【27】楽しい空の旅を【13】
◆ ◆ ◆
──作戦決行より数日前。
「ああもう! 城塞の高度が高すぎるッ!
馬鹿とラスボスは高い所が好きというが、どっちの属性もある場合は超高度か!
成層圏まで飛び出すならもういっそ外気圏まで行ってくれればある意味じゃあ平和なんだがね!」
車椅子に乗った狂戦士──もとい、ルキが叫んでいた。
せっかくの綺麗な夜色の髪をぐしゃぐしゃにして、怒りとも悲嘆とも取れる叫びをあげていた。
「ジンさん。ルキさんどうしたんスかね」
ハルルが心配そうな顔をするので俺は苦く笑って見せた。
「今日も魔法の干渉が届かなかったんだろうな」
浮遊城塞の高度、高すぎ問題。
俺は専門じゃないからよく分からないんだけど、魔法は上空に行けば行くほど威力を無くすそうだ。
魔力はこの惑星の地面に近い方が強いらしい。
宇宙には魔力が無い。という学説をルキが閃いたと言っていた。これはきっと余談だから置いておこう。
「飛行魔法限界さっ! ああ! 最大飛空距離と揚力の新しい関係性は理解出来たがね!
ははーっ! 航空魔法がこれで十年は成長出来たな! しかし今必要なのはそれじゃあないんだっ!」
早口まくしたての上にこっちを見るとは、ロックオンされた。逃げたい。
だが──凄い剣幕だったルキは、急に意気消沈した。
細い指で自分の頬を押さえ、溜め息を一つ吐く。
「……確認出来ている噴流装置は10個あった。
相当に用心深い設計だ。3つは停止させないとボクの魔法の射程内に入らない……」
「外から壊せないのか?」
「あの距離に届く対空砲は存在しないよ」
「そうか……」
「それに、仮に下から攻撃して当たったとして、だ。
壊せる噴流装置はデカい主装置1つ。……主装置を落とせば数時間は低く飛ぶことになる。
だが、残りの装置は城塞の上部。対空攻撃を考えられた設計みたいでね。
まったく……これを作った昔の王国人はどれほどの脅威を想定したんだか。
殆ど病気だ。見えない恐怖に怯えて作り上げた歪なシェルターだ……まったく」
ルキが喋りながら頭を抱えていた。
これは本格的に厳しそうだな。
「……確か、ジンさんって、『星の竜』を討伐したことあったッスよね?」
え? 何そのオシャレな竜?
「……あったね、そんなことも」
ルキが億劫そうに頷いた。
「……なんかそんなの居ましたっけ?」
当事者の俺が質問する。
「なんで本人が憶えてないのかね」
「星の棚引く紐の竜ッスよ! ジンさん!
《雷の翼》時代にアレクス・O・キャストール様との共同作戦!」
……スタウレア……アングイラム……。
いやもう記憶は本編の記憶しかなくて……。
「あー、あれだよキミ。デカいウナギ」
「あ! あれか! 雲の上を飛んでたウナギ!」
もう十年以上前。《雷の翼》の活動の初期中の初期。
ルキが加入してから数週間もしない頃に、そんな魔物が出たことがあった。
「その時の作戦が使えるんじゃないかなと思ったんッスよ!」
「その時の? ──! そうか、その手があったか!」
おお、ルキが元気になったな。
しかし。うん。
「……その手って、どんな手だ?」
「なんで作戦立案者のキミが忘れているのかね!」
いやあ。過去は振り返らないというか、倒した敵が多すぎて何だったか覚えてないというか。
「確か……そうだ。滅茶苦茶に高い所を飛んでたから。俺でも飛べなくて。
まだ術技無かったしな。だから……ああ、そうだ。アレクスに行ってもらったんだ」
「そうッスよ! 人間ロケット大作戦! 必殺・航雷閃ッス!」
ッぁああ……技名はやめてくれッ……なんか、当時の初期の……技名に『~~雷閃』付ける時代が……っ。頭が割れるッ……。
「ジンさんが、アレクスさんを剣の上に乗せてぶん投げたんス!
