師匠、本当に何でも出来て凄いッスねぇ」
「なんでもは出来ねぇよ。……ハルル。悪かったな、一人にして」
俺の言葉に、ハルルは驚いたような顔を一瞬して見せた。
「えへへ。何にも悪くないッスよ! ずぶ濡れになったからッスか?
師匠がしおらしいなんて珍しいッス」
「しおらしくってな、お前」
目が合い、それから何が面白かったのか、俺たちは少し笑いあった。
「あ、そうッス! 師匠、報告ッス! えー、三つあるッス!」
「おお。三つか。どうぞ」
「はいッス! 一つ、任務完了ッスー!
昨日のうちに村人の方々に聞き込みました!
ヴィオレッタ一行どころか、この島に島民以外は誰も来てないとのことでした!」
「そうか。聞き込み終えて……。ありがとな」
「いえいえー! 二つ目は、その連絡完了ッス!
連絡時に本部の方から『増員の勇者が到着するまでこの島で待機するように』と伝えられたッス!」
「ああ。待機命令ね。了解した」
「で、最後の一つッスけどー」
「なんだ?」
「えーっとッスね」
とたとた。可愛らしい足音が聞こえた。
森の奥から、走ってくる姿が見えた。
「ししょぉー!」
ハルルの物じゃない声。
どこかで聞いたことのあるワードを舌ったらずで喋りながら、その幼女はハルルに抱き着いた。
長い金髪。あどけない顔。どんぐりみたいな大きい目。
快活そうな顔立ちの白いワンピース姿。
そして、一番目立つのは、その二本の角。
「えーと、えへへ。そのー、弟子が出来たッス」
「……え? 何、どういうこと?」
どう見ても竜族の幼女。そして、弟子が弟子を取る謎事件。
情報量過多である。
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