【27】ユウ VS プルメイ ⑤【23】
「う……ウ、ウワー」
仰向けに倒れ込んだプルメイ。
「や、ヤラレター!」
「……」
そのプルメイを、全身傷だらけの男は──目だけ開いて見ていた。
きょとん、驚き……少し違う──何が起きているのか分からないという錯乱と混乱。
状況が飲み込めていなかった。
今、その直前まで、戦闘面ではプルメイが優勢。
ユウが敗北する寸前だった。
「ウアー。強く、なった。……ユウ、やはり……強い、なあ」
「……何をされてるんですか、プルメイさん」
至極真っ当な問い掛けをユウは行った。
「……ふ、ふふふ。実はその」
起き上がりながらプルメイは言葉を吐いて、その視線があっちこっち向いた。
(──勘違いで仲間のことを半殺ししちゃった、なんて言ったら大変なことになる)
プルメイは色々考えた。
(でも、仲間なら、真実を伝えたらきっと許してくれる。
そして、勇者は正しい行いをする者のことを言う。
だから、私は、真正面から謝るべきだ)
「久々に会ったからさー! どれくらいの実力を付けたのかと思ってね! いやー! 強かったぁ!」
ド 嘘。
プルメイ、ここで嘘を堂々発言。
実際、間違っていないかもしれない。
比喩表現ではなく半殺しにされたのだし、ある程度の嘘も必要かもしれない。
「……」
「本気で戦って、その実力を見たかった、のさ!」
「……」
「──手を。さぁ握手しようじゃないか! いやー! 良い戦いだったね、ユウ」
「……」
「技の切れ。10年前とは比べ物にならないねっ! きらっ!」
駄目か。もう駄目か。
プルメイは必死に取り繕ってから、手を握り握手。
なんならそのままハグして見せた。
「ね、ユウ!」
「……」
死んだ魚のような白い目だ。
「さ、一緒にナズクルを討伐しよう! プルメイさんと一緒に、さ!」
「……プルメイさん」
ユウは呟き俯いた。
「…………。はい」
「……僕が仲間だということ、忘れてたんですね」
「……チガウヨ ?」
「目」
「泳いでないよ。クロール、これはクロールだよ」
「プルメイさん」
彼女から握って来た手を改めてユウは握り返す。
強く、強く。
「はい」
「……──ははは」
ユウは笑んだ。にっこりと、ははは、と笑った。
まるで春先、雪解けしたばかりの小川のようにせんせんと爽やかな笑顔。
「は、はは」
釣られてプルメイも笑う。
「間違いは誰にでもありますから」
「! ──ユウ! 分かってくれた!? そう! うん! そうだね!」
あはは、はは。
「殺しかける。なんてことも、僕ら勇者の間じゃよくあることですよね」
「それな! それなー! それな!!」
ははは、ははは。
「ははは、全く。酷い目に遭いましたよ?」
あはは。はは。
「そんな酷い目だった~??」
ははは。はは。
「ええ。全身のありとあらゆる骨の骨折。筋肉断裂に、内臓も酷く痛んでます」
「大丈夫! ヴィオレッタが回復得意だから! ね!」
「魔力加速用の羽も短時間じゃ再生できないレベルで抉られて、顔面も腫れあがってますけどね」
「男前になったよ、ユウ!」
「でも、本気で殺そうとしましたよねー??」
「あ、あははー、手違いじゃんー! 結果死んでない、ということで、大目に見て頂く方向で!」
「そうですか。まぁ、こういうことはよくありますし、大丈夫です。
僕とプルメイさんの仲。仲間ですからね。
これくらいなら、僕は貴方を全然、許しますよ」
「ユウ!」
「プルメイさん」
手を握る。
強く。──強く。
ゆらぁ、っと小粒。ダイヤモンドのような輝き。
「──なんて言うワケ、ねえでしょーが!!
『四暗矛刻』っ!!!!」
対攻城用殲滅魔法。
高魔力により練り出された32000本の氷の槍が重機関銃のような速度で放たれていく。
「ちょ、まッ──ぁあっばっべべっばっばば」
「僕が仲間か忘れてた!? それで殺しかけたッ!?
あっちゃあいけないことでしょうがッ!!