そしてアレクスさんを雲の上まで吹き飛ばし、アレクスさんはスタウレア・アングイラムをその時はまだレイピアを使っていましたので、構えは王国騎士流でこうザザッと! ──」
ハルルがレイピアを構えるようなポーズをしてから、あっと口を開けた。
ルキは、それだ、と鼻息荒く言った。
「ど、どれだよ」
「つまりね! ジン! キミがハルルを投げて城塞に飛ばせばいいんだ!」
「ほぁ?」
「おお! それ楽しそうッス!」
「楽しそうって……」
「えへへ。空飛ぶの、やってみたかったんスよね! 楽しいかなーって!」
すっげえアンサーだなぁ。
ガチャッと扉が開いた。
「ルキ。お腹、空いた。パン、ケーキを、所望」
「それとプルメイを添えて!」
入って来たプルメイもぽかんとしたが、こうして決死隊──もとい、突撃隊の選抜が終了した。
◆ ◆ ◆
「では行ってくるッス!」
「おう。気をつけてな」
ハルルは木の上に居る。
俺が上空まで吹き飛ばす為に使う技がある。
その抜刀(と言うが鞘付きだぞ)に合わせて、先端に着地して貰い、ハルルを吹っ飛ばす手筈である。
「──相手はナズクルだ。けど目標は分かってるな」
「はい! 目につく高そうな機械を片っ端からぶっ壊すッス!」
「ちょっと違うぞ、エンジン壊せ??」
「はいッス!」
「流石に勝てないと判断したら命大事に戦えよ。忘れるなよ」
「はいッス!」
──まぁ、ハルルなら大丈夫だと俺も信じてる。
鞘を固定した刀を構える。
この技は、本来は対個人の奇襲技。
地面ごと切り裂き、本来の刀の間合いを錯覚させる技だ。
今回は奇襲じゃない。だから、ただ威力を追求する。
腕に、腰に。足に、身体に。
割れんばかりの力を込めて。
「八眺絶景──」
絶景──風の動きが見える程に、時間を緩やかに捉える。
停止したような世界の中で、身体を捩じる。
地面が、火を噴いたように捲れあがる。
「──火吹山」
──捲れあがった地面の最頂点。
ハルルが跳んで、俺に笑って見せた。
余裕ありありだ。まぁ、そうだな。
「楽しい空の旅を」
「はい! 行ってくるッス!」
火炎が立つように──あるいは竜でも飛び立ったかのように──ハルルは真上に飛んでいく。
ルキの防御魔法があるにしろ、危険な行為でこそあるが。
まぁ。それでも。
『空飛ぶの、やってみたかったんスよね!』
──まあ、心配は心配だが、大丈夫だろう。
「……さて。後はプルメイ探して、プルメイを投げようか。その後は俺もどうにかして上に……ん」
なんだろう。あの木陰で何か動いた。
魔法の発動音もあった気がした。……なんだ?
俺たちが来る前に攻撃されていたからな。まだ生存者がいたか?
草むらを掻き分けて進むと──人が居た。
「──大丈夫か?」
アバラが浮き出る程にやせこけた男。青白い体に息も荒い。
剥いだ幹を齧りながら、怯えた顔をしている。
「まだ生き残ってたんだな。良かった。大丈夫だ。あっちに兵隊用の野営がある。案内するぞ」
◆ ◆ ◆
次回投稿日は 9月19日 を予定しております!
◆ 謝罪 ◆
申し訳ございません。
作中の時間を、思い切り間違えていたことが発覚しました……。
11月とすべきところが10月となっていたので、変更させていただきました。
ストーリーは元々決まっていたので変更はありませんが、
冷静に時系列を並べますと、思い切り過去にワープしており本当に申し訳ございませんでした。
以降は無いように気を付けて作成いたします。よろしくお願いいたします。




