【08】才能の無駄遣い:高度なストーカー【07】
◆ ◆ ◆
ルキは壁を背にして爆睡。
そのルキに寄りかかってポムも爆睡。
「この火山窟の戦いの時、ルキさんとサクヤさん、ラピスさんが前面に戦ってるッス。
師匠たちは、山岳地帯で別の敵と戦っていて、この時、ナズクルさんはどうしてました?」
「……んと、えー。見てないな」
「ということは、王国に戻れる可能性があるッスね。何時くらいに開戦したッスか?」
「えー……昼、か。夜か。朝か……」
「真面目に答えてくださいッス」
「わ、悪い。えーっと。どうだったかな」
というか、もう俺も眠くて意識が朦朧としている。
机の上には、『戦闘日報の写本』や歴史書、自叙伝、インタビュー記事など。
ありとあらゆる媒体の魔王討伐の勇者たち──《雷の翼》の資料が置かれている。
全てハルルの自前。
ハルルは手元にあるノートに日時をぎっちり書いて、新しい年表を作っている。
最初こそ、俺とルキも思い出巡りみたいで乗り気だった。
けども、この作業……朝4時現在まで続いている。
ポムは食後に即ダウンした。ああ、前日が徹夜作業だったのもあるらしい。
ルキは0時前には落ちた。
彼女の寝る前の最後の一言が『海苔の上に、たらこ』という謎の言葉で、俺とハルルは声を殺して腹が捩じ切れる程に笑ってしまった。
今思えば、あれが深夜テンションだ。何が面白かったのか、冷静になると謎である。
「そうだ。火山窟から出てきたルキたちに夕日が差してた。
逆算すれば、昼過ぎくらいに火山窟周辺にいたことになる」
「なるほどッス!」
俺たち《雷の翼》と呼ばれる勇者パーティーは、今の勇者ギルド時代でいうなれば『グループ』とか『レイド』というものに属する。
三つ、四つの勇者パーティーが集まって《雷の翼》は生まれた。
偶然からそういうグループになったが、利点である機動力は大きかった。
必要時にはパーティーを分割し、それぞれが別の戦域へ進めた。
特にナズクルは、元は王国軍の騎士団筆頭。
パーティーを分ける時は隊長を任せることが多かった。
その時間数や日数を照合し、ナズクルがいない空白の時間を逆算する。
根気が必要な作業だ。ある意味、途方もないストーカー行為である。
欠伸を一つする。夕食後からずっとぶっ通しで、流石に眠い。
「なんか、付き合わせて申し訳ないッス」
「ん? なんだよ。急に」
「いや、その。私にとって《雷の翼》というチームはすごく特別なんス。
だから、その……夢中になってしまって」
「ありがとな。俺らの活躍、ずっと見ててくれて」
「えへへ。なんか、やっぱり不思議ッスね。憧れの人と今、一緒に居るって」
「憧れってなぁ」
照れ臭いことを平然と言えるのは凄いよ、お前。
「それより、こんな時間まですみませんッス! もう終わらせるッス」
「いいよ。別に」
「え?」
「確かに眠いし、寝落ちするかもだけど。お前が満足するまでやっていいぞ」
元はと言えば、ナズクルが結婚しているか知らないかと俺が聞いたことが始まりだ。
「師匠が、なんでも許してくれるの。ズルいッス」
「え、なんで俺、怒られてるの」
「そのズルいじゃないズルいッス」
どのズルいだ。
「ったく。……お前のそういう笑顔の方が、よっぽどズルいがな」
えへへ、と笑うその顔。
何度も何度も見て、まだ見飽きない。俺は。
「ほら、続けるぞ。火山窟の戦いが終わったのが夕方で、
その日の夜にナズクルは合流するから──」
◆ ◆ ◆
「才能の無駄遣い。という言葉を久々に使わせてもらおう」
「お褒めに預かり光栄だ」
「えへへ、ありがとうございますッス」
「褒めてないよ、無駄労力師弟」
弟子じゃない、といういつものツッコミも億劫になる。
「ジン! 目の下のクマ凄いなのだー!」
「ん……徹夜、久々だったからな」
だが、ハルルはまだまだ元気そうだ。
「そういえば、ジン。聞いたのだ。ジンは《雷の翼》の見習いだったのだ?」
え。俺、見習いだったの?
