【27】音だけが五月蠅く響くこの世界【26】
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いつも読んで頂きありがとうございます!
10月17日投稿分ですが、多少読みづらい点があった為、訂正させていただきました。
内容に変更はありません。申し訳ございません。
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時が、輝いていた。
足で跳ね上げた小石の粒も、飛び散った血飛沫すらも、まるで空中で止まったように見える。
飛び立った鳥も、虫も、草木の動きも、風も光も。
全てが緩やかに動く。
更に自身の集中を上げれば──この世界の全てが止まったようにも見える。
集中の極致にて見えるこの景色から、この技の名を『絶景』と付けたのだろう。
凄まじい力だ。
勿論、これは選ばれた者だけが使える力──という訳ではないそうだ。
達人と呼ばれる程に武芸を行なえば、あるいはそれ程までに集中をすれば、この極致に辿り着くらしい。だから、割と多くの人間が時間停止のような集中を知っており、そういう状態がある、ということまでは理解している。
しかし、それを技として知らず知らずに使うより、知って行う技とでは差が生まれるのは自明の理。
『──いい技術だろ。『絶景』』
『はい! 凄い技です! 使えるか使えないかで、全然、今まで見て来た世界と違う……!』
師匠の名はライヴェルグ。
ライヴェルグとは歳の差はそこまでない。だから師匠と呼ぶのはニックネームみたいな、遊びのような感覚だ。
師弟ごっこ。だけどそれでも、割と真剣に──師匠を尊敬していた。
それに、この『絶景』。
この技があれば、誰にも負ける気がしない。
『ただ絶景を使う最中は自身も速度が落ちる。だから──』
だから、絶景中に身動きを取る為に、自身に身体強化魔法を掛けなければならない。
しかし、それは簡単に解決した。
なぜなら、この僕は器用だからだ。
その気になれば身体を強化しながら両手それぞれ別の魔法を発動して、その上で剣技まで使える。
半年もしないで、この僕はもう絶景を使いこなせていた。
絶景も3段階に使える。ちょっとだけゆっくりな絶景、スロー再生レベルの絶景、そして、疑似的な時間停止。
誰にも負ける気がしない。
勿論、師匠にだって負けない。ナズクル先輩にも本気でやれば勝てる。
この僕が。いや。
この俺が、本当の最強だ。
だからだろう、時が輝いているように見えたのは。
光も、影も、自在に操れる気持ちだった。
世界の全てを知れたような気持ちになった。
目の前の敵も──魔王の四幹部? 赤翼神? ほざけ、絶景も使えない雑魚じゃないか。
幾ら四翼だろうが、絶景という時間停止が使える僕が負ける相手じゃない。
見ろ。あの目。ご自慢のサングラスが吹き飛ばされて、この僕を見て驚いた顔をしたままじゃないか。
後は簡単だ。さっさと終わらせる。速度を上昇させて、一瞬で首を落とせば──
『──アレクスッ!!』
その次の瞬間を、よく覚えている。
何千、何万回も思い出したから、完璧に覚えているとも。
鉄塊。
僕の目の前にあったのは剣だ。
光を反射した鈍い色の刃が、頬を焼くように斬り、そこにあった。
スロー再生で覚えている。
皮膚を剥がされるような刃の感触。爪で皮膚を裂くような痛み。
突然に目の前に鋼鉄が現れた、その恐怖。
そして、左目。
内側から引きずり出されたようなズリっという音の後に、破裂音が反響した。
続いてそのまま右目にも突き刺さる。
──何で、鉄塊が。剣が、目の前に出て来たと思う?
絶景は、絶景でしか防げない。
その時に使っていた絶景より、更に練度の高い絶景を使われたのだ。
それをすぐに理解した。師匠が、やったのだ、と。
その後、僕はすぐに後衛に下げられる。
聖女ウィンが別働隊だったのもあって運が悪かった。
結果、僕は両目を失った。
ライヴェルグは言った。僕を止める為に剣を突き出した、と。
そして何度も謝罪を重ねていた。
……だが、意味が分からなかった。
止める? 何故?
反撃をしようとしていた? あの赤翼が? 意味が分からない。
だが、その時は言い返すことは出来なかった。
それ程に、身体へのダメージが大きかったらしい。
ただ。
何で、僕の前に、剣を出す必要があったのか。
暗闇の中。立つことも出来ない。朝か夜かも分からない。
こんな世界に、叩き落された。
見えない。
何も、見えない。
ただ、闇の中でも藻掻けば、必ず光があると思った。
治療を続ければ、必ず治ると。
明けない夜は無い。出口のないトンネルも無い。そう思っていた。
『残念ながら──』
暗闇は、終わらない。
聖女で治せないのだから、当たり前と言えば当たり前だった。
目は治ることはない。もう世界を見ることは叶わない。
永遠に。
その事実を、ただ一人で受け止めた。
仲間は──仲間だった奴らは、ここには居ない。
そいつらの活躍は、ただ病院のベッドの上で聞かされていた。
どんどん躍進して、魔王討伐へ向かって行っているらしい。
看護師が僕にそう話してくれた。
世界を平和にする為に、今日も彼らは戦っているんだと子供が語りかけて来た。
そうだね。かっこいいね。
別の日、ルキが魔王の士官を討ち取ったことを別室の人が語っていた。
凄いね、と相槌を打った。
雨の日、ドゥールが長距離射撃で海の上に居た竜を撃ち抜いたと看護師が教えてくれた。
彼はやると思っていたと笑ってみせた。
風が強い日、ナズクル先輩が王国で何とかって言う章を授与されたらしい。
誇らしいな、と言って見せた。
幹部を倒した。要塞を落とした。何千もの命を救った。
凄いなあ。
棒術師と死霊術師と格闘家と鬼姫が加わったそうだ。
新しい連携をしながらまだまだ戦いは続くそうだ。
インタビューとかもされたらしい。
ライヴェルグが色々語っていたり、ウィンが写真を取られたり。
グッズが出来たらしい。本もあるとか。凄いな。
この部隊に、所属していたんだな。
眩いばかりの輝きを放つ。正に、雷。雷の翼。
凄い。
心の底から、思った。
……誰か死ねばいいのに。
光が一つもない世界。音だけが五月蠅く響くこの世界。
一人だけ、この闇の中に置いて行かれた。
時は、もう──輝きを失った。
◆ ◆ ◆
「──自分が不幸だから。辛い目にあったのだから。
光を奪われたから、他人の命を奪っていいと、本気で考えてるんスか」
風を裂くように、ハルルはその握った銀色の棒を振る。
刃の無い槍。それがその武器の現在の姿。
「っ……」
「元弟子と貴方のことを言いましたが、それすら訂正するッスよ。
自分の私利私欲の為だけに大勢を殺し、自分の目を開ける為だけの道具にした。
そんな貴方はただの下衆野郎ッス! 爆機槍十──!」
「言わせておけばッ! 鉄糸ッ!」
風。見えぬ突風の刃が、恋の放った銀鉄の糸を空中に巻き上げ──
「──風双槍!」
──恋の胴に一文字。
赤い血飛沫が舞った。
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申し訳ございません。急なのですが、
次回投稿を 10月23日 に変更させて頂きたいと思います……。
突然の変更で誠に申し訳ございません。
様々、重なってしまい……どうにかしたいと思います。
本当にすみません……。
2025/10/22 1:34 変更
暁輝




