【27】ハルル VS 恋 ①【27】
──ハルルの扱う武器は爆機槍十。
正式名称はもっと別だったはずだが、爆機槍十とハルルの頭には登録されている。
名称はさておき──その武器の特性は『変化すること』にある。
ハルルが『十種類の力を自在に使える武器』というアイデアを出し、発明家ポムッハがそれを形にした。
形にする最中、魔王ヴィオレッタと、賢者ルキの二人の力も使われたそれは、現代に現れた神話武器と言っても過言ではないだろう。
仕組みはある意味単純。槍の先端を付け替えて戦う武器である。
内部に組み込まれた小さな先端が、スイッチ一つで替わる。
それもただ付け替えるだけではなく、先端に合わせて槍自体の姿が変化する──『可変魔法機槍』。
それが爆機槍十。
今、ハルルが操る形態は『風双槍』。
一見すれば、先端にリコーダーのような穴が開いた、ただの鉄パイプだ。
だが勿論、ただの鉄パイプではない。その穴から魔力によって高圧化された風を生み出す。
水圧のカッターならぬ風圧のカッター。
地竜の外皮をシフォンケーキのように斬り裂ける代物だ。
(なのに、恋の胴体は泣き別れしてないッスね。
まぁ予想通りッスけど)
ハルルは目を細くした。
恋の脇から腰に掛けて一文字の横線が入ったが──斬り裂けたのは服と薄皮くらいだ。
「っ……この恋に、そんな攻撃が通用する訳が──ないさ!」
「──なるほど。先にその鉄の糸を防弾チョッキみたいに体に巻き付けていたんスね」
ハルルが指摘すると、恋はその笑顔を少し引き攣らせる。
「よくまぁ、すぐに分かるモノだね」
「……──観察と分析は戦闘の基本と叩き込まれてるッスから」
「同じ教えだ。変わらないんだなあ──!」
恋が短剣を振る。それに合わせて壁が裂かれた。
ハルルはその攻撃のネタは分かっていた。
(あの短剣は、糸を自在に生み出す短剣ッス。鉄の強度で、刃として機能する糸。
それを操って戦う。だからこれは、糸を細くして見えにくくした斬撃ッス)
防御はしない。
するべきは──突進。
「なっ、突進だと!?」
「ええ──!」
手の甲を使って爆機槍を一回しする。
「──『音叉金棒』!」
その槍の姿は、鬼の金棒。
豪快な一撃を恋は身軽に避けた。
だが──着地後、恋は異変に気付き、耳を押さえてしゃがみ込む。
「っ──!」
激しい耳鳴り。感覚の異常。
ハルルのその棍棒の持つ能力は『音』。
しゃがんだ恋の目の前にハルルは跳び出し──。
「これで──!」
『なっ、突進だと!?』
──立ち止まる。
ハルルは思い出していた。その、あり得ない発言を。
くるりと手の甲で槍を回して、次は灼熱の三叉槍──灼熱槍に変化させる。
突進。音で気付いたかもしれない。
しかし、確認した。
「……目、見えるようになったんスか」
ハルルは小さく問い掛けた。
その言葉に──恋は肩を震わせる。
「……反射って、怖いなあ。つい口が滑ったよ」
恋は笑っていた。
舌を少し出して、肩を震わせて笑う。
暗い、光の無いその場所で。
彼はゆっくりと目を開けた。
黄色い眼球。
その中に縦に入った黒い楕円。
特殊かつ独特な姿をした瞳。──瞳より、目玉という言葉の方が適切だろう。
「蛇の目玉」
──思わずハルルが口にすると、恋は舌を蛇のように出した。
「そう。その通り。──まぁ目玉の形状は洒落さ。
本当はこの目玉の中に、違う器官を埋め込んであってね。
熱感知器官というんだけど、知ってるかな」
ハルルは肯定も否定もしないが、知っていた。
恋はその様子を見て、鼻を鳴らす。
「熱感知して得た情報を、脳内で映像に処理し直す。
これによってね、凄いのさ。人間の時に見ていた映像が全く同じように見えるッ!
