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【08】どこだ、ここ【08】


◆ ◆ ◆


 ナズクルの作戦は、各地の潜伏先と思われる場所を本日の夕刻に同時偵察するというものだ。

 まぁ多少なら同時偵察出来なくても問題ないだろう。


 ナズクルの考えでは、偵察範囲をどんどん狭めていき、

 ヴィオレッタという少女の逃げ道を塞ぐのが目的の一つでもある。

 

 そして、俺とハルルが振り分けられた地点は、交易都市から遥か南東に浮かぶ島だ。

 渡された資料をおもむろに見る。遠距離索敵では、高魔力反応を検知したそうだ。

 もし、ヴィオレッタという少女の目的が南の皇国だとしたら、なるほど、この島は潜伏には相応しそうだ。


 こくん。こくん。と視界が動く。

 不味いな。徹夜が響いている。抗えない睡魔が隣に座っているようだ。


 少し寝てハルルに起こしてもらうか、と隣を見る。

 そうだ。今、居ないんだった。


 ハルルとは現地集合になった。

 ハルルは、ポムの所に寄ってから行くとのことだ。


 ポムが作った武器を取りに行くそうである。ポムが徹夜で最後の調整をした最新型の武器……果たしていったい何を作ったのやら。


 ハルルと一緒に行動するのも考えたが、ポムという友人と過ごす時間も大切だろうと考え、俺から先に行くと伝えたのだ。


 実際は? ははは。待つのが面倒だった。


 というのも八割あり、馬車で寝たいっていう気持ちも二割あった。

 港へ向かう馬車に揺られる。


 蹄の一定のリズムも耳心地が良い。

 港へ着くまで、約四十分間ある。これなら少し眠れそうだ。

 大きな欠伸を一つして、俺は目を閉じた。



 ◆ ◆ ◆



「この武器の名前は、『爆機槍(ボンバルディア)』なのだ!」


 細長いドリルのような槍頭を持つ騎乗槍(ランス)がそこにはあった。

 閉じた傘とも思えるようなその槍。よく見れば、その槍頭には隙間がある。

 開けたら中にはまだ何かがあるようだ。


 石突の部分には排気管(マフラー)が二つ付いている。

 槍のサイズはハルルが使いやすいようにか、彼女の背よりかは低い。


「ボンバル……つまり、爆発ッスか」

「そうなのだ! コンセプトは超火力なのだ! 実践して見せるのだ~」

 ポムが持ってきた手甲を身につけた。

 そして、爆機槍(ボンバルディア)の柄から伸びたケーブルを手甲に繋ぐ。


「この手甲とケーブルが大切なのだ。

 手甲は自分の手の保護と魔力の加速装置の役割を持っているのだ」

「……ほー」


「まぁ、実際にやって見せる方が早いのだ」

 ポムは少し重そうに、爆機槍(ボンバルディア)を構え、壁に突き刺した。


「あっ。いいんスか!? 壁に!」

「いいのだいいのだ。それより見ておくのだー!

 右手に魔力を集めるイメージと、そして、放つイメージなのだ!」

 ポムが目を煌めかせて手に魔力を込めた。



    ッシュゥウ……──ドゥン!!



 つま先から髪の毛の先まで響く衝撃音。

 壁一面が、吹っ飛んだ。


「ま! 簡単に言ってしまえば、爆機槍(ボンバルディア)は、爆発する槍なのだ!」

「強そうッス!!」


「強いと思うのだ~! あと、それだけじゃなく、戦法変更(モードチェンジ)もあるのだ!

 貫いたモノを焼き尽くす灼熱の槍にもなるのだ!」

「しゃ、灼熱の槍!? カッコいいッスッ!!」


「後の機能はこの説明書に書いてあるのだ。

 特に最終奥義戦法(モード)は、読みこんで欲しいのだ!

 ドラゴンの角を削り込んで生み出した形状記憶龍鉄を使った大技!

 クエスト中一度しか使えないロマン砲! 絶対に必見なのだー!」


「一度しか使えないって……一体、どんな仕掛け(ギミック)を仕込んだんスか」


「ふっふっふー! びっくり箱は、開ける時を楽しむものなのだ!」

 自分の武器にびっくり箱の機能が付いてるのは、ちょっと嫌ッスけど。

 などと呟いたハルルに、ポムはその槍と手甲を渡した。


「これで、ハルルがカッコよく戦ってる所、早く見たいのだ」

「えへへ。楽しみにしてくださいッス。

 こんなにいい武器を貰えたなら、何だって倒せるッスよ!」

 ハルルの言葉にかぶさるように、『ごーん』と正午をポムの家の時計が告げた。


「あっ。そろそろ港に向かわないと! 本当にありがとうッス!」

「ふっふっふ~! 気にしなくていいのだ! あ、それと。

 その手甲を付けずに爆発はさせちゃ駄目なのだ! 怪我するのだー!」


「了解ッス! では、行ってきますッス~!」

 家の外まで見送る。

 ポムは満足気に微笑み、家の壁にもたれ掛って、ハルルの背を見送った。


 そして、視界がぐるんと空に向く。

 ドミノのようにポムの掘立小屋のような家が倒壊した。


「ま。壁一面が無くなったから、こんなことになる予感はしていたのだ」

 いつものことなのだ。と強がりを呟き、ポムはしばらく呆然と空を見ていた。



 ◆ ◆ ◆



「お客さん。お客さん」


 知らない人の声に、ばっと目が覚める。

「ようやく起きましたね。大丈夫ですか?」

「え?」

「具合でも悪いのかと思いまして」

「あ、いや、違うんだ。すまない」

「良かった。具合の問題ではないのなら、それで。とりあえず、本日の馬車はここで泊まります」

「そうか」


 体を起き上がらせる。

 がっつりと眠ったからか、目覚めはスッキリだ。

 良く寝るって言うのは、大切だな。

 さて。


「どこだ、ここ」


「ここは東の国境付近の町です」

「……交易都市から、出てるな」

「交易都市は昼過ぎには出ちゃいましたよ?」

 そうだったか。


 日は沈み、夜が始まった頃のようだ。まだ薄く明るい。

 俺は、小さく頭を抱えた。


「……やらかした」

 夕刻に偵察開始だった筈。もうその時間は過ぎている。

 仕方ない……今から全力で向かうか。


 ハルルは流石に先についているだろう。

 いやぁ……寝過ごしなんていつ以来だろう。人生初めてか?

 ともかく徹夜は良くない。


 ため息交じりに、俺は空中へ跳んだ。

 

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