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【27】欲しかったもの【35】


 ◆ ◆ ◆


 この僕が、本当の最強だ。


 弱点を見破るこの目。

 空間認識能力が高すぎるこの知能。


 誰にも負ける気がしない。

 師匠にだって負けない。ナズクル先輩にも本気でやれば勝てる。


 この僕は。アレクス・O・キャストールは、誰にでも勝てる強い人間だ。

 時を支配し、魔族を討つ。その力があるのだ。

 この僕は。恋と名乗ってからも、誰にも負けない強い人間だ。

 人を支配し、世界を操る。その力があるのだ。


 だからだろう、時が輝いているように見えたのは。


 だから。なのだ。



 輝いた光の、先にある。

 その背。



 師匠の。



 その背中に思う。

 その、小さくも、大きな背中に、思うのだ。



 ◆ ◆ ◆

 


 舞踏の間の壁を覆っていた銀の糸が力を失くして、まるで枯れた蔦のように地面に落ちる。

 魔力の結合を失って、灰のような銀だけがそこに残った。

 覆われた大窓の向こう曙光のような白い光が差し込んだのは、高度の高いこの場所だからだろう。


 光を浴びて銀白の髪を更に輝かし、前を向くハルル。

 光に暴かれ金麗な髪を血に汚して、傷を抑える恋。



 そして、恋の胴から──通り雨のように激しく、ボタボタタッと血が落ちた。



 肩から胴にかけて、決して浅くはない傷が、彼にはあった。


(骨、が……折れた音がした……。内蔵も、傷ついている気がする。……だが、まだ死なない)


 脈打つ鼓動に合わせて、血の滴りが急速に弱くなった。

 それが自身に施した人造半人(デミ)の技術の『再生能力』によるもの。


 ただそれでも、完全には血が止まらない。


 本来なら勝負ありの致命傷(一本)──つまり、致死級の一撃なのだから。


 呼吸する度、肺からゴロゴロとした異音が響く。

 肺の中にも血が溢れているのだと、恋は知る。そして、これは本当に処置しなければすぐにでも死ぬ状態だとも知識として理解していた。

 それでも。


 恋様? そう心配そうな声がした。

 隣には少女が居る。血と土で汚れた金紗の髪と、切り傷だらけの身体の少女。

 そして──その目を失った少女、イクサ。


「……大丈夫だ、イクサ。離れていろ」

「恋、様。でも」

「離れていろ」

「……はい」

 肩を押されたイクサはおずおずと押された方へと進んで行く。


「……彼女を盾にしたりはしないんスね」

「通用しない、からな」

「そッスね。……恋。さん。貴方はもう」


「もう、何だ……? ……もう、止めた方が、良い……だったか? ははっ。

キミの、キミ程度のッ……未熟な太刀筋で……僕を。この恋を、殺せると思っているのか?」


 瀕死の恋を見つめるハルルは、剣を構え直すが──その目に敵意は無い。


 寧ろ、その瞳は不安げで。

 その翡翠の瞳の奥に映るのは。


(……それが……ハルル。その瞳の奥にある物が……キミの弱点だ。

僕は。この恋は。その弱点を突けば──まだ、勝てる)


 手が震えたのは恐怖からでも罪悪感からでもない。ただ純粋に、腕を支える腕力が僅かだった。

 それでも、握り直す。その銀剣を。


「──恋」

「……この恋が。恋を、名乗る前。最終的に、行きついた武器は……戦斧だった。

知っているだろう……しかもただの戦斧ではない……。

奇しくも……実質が、槍のような形の、戦斧さ。皮肉、だな。

弟子二人とも……純粋な剣を継承せず……長い棒型の、戦斧槍を操るとはね」

(まぁ今は……キミは超大剣か)


