【27】激しい情動【14】
◆ ◆ ◆
激しい情動を抑えられない。
生き残る為に最善なのは、情動を抑えること。
理解はしていた。彼は愚かではない。
だが、抑えきれない激しい情動が彼を貫いてしまう。
◆ ◆ ◆
──負傷者を助けるのは当たり前のことだ。
だから、ジンは傷を負った男を背負い歩いていた。
「この辺りは道が悪いから揺れたら悪い」
「い、いえ……ありがとうございまひゅ」
(よ、良かった。殺されなかった! いや──そう!
常識的に考えれば、僕朕を助けてくれる。当然、だった!)
その背負った男が、魔族の──それも、パバトだと気付くことなく、背負って歩いていた。
それも仕方ないこと。パバトという少女性愛の変態男は、巨漢。
見た目は脂肪の塊であり見るからに気持ち悪い男だ。
(なぜなら、見た目! 僕朕は今、とても痩せてて、誰か分からないのだ!)
──そう、今のパバトにその脂肪は無い。
ガリガリ。痩せすぎの体型だ。
顔立ちも、いつものニヤニヤと脂ぎった顔ではない。
どちらかといえば憔悴しきったようなこけた顔立ちになっていた。
(僕朕の……術技は、脂肪を使うからね……。
泥化させた脂肪。それ、片っ端から使い切った。ヴィオレッタとの戦闘で……。
くぅ……だから今、戦闘なんか出来る状態じゃない)
パバトはその背で静かに笑う。
(これで、野営に運んで貰えれば、きっとライヴェルグは僕朕を置いて浮遊城塞へ向かう。
そうすれば! 僕朕は野営にいる人間を食える!
まぁ、男を食うのは趣味には合わないが、ともかく食わねば肉を戻せないッ!
肉を戻せれば、僕朕は復活出来るッ! 生き残れる! つまり、勝利だ!)
「痛むか?」
「え、ぁ」
「こんな悪路で山道だ。振動で痛いだろうと思ってさ」
「あ……うん。ちょっと、だけ」
(……っ。な、なんか)
「もう少し体を楽に出来るようにしよう。俺の手を握ってくれ」
(……。…………っ)
ジンは優しく微笑んで見せていた。
──担架を用いない搬送法は幾つかある。
その中で、一人で負傷者を運ぶ時、負傷者を背負うのが一般的だ。
その際、背負った負傷者の足の下に手を通すのが最も楽である。
更に言えば、完全脱力状態の時は、負傷者の手を握ることによりもっと安全に運ぶことが可能だ。
安定し、負傷者を落とす心配も軽減できる。
ジンは強くパバトの手を握る。
「え……//」
「強く握らないと、落ちちゃうからさ」
「あ……う、うん」
ジンの硬い背中にパバトの体があたる。
服の下にある筋肉。
(や……やさし~……///)
顔を赤く──骸骨に皮張り付けたような禿散らかした男が顔を赤らめていた。
乙女も嫉妬する程に、潤んだ瞳の頬がこけ細ったパバトの、顔。
……。
「もうじき野営だから。がんばれ」
「は、はいぃ」
◆ ◆ ◆
──どっこいしょっと、言いながらジンは背負った男を野営の仮設テントに下ろした。
「安静にしているんだぞ」
「は、はぃ~」
湿度の高い目でパバトはジンに答えた。
(……ぶひゅぅッ! あまりにもいい手過ぎてちょっと僕朕の中の乙女スイッチが入ってしまったが!
良かったッ! 目的は、達成したッ! これで、後は何もせずとも治療を受けられる!)
「──協力ありがとうございます。王国の方」
獣人の兵士──医務官と呼ばれた男は丁寧に頭を下げた。
「いや、気にしないでくれ。負傷者が居たら運ぶのは当たり前だからさ」
医務官の彼は敬礼してからパバトの隣に来る。
「? 隊章がありませんが、どこの部隊でしょうか?」
──問われ、パバトは内心で青ざめた。
(やっべ。これ怪しまれたらやっべえ。どうしよう。あ、そうだ)
「あ……ぅ、ぁ」
(言葉出ないフリでやり過ごそう!)