ルキとハルルが俺に視線を送って来る。オッケー、頷く。
「だからあんなに強い訳なのだ! 納得なのだ~」
なるほど。ルキとハルルがそういう方向に落ち着かせてくれたのね。
ありがたい。なるべく素性は伏せたいからな。了解と目で合図する。
「そ、そうッス! 徹夜のおかげで色々分かったッスよ!」
ハルルがノートを開く。
ページが黒ずむほどの詳細な内容を見てルキは絶句した。
「……凄いな。二人で、そんなに精密な年表を書き出したのかい?」
「えへへ。そッス!」
「まぁ、出発前日に徹夜してやる作業ではないよな。我ながら馬鹿だと思うよ」
「そうだね。ただ、まぁ、キミたちにしか出来ない偉業でもあるけどね……まさかここまで精緻な行動履歴を書き出すとは」
ルキが呆れ顔で笑う。
「いえいえ、厳密に言うと最後の方の一年に満たない部分だけッスよー!」
「でも、俺も驚いたが、意外とナズクルは戦列を離れることが多かったみたいだぞ」
「まぁ他の勇者様方の証言があったら変わるかもしれないッスけどね。
現状確定している空白の時間はこんな感じッス」
隊を分けている時の動きなんて完全には把握していなかったけども、意外だった。
戦闘中以外のほぼ毎日、数時間は空白の時間がある。
俺たちは、『戦闘の日報』と言うものを付けている。
ハルルはナズクルと共に行動が多かったサクヤという女の子──あ、十年経ったからもう女の子と呼ぶのは違うか──の日報を持っていた。
因みに、ナズクル本人の日報は交易都市最大の図書館にも無かったらしい。
日報を俺も読んだ時、記載は無いが一緒に行動しているのだと思っていた。
だが、サクヤの日報の所々で出てくる『その後、ナズクルが合流。戦闘に参加』という一文で、空白時間が確定していった。
「空白の五時間! ナズクルの謎に迫る!! ッス」
「ふむ。仮に結婚していて、四、五時間は家に戻っていた、と」
「転移魔法ならギリ可能かと!」
「ふふふ。面白いな。戻ってきたら、ナズクル本人に突き付けてみよう。仕事せずサボっていた可能性としてね」
「あ、あはは。そ、そッスね~」
欠伸を噛み殺し、俺は銀剣を背負う。
「とりあえず、移動しながら話そう。馬車までは一緒だろ」
「そうだね。キミたちはどっちだっけ?」
「ああ……東だ。ルキは?」
「ボクは西だね。丁度いいから一度、家に戻って準備もするよ」
「あ! そうなのだ! ハルル! 約束の武器、完成したのだ!」
約束? 俺は知らないが、ハルルには身に覚えがあったようだ。
「なんだ、新しい武器を作ってもらう約束してたのか?」
「何言ってるんスか? あの護衛の時に報酬ッスよ?」
少し考えて、思い出した。
そういえば、ポムを護衛した追加報酬という扱いで槍を貰うとか言っていたな。
完全に忘れていた。春終わりくらいだから、二ヶ月くらい前の話だよな。
「ハルル。一度、工房に寄って貰いたいのだ!」
ほぼ毎回書いてしまっており申し訳ありません。
どうしてもお礼が言いたく、後書き欄に書かせていただいております。
評価やいいね、そしてブックマークもしていただき、本当にありがとうございます!
過去のお礼文章は再読の際に読み辛いかもしれませんので、
近日、外して、まとめさせていただこうと思います。
今後も、頑張ります! ありがとうございます!