 暗く笑い、恋は握ったその銀をグルンと回す。


「──斧剣の名前は、破銀ノ女帝(クーニッヒ・アーマイゼ)。詳しい説明は、どうせ不要だろう」


 長い柄。銀の剣身。ハルルの使った大刀と酷似する武器だ。

 槍と剣を合わせたような、破壊力に振った武器の姿。


 これが恋の本命の武器。

 《雷の翼》時代に使われた最高の秘技にして、最大破壊力の武器。

 正真正銘、最後の切り札──。


 ハルルは真剣な顔で武器を構えていた。


「打ってこいッ、ハルル! その武器の大技をッ!」

「……!」


 恋は走る。

 最後の力を振り絞って。


「それを打倒してッ! 僕が! この恋がッ! 最強の勇者だと証明してやるよッ!」

「まだそんなことに拘るならッ! そんな考え事ぶっ飛ばすッス! ──テンプス・フギトッ!」

穹天絶景(きゅうてんぜっけい)!」

花天絶景(かてんぜっけい)!」



 ──時は消し飛び、世界で動けるのはたった二人だけ。



 その集中の中。

 恋は目にする。その聖剣の、変化した姿を。



 赤く滾る長剣の尖端は、騎乗槍(ランス)のように捩じれていた。



 その剣の名を聞かなくても、十全にその武器の能力を想像出来た。


 テンプス・フギトに、爆機槍(ボンバルディア)の力を与えたに違いない。


 爆発する剣で、先端が槍。無茶苦茶な力の塊だ。



 それに、恋は真っ向から対抗する。



 使う技は、練磨した突き技。

 それは、誰でも練習で使うことが出来る。そう教わった技。

 どんな時、どんな場所、どんな角度からでも、狙った弱点を突く為の技。


 時計の針のように確実な歩み。そして、蜂の一刺しのように確定的な一撃。


 ──二人が繰り出そうとする技は、まったく同じ。

 どちらも、同じ人から教わった技。


 その技の名は。




  一針





 戦斧と槍が衝突した。


 砕ける。


 砕けるのは、銀の戦斧。





爆機天剣(ボンバルディア)ッ!!」





 真っ赤な炎と天界の光を纏ったその爆風。


 絶景の中だからこそ、恋の武器が緩やかに蒸発していくが──現実の速度ならば一瞬の出来事。


 これが恋の本命の武器で繰り出された技。

 正真正銘、最後の切り札──。





     ではない。





(馬鹿が──この体力で、こんな武器を振り回しても勝つことは出来ない。

無論、敬意を表して本気で撃ったが、この傷で勝てる訳が無いだろうが)



 ハルルとの真っ向勝負に撃ち負けながら──恋は僅かに笑う。




 恋は二つの罠を仕掛けた。


 一つはイクサに。彼女を追いやった際、その肩に最後に使えるだけの銀糸を這わせた。


 そしてもう一つは、足。自身の足に銀糸を這わせてある。

 どちらも何故準備したのか。答えは簡単だ。


 ハルルの攻撃に撃ち負けた後、奇襲する為。


(イクサは──既にハルルの背後に回っている。位置的に死角。

ずっとハルルとの戦いを見て分析した。ハルルはあの左後ろのサイドが見えていない。

武器の形状上仕方ない。そして今までそこへの攻撃を、この恋は、一切していない。

何故か? 簡単だ、そこが弱点だと教えない為だ。

そして、ここぞという最後にそこを撃つ。

あの会話。あれ自体が符丁(合言葉)。イクサには最初から示し合わせていた)


 故に、これで。

 絶景が消え、時間の流れが戻った。

 それは恋の演技。そして、狙い通りにハルルは恋の前へと来る。




「貴方の弱点は、見すぎることッス」




「──!」


「私の武器も、戦法も、一度立ち止まって必ず分析してくれる。

貴方は弱点を見つけてそれを突くという戦い方に固執し過ぎてるッス。

だから今も──貴方は真っ向勝負を捨てて、必ず弱点を突くと、容易に予想が出来たッス」



 ハルルはぐるりとその場で回る──




「貴方のことを、見ていましたのでッ! 何するかなんか、丸分かりッス!」




 ──背後に回ったイクサを大剣を振り下ろした。

 両断。否──イクサは怪我一つしていない。叩き斬られたのは──彼女の背にあった銀の糸だけ。



(僕を、見ていた、だと)



 恋は、まだ手を隠していた。

 だが、その言葉に──恋は手が止まっていた。


 その脳裏に、ある人物の背中が浮かぶ。

 ずっとずっと追いかけていたその背中。


 振り返って欲しかった。振り返って。



 僕を──




 ──後ろから来た少女が笑いかける。そんな空想が頭を過って。──




 ──ハルルは横目で恋を見続けていた。

 目を離していない。隙は無い。



「──恋様ッ」



 ハルルの腕に、イクサは抱き着くようにしがみ付いた。

 振りほどくことは容易だが、ハルルは振りほどかない。




「恋様っ、今ですッ! 今ならっ! 私ごとッ! 私ごとこの人を」




◆ ◆ ◆

次回投稿は11月15日を予定しますが、

状況に応じて17日中までに投稿させて頂きます。

何卒よろしくお願い致します。

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