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【27】ユウ VS プルメイ ①【19】


 ◆ ◆ ◆


 ──男一人、数メートル以上をノーバウンドで吹っ飛んだ。

 その一撃は少女の膂力(りょりょく)と思えない程の力だ。


 褐色の少女(プルメイ)は着地する。鉄の床に煙が立つ程の急停止。

 くるりと回転し、長い黒髪を振り乱してから拳を構え直す。


 腕程に太い配管と、人一人入れそうな程に巨大な配管を何本も叩き折り、その男は血を吐いた。


「ちょっと、待ってください。僕は、けほ。僕は、敵じゃないですよ」


 ユウ・ラシャギリ。彼の懸命の言葉に嘘は無かった。

 しかしながら。


 プルメイは既に空中に跳んでいた。小柄な少女の引き絞った拳の構え。

 背中に走る激痛を堪えながら、ユウはその構えとその拳を見て、目を見開いた。


(あ、れはッ! ッ! 殺す気かッ!!?)


「『冷守者の楯(スヴァリン)』!」

「『母熊の(アルクトス・)爆発拳(エクリクシス)』」


 甲高い──鋼鉄が圧縮するような音と、地の底から溶岩が噴き出すような爆発的な音が響いた。

 最初の音は、空気中の水分の凝縮と凝固を一瞬で行った際に生まれた空気の圧縮音。

 続いた音は、その氷を膨張蒸発させ消し飛ばした際に生じた空気の破裂音だ。


(──ッ。プルメイさんの拳は、魔力を膨張させて爆発させる拳っ……!

ただ、仕掛けは単純ッ! ただ膨張して爆発するだけだから……ッ!)


 蒸発した水分が白い煙となって充満している。

 その中で──首を左に曲げて、プルメイは立っている。

 闇のように深い灰色の瞳で、じっとりと見つめる(わらべ)姿の破壊者。


「──詠唱、放棄した、低防御力版、魔法。で、──防げる、と。本気で、思った?」


「──」

 ユウが何か反論をしようとした時だった。その口からごぽっと血の塊を吐いた。


(な、にが起きたっ……この、痛み、感覚は……っ。心臓を、拳で叩かれたような……っ)


「私の、拳。その程度の、薄い、楯で。防御、なんて、不可」


(っ。いえ、もうカラクリは分かってますよっ……その拳の魔力を、ただ大きくしたっ!

魔力というものは元々、酸素とか窒素みたいな、姿はあるけどとても小さな物ですから……っ!

楯を殴って壊して、その罅割れから、魔力を飛ばした。というだけっ……。

理論上、可能……っ。しかし、問題なのは)


「プルメイさん……、魔力の操作、下手だったくせに……上手くなりました、ね」


「研鑽。練磨」

 堂々というプルメイにユウは笑みすら零さなかった。


(微細な魔法コントロールが苦手だったプルメイさんが、そこまで精密なコントロールを覚えた。

それが、一番厄介なことです……っ。……です、が)


 一歩踏み出そうとした時、プルメイはその異変に気付いた。

 

(──雪の中に、足が浸かってしまった後の。冷たく痺れたような、感覚)

 プルメイの率直な感想だった。

 左足の感覚が、凍り付いている。


「──『凍傷・氷這わせ』、とでも名付けましょうか。僕の魔法。

足が凍ったような感覚でしょう。

貴方が壊した楯の中に入れておいたんですよ……。僕、こういう小細工魔法、大好きなもので」


「……面倒。こんな、感覚異常」

「プルメイさん。……不幸な行き違いなんです。僕は貴方の仲間です」

「仲、間?」

「そうです。ジンさんたちに確認してみてください。僕は」



「どの口が、仲間、と、言う、のか──ッ!」



 プルメイの闇のような目が、血走り怒りに染まっていた。


「だから本当に仲間なんですって!!」

(これマジに伝達不備だとしたら本気で隊長殺すッ!)


