【27】約5㎝の隙間【15】
◆ ◆ ◆
俺は、……ハルルという子のことが大切だ。
だから、今後も大切にしていく。
ただ、ハルルという子は、俺より歳が10も下だ。
それで……突飛だし暴走気質だし、危なっかしいことが多い。
だから。つい、口を出し過ぎてるんじゃないかって思ってしまう。
大切にする、ということは過保護にするということじゃない。
と、……俺は思っている。
ハルルが自ら率先して、危ないと分かっていても挑むなら。
それを達成できるように知恵を貸したり、応援すること。
それが……『大切にする』、ということなのではないか。と、俺は考えた。
だから。
……だから、ハルルに任せた。
浮遊城塞の飛行装置をぶっ壊すのには、俺が誰かを打ち上げなきゃいけない。
地上に俺は残らなきゃいけない。
……飛行装置さえ壊れて、高度が下がれば俺も乗り込める。
ハルルなら大丈夫。そう信じること。
それが、大切にする。ということ。……。
俺の思考の中で、誰かに回答を求めることなんか出来ない。
だけど、誰でもいい。問いたい。
これでいいんだよな。
……大丈夫か、と心配することが、戦士への。ハルルへの失礼になる、んだよな。
ださいな、俺は。
決めたと顔だけ見せて……心の中はいつも。
いつも、迷ってばっかりだ。
……迷う思考を停止する為に、今も人を背負って運ぶ。
「強く握らないと、落ちちゃうからさ」
随分と軽い男を背負う。
落ちないように手を握る。
「もうじき野営だから。がんばれ」
◆ ◆ ◆
──そして。
男を野営に運び終わって、外に出ようかと考えた時に……まぁ、驚いたね。
黒い垂髪、褐色の肌。見た目は少女、中身は三十路。
「今、失礼な。こと、考えたね」
圧が、野生の熊のような殺意の圧。とんでもない目をする。
そうだな。俺が失礼した。えー、見た目は少女。中身はレディ。
プルメイ。プルメイ・ルシール・ルーウェン。
……つか三十路かと思ったけど本人曰く《雷の翼》の最年長って言ってたからもしかすると四そ──
「身動き、取れなくても……殺せる、って、知ってる?」
「おいおい、俺は失礼なこと考えてないって」
「だと、いいけど」
野生の動物は人間の心を読めるとか聞いたことあるけど、プルメイはそういう感じだなあ。
ともあれ。
プルメイは山登りに疲れ果てて運ばれてきた。
筋肉鍛えウーマンのクセに、とか思ったが……まぁリアルな所は酸素が薄かったか。
彼女の肉体は8歳だか9歳で止まってるって聞いた。この標高差に耐えられなかったのだろう。
とはいえ、不死性がある為か、身動きが取れないという状態になったんだと思う。
「大丈夫か?」
「でぇじょうぶだ……七個で願い叶える竜玉、で生きけぇーれる」
なんか副音声聞こえたけど聞かなかったことにしとこう。
「休んで治したらいい。もうハルルは打ち上げた。お前は少し休んだ方がいいだろう」
「……」
──プルメイがまた鋭く俺を見た。
「なんだよ」
「どうして、かな、と」
「何が」
「……すぐに、やらない、のは」
動物並の嗅覚か視覚か直感か、ともあれまぁそうなるか。
分かってる、と俺は溜め息を吐く。
「とりえあず、ちょっとくらいはな。あー、寝とくべきかってね。だから俺は少し外に出てくる」
「不服、の、おーけー」
プルメイに背を向けて俺は野営から外に出る。
◆ ◆ ◆
──うっしゃあ、外に出たぞライヴェルグがっ!
僕朕はずっと寝たふりで待っていたのだ!
まぁとはいえ、ライヴェルグは規格外の化物と聞いている。
誇張を嫌うナズクルがそう言うんだから、……マジにガチだろうなあ。
だから十分に外に引き離してから僕朕は行動をする。
つーか、明日とかでいい。今日はもうずっと野営で怪我人のふりをすればいい。
僕朕は、ナズクルが言う『世界を変える力』とか、『大義』とか『正義』とか『悪』とか。
もうそういう『思考自体』がどうでもいい。
僕朕は可愛い子とやれればそれでいい!!
だから、今すべきことは──単純明快!
待つのだ!
この場所で粛々と時間を潰し、このロリっ子が退院するかしないかくらいで襲う!
ついでに周囲の人間とかも全て殺して食い尽くす。
忘れがちだろうけど、僕朕は『なんでも食べれる』のだ。僕朕の術技で泥と変化させればそれを食える。
そして、僕朕の脂肪に変え、脂肪は僕朕の盾にも剣にもなる。
バカでも分かる!
このまま待機でいいのだ。それが最もいい! 最善という奴だ!
僕朕のベッドの隣に、褐色ロリっ子が寝ているが、ここは我慢だ。
我慢すること、それが一番大事──
「──ぬぬ……暑い」
ライヴェルグが出て27秒地点。
──不意に。
「布団、暑し」
気付いた。少女と僕朕の間には布が二枚、掛かっている。
だから、見える。
布と布の間、立ての切れ目、幅、約5㎝の隙間。
少女が布団を足でどかした。
その、食べちゃいたいくらいの小さな親指もさることながら、細い足、膝、脹脛。
脹脛の、先。見えなかった。けど、見えそうだった。
ちらりと見えそうだった、その褐色の深奥。
見える、かも。
そうなったら、見ちゃう。よ。
「暑い……。着、替え」
え。
着替えるの?
え。
ライヴェルグが去って32秒。
──今、騒いだら、きっと殺される。
けど。
はぁ。はぁはぁ。
僕朕は、理性を保てるのか。目の前で行われる、ロリっ子の。
「神官服、黒、ほんと。蒸す」
ごくり。と生唾を飲む。
こっちに気付いていない。
ロリっ子の生着替えッ!!!
やばい! 襲いたい! けど、ここで少しでも変に暴れたらッ! 死! 死ッ!
──どうする、僕朕ッ!
衣擦れの音。
──もどかしい、衣擦れの音が、少しずつした。
◆ ◆ ◆
投稿がずれ込んでしまって本当に申し訳ございません。
次回投稿は 9月26日 を予定しております。
よろしくお願いいたします。