そして、熱感知の視界も切り替えられる。なぁ……凄いだろ?」
恋の腕が動いて不意打ちが来る。
直感的だった。だがその自分の直感にハルルは従った。
「灼熱ん──ッ!」
不意打ちが来た。意識の外から。
集中していた恋の方──ではなく。
──真横。
槍での薙ぎ払いを無理やりに中断し、身体を捻って跳び避ける。
衝き穿たれた地面は振動と炸撃音を上げて捲れあがる。
転がってから足で地面を捉え、ハルルは獣のように攻撃してきた相手を睨む。
「そうッスね、そう言えば居ましたね。──ティスさん」
「……」
ティスはこくりとも頷かず、ハルルを見た。
「一対一と約束した筈なんスけどね。ズルくないスかね」
苛立ちと侮蔑交じりの目を恋に向けると、恋はにたりと笑う。
「約束は守っているさ。実質一対一だしね」
「は?」
「一対一の戦いだよ。ただ、使用武器の制限までは無いだろう?
それは、この恋の忠実な武器さ」
「……カッコつけてドヤってる所悪いッスけど、それただの苦しい言い訳ッスよ」
「はは。そうかな。正式な回答をしたんだけどね」
(二対一……不利ッスね)
ハルルは半歩だけ下がって二人を交互に見る。
『複数人が相手の戦闘時、真っ向勝負で一人ずつ倒すのは非効率だ。だから』
(狙うのは、ずばり)
ティスを睨んだ。
そして、ゴムが跳ねるように飛び掛かる。
「──!」
「『廻装』──」
ティスが鉄槌でハルルの槍を受け止める。
その攻撃を見て──恋は口元を歪めて笑った。
(──はは。人形から殴りに行ったか。弱い方から片づけるか?
しかしその戦法は誤りだ! 力がある人間しか許されないやり方だよ!)
ハルルとティスが鍔迫り合いで重なった、ティスの背中。
(ティスごと貫く)
それを目掛けて恋は、その手の短剣を、槍でも突き出すように突き出した。
「宙貫編糸ざ──ん」
恋の手が止まった。それは、ハルルとティスを中心として急激に。
(白い、煙か?)
音もなく一瞬で立ち上った白い煙。まるで雲がすっぽりと覆ったような
「──『幻灯槍』」
(煙幕の槍か? だが、馬鹿だな。この距離で煙幕をやっても意味がない。
煙の中に居る二人の影が見え見えだ。そこにただ攻撃を──)
「見えなきゃ──騙されなくて済む話だったんスよね」
「──な」
恋の真横。
壁を蹴って恋の真上へと飛んできたのは、ハルル。
拳を握ったハルルが居た。
(な、んで、だ! あの煙の中に間違いなくもう一人の影が! 影──っ)
影。少しだけ明るい煙幕の中。
左手に持っている槍──というか柄は、短刀程の大きさしかない。
爆機槍十は、槍の先端を付け替える武器。
そして能力の核、魔法はその先端にある。
(幻灯槍は使い切りの武器なんス。発動すると先端を切り離して煙と光の映写をするんス。
だから、煙の中に私がいるように相手に見せるッス!)
拳。狙う場所は一つ。
『複数人が相手の戦闘時、真っ向勝負で一人ずつ倒すのは非効率だ。』
『複数人の中で一番強い奴を見つけ出せ。そいつを叩けば部隊は崩れる。だから狙うのは』
「頭ッ!!」
「ぁああッ!」
頭蓋骨が砕けるような音が、その鉄拳で鳴り響いた。
(──っ、まだ再使用出来ないッスね。なら殴るッス!)
「だあああ!」
左拳右拳、顔面に連撃。
「──これで、終わりッスよ! 灼熱槍!」
鋭く放たれた突き。
手応えがあった。確実に突き刺さり骨を打った手応えが。
「な」
「だから……言っただろうに……この恋の忠実な武器だ、って」
──槍が、突き刺したのは。
少女。
その少女の肺の辺りに突き刺さった槍。
赤髪の少女──ティスが、恋の盾になっていた。
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次回投稿は 10月25日 を予定させて頂きます。
この度は投稿日を変更してしまい本当に申し訳ございませんでした。
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