「問答、無用──!」

 飛び掛かるプルメイ。

 その拳、その蹴撃、その頭突き。


 全てをユウはギリギリで受け流す。


(っう! 辛うじて、互角ですがッ。これでは)


 このままでは埒が明かない。

 二人は偶然にもお互い同じ言葉に辿り着いていた。


(流石に、ユウは強い。まだ装纏翼(イデア・アーラ)という魔力を何段階も上げる技を持ってる。

なら、先手必勝だ。私が、先にやる必要がある)


「プルメイさんッ! 敵意は無いんです! 話し合いましょう!」


「……嘘吐き、卑怯、騙し打ち。それが、ユウの本質、だろう」

「っ! いや、それは作戦上必要で皆に嘘を吐いたことは──確かにたくさんありますね」


「ユウには、まだ。──見せたこと、ない」

「……!」


 ──魔族であり魔法や魔力に詳しいユウは、すぐにその異変に気付いた。


 魔力というものには流れがある。

 魔力はよく『血流』に喩えられる。心臓から始まり循環するのが魔力なのだ。


 だが、その流れが──。


(逆流、している。なんだ、その現象は)





「【余命(ライフ・)九十九年(イクスペクタンスィ)】──【執行中断(ホルト)】」





 ──それは、目を閉じてしまう程に眩い銀の光だった。

 長い黒い髪は、更に長く見えた。光の中に立つ()()はその髪をかき上げた。

 黒いローブをその場に脱ぎ捨てる。


 背丈は、ユウよりもある。華奢ではない、だがシルエットは細い。

 見える体の至る所には──美しい筋肉があった。

 肩から腕にかけてのラインは獅子の腕のように美しかった。

 胴回りも鍛え上げられた腹筋。見事なシックスパッドだ。


 軍人か。あるいはマフィアの女幹部といわれたら納得してしまうだろう。


「な──んです。だ、誰ですか、貴方は」


「何を呆けてる。──プルメイ。プルメイ・ルシール・ルーウェンだ。

元の年齢に一時的に戻しただけだがね」

「は、はぁ!?」


「そして。武装も使う。最終決戦以来だ。その相手が、元仲間になるとは……な」


(っ! 呆気に取られては駄目だッ! 急なことで動転したがッ!)


装纏翼(イデア・アーラ)ッ!」

 ユウがその背に翼を生み出す──同時に、プルメイはその手を開いて、一つ、骨を出した。




「我が愛斧(武器)──使うぞ」




 一閃。

 全身の体の汗が凍る程の怖気に──ユウは目を瞑って真後ろに跳ねた。

 それは生存本能による行動で、ユウ自身も何故真後ろに避けたかは理解出来なかった。

 だが、その、理解できない生存本能を──ユウはその次の瞬間に感謝していた。


 背の翼が、一翼。ごっそりと地面に落ちていた。


 それだけで、ユウは目を疑う。

 今使った『装纏翼(翼の魔法)』は魔力を高純度で集めて翼に練り固める。

 そんな翼に触れたら、並の剣は一瞬で沸騰して溶ける。無論、素手なんかで触れれば炭化する。


「……なんですか、その武器は」



 竜の尾のように、うねる──骨。

 扇のように鋭い翼の骨が──まるで雷神の雷鼓のように空中に浮いている。


 それは白く輝く骨で出来た斧の(さき)。楕円の形から、扇にも見える。




「──玖ヶ岐(くがき)八骨(はっこつ)勒往獣扇(ろくおうじゅうせん)國咎(くにとが)




 両手に腕程の長さの骨の斧。

 プルメイは鋭い顔でユウを睨みつけた。


「《雷の翼(家族)》の()を贖う者」


 ユウは引き攣った。


(冗談を、言っている場合じゃない。

これは。この、プルメイさんは、マジに、僕を殺す気、だ──)



「──参る」


(本当に()()よッ!! 参っちまいますねぇえ!!)

 



 

◆ ◆ ◆

いつもありがとうございます。

次回投稿は 10月4日 を予定しております。


ですが、すみません。

10月から人事異動があり所属が変わった兼ね合いで

もしかすると5日投稿に変えさせていただくかもしれません。

その際はこちらに追加で記入させていただきます。

申し訳ございませんが、何卒宜しくお願い致します。


◆ ◆ ◆

いつもありがとうございます。

すみません……。誠に勝手ながら、次回投稿は10月6日を予定とさせて頂きます。

やはり新しい異動先が距離的にも少し辛く……執筆をより計画的に行わせていただきたく、

今回は休載させて頂きたいと思います。

本当に申し訳ございません。なんとか、万全にして頑張りたいと思います。

2025/10/4 0:05

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