『頭から尾まで凍り付け』!!!」
「がががきぃんぁぁぁぁ」
凍り付くプルメイ。すぐに溶けだすその胴に──ユウ。
「命は一つだッ! 誰もが不死って訳じゃあねえんですよ!! 僕は、本気でッ! 死ぬと思ったぞッ!」
「いや、これは不幸な事故でっ、……ど、どんま──」
「ウラウラウラウラッッ!」
「あべあっばばああぼぉぁあ!?」
拳連撃。
「ウラァあアアッ!! 独釣寒江雪! 溜蓄和了!」
「あ、ちょ、それは、ナズクル倒す用の──」
「深氷頂刻!!!」
◆ ◆ ◆
──見上げた浮遊城塞で、爆発音。
ジンは目を細めた。
「ん。……派手にやってんなぁ」
ほのぼのと目を細めて敵側とドンパチしていることに想い馳せてからジンは改めて乾燥桃が入った紅茶を一口飲んだ。
◆ ◆ ◆
「……不死者、でも……死ぬ、と、思った。マジ、ビビり」
少女に戻ったプルメイがアザラシのような姿勢でそんなことを呟いた。
そして、ユウも溜め息を吐きながら座り込んでいる。
「すみません、ね……あまりにも、あまりにも、だった為」
「はは、ごめん」
「……最初から一言でも謝罪があれば僕とてお仕置きしませんでしたよ……」
「たし、かに。いやー……バレ、ないと、思った。私、嘘、ぱーふぇく、と」
「あれで!? あれで嘘バレないと思っ──痛ッ……」
腹を押さえてユウは言葉を中断した。
「だ、大丈、夫!? 誰に、やられた!?」
「あんただよっ……もう、ツッコムことしないからなっ……痛っう……」
「まぁまぁ。とりあえず、一回、落ち着こう」
「落ち着いてますけど……?」
「落ち、着いてる、人は、最強魔法、三連打、なんかしない」
「……。……恨んでるんだとしたらお門違いですからね?? そっちが先ですからね???」
「冗談。冗談。改めて、一回、ユウ。下戻って、回復、してきたら?」
──大怪我したらヴィオレッタ。
ジンの格言めいた文言だが、割と浸透してしまっているし、理に適っている内容である。
「いや、それはまだ難しいです。……ようやく、フィニロットさんの術技の在り処が分かったんですよ」
「ほう」
「やはり裏切っていたか。まぁそうだろうとは思っていたが」
瓦礫が踏み砕かれた音がした。
鋼鉄の靴。腰に黒鋼色の銃。鋼が巻かれた手甲。
赤褐色の髪の色。鋭い猛禽類のような瞳には、呆れた色を浮かべて苦笑いした男。
「……ナズクルっ」
「ラス、ボスッ!」
「ラスボス……ふ。プルメイ。少し傷つくぞ。久々に会った戦友にラスボスなんて言われたらな」
ナズクル・A・ディガルド。
薄く笑ってからナズクルは二人を見下ろした。
「くっ、どう、して。この、場所にッ」
「……いや、どうしても何も……これほどまでに大音量で戦闘があったら何か来たと思って出てくるのは当然だろうに」
プルメイとユウは顔を見合わせてから「確かに~」と笑いあった。
「……不死者と魔族のエリート。敵に回すと厄介な二人が、これほどまでに損耗が激しい状態で転がっている。
まるで道に黄金が落ちているような幸運だ。拾っていくのが当然だな」
「……はは、ナズクルさん。落ちてる黄金は拾ったらちゃんと届けないと駄目ですよ」
「遺失、物、等、横領罪」
「心配するな──王を裁く法律などない」
ユウとプルメイはもう一度、顔を見合わせて──ふっと、笑って見せた。
「ナズクル──嵌、った、な。私、たちの、作戦に」
「……何」
「こうやって、騒ぐことによって、あんたを誘き出したんですよ」
「……!」
「さぁ。始め、る、よ」
「最強の不死者と元四翼の魔族。凶悪なる連携プレーですよ」
「いいだろう。……やってやろうではないか」
ナズクルの指に力が入る。
立った二人の表情──底の知れない顔をしていた。
((ま、全部、嘘なんですけどね!))
底の知れない顔──当然だ。
現在が──底、なのだから。体力と魔力、底をついた、本物の底。
(これは……さしもの、私も……負け、イベ……。疲弊、マックス)
(駆け抜けよう、プルメイさん……勝てる勝てる、きっと勝てるさ……)
◆ ◆ ◆
いつもありがとうございます!
次回投稿は 10月15日 を予定しております。
よろしくお願いいたします!
暁輝