「喉をやられているのですね。分かりました」
「ん? あれさっき喋ってなかったか??」
(ああああ! 喋ってたね僕朕ッ!)
「ほ、砲兵……の」
──獣人の兵士が眉を動かした。砲兵? と聞き返す。
「砲兵隊なんじゃないのか?」
「……砲兵隊なんて隊は無いんですが」
「ほ、歩兵!」
「歩兵。ああ、すみません、聞き間違えました。歩兵の、第何番隊ですか」
「……2?」
「何故疑問形」
「2!」
「……はい。二番隊ですね」
(うっしゃぁ、良かった! 回避したぁあ!)
「で、階級は?」
「……階、級?」
パバトは顔を引きつらせる。
(……獣人国の階級は他の国とは違う、っていうのは、割と有名。
なんか、二等軍人とか、高等官相当軍人とかあるって、聞いた気がする。
た、ただ……どれを、答えれば、いいのか)
「?」
(や、やばい! ライヴェルグもちょっと首を傾げているッ! どうするッ)
「──医務官殿ッ! 急患ですっ! こちらの民間人を!」
「急患。分かりましたすぐに行きます」
パバトの隣にいた医務官の男は立ち上がって入口へ向かった。
(た、助かった……。リアルラックだぁ……! あっぶねえ……)
「ま、これで一安心だろうから、ゆっくり休んで体を治しなよ」
ジンは立ち上がってパバトに微笑んで見せた。
少し頬を赤くしてからパバトは頷く。
(──ああ……やった。やった! 生き残り確定っ!!
ライヴェルグが外に出てくれさえすれば、ここにいる獣人を片っ端から殺して食べれる!
食えば、肉を戻せる! 怪我人なんて数秒あれば5人殺せる!
これで、医務官が戻ってきて怪しまれても何とでも出来るぞ!! よし! よし! よし!!)
激しい情動を抑えられない。
「おい……お前、何、担架でまったり運ばれてんだよ」
「ぬぬ。こんな、ところ、で、出会うとは……。恥ずか、しい、限り」
ライヴェルグは入口でその担架と医務官と一緒に引き返してきた。
(げげ。ライヴェルグ、戻ってくるなんてどうし──……)
パバトの思考が止まる。
目を見開き、担架の上を見て──心臓が跳ね上がったように鼓動した。
褐色の肌、黒い垂髪──華奢な腕。
美しい瞳の、柔らかそうな頬の少女。
(唾液が──止まらない)
生き残る為に最善なのは、情動を抑えること。
(こ、股間が……燃えるようだ)
理解はしていた。彼は愚かではない。
だが。
(一刻も、一秒も早く……ッ! あのロリっ子をぉおおおおおッ!)
抑えきれない激しい情動が彼を貫いてしまう。
(お、落ち着けぇ。パバト、グッピィイ! 僕朕の、超好みな、ロリ!
だ、けども! 今、急に暴れたらッ! 絶対に、ライヴェルグにっ! 殺される訳だぁあ!)
──目を瞑り、寝たふりを決行する。
(冷静になるのだ。そして、確実に、あの子を、R指定に、仕上げるのだ……ぁあ!)
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次回の投稿は 9月21日 を予定しております。
よろしくお願いいたします。
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本当に申し訳ございません。
次回の投稿は 9月22日 に変更させて頂きます。
何卒よろしくお願い致します……。
2025/09/20 23:35 暁輝
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誠に申し訳ございません。
体調不良もあり更新日を遅らせていただきます…。
勝手ながら、次回予定は 9月24日とさせてください。
更新不可が重なってしまい本当に申し訳ございませんでした。
2025/09/22 0:20 暁輝




