【27】ぬぬ。すまぬ【08】
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体力不足。
圧倒的に──体力不足。
その四文字を噛みしめながら、山の中腹で一人の少女が仰向けになっていた。
熊の頭蓋を被る褐色の肌の少女。黒い垂髪を地面に振り乱して、仰向けに倒れていた。
彼女の名前はプルメイ。プルメイ・ルシール・ルーウェン。
元《雷の翼》の勇者の一人。
見た目は少女。頭脳は大人。それがプルメイ・ルシール・ルーウェン。
ある愛情により条件付き不死の少女は──趣味の筋トレは欠かさずしていたが、山登りは別の筋肉だとハッキリ気付かされていた。
(死ぬ……。戦う。前……に。死ぬ……。いや……99歳まで……死なない、ん……だった)
顔はけろっとしている。だが、汗まみれだ。
……見た目は辛そうではないが非常にしんどいようだ。
(元々……雪、国……育ち……。褐色だけど……冬世界……うまれ……には、きつい)
プルメイは自分の生まれた場所に対して恨みを内心で思っているが、実際はただの運動不足である。
実は数時間前。
『山? 余裕。登れる。余裕。の、よっちゃん』などとプルメイは豪語していた。
が実際は、こう。
(隊長と……ハルル。ちゃんに。心配される。レベル……いや、あの二人、足腰。異常……強すぎ)
プルメイは仰向けのまま息を整える。
(後で。追いつく。と言った。けど。これは……うん。うん)
見上げた空で──浮遊城塞が黒煙を上げた。
対空砲が叩きつけられた瞬間だった。
(……ぬぬ。……早く、隊長。追い付かないと……『プル・ハル突撃作戦』が……っ)
身体を伸ばす。立ち上がる。
そしてそのまま俯せに倒れ込む。
(……。ぬぬ。すまぬ)
──プルメイ。あざらしのように目を閉じる。
◆ ◆ ◆
「この空域へ攻撃することなど不可能だ──とかドヤ顔で言ってなかったっけ!?」
『すふーッ!! 防御術式抜かれましたァッ!! 続く砲弾も命中ーっ!!
飛行ユニットに影響出てまーーーすッ!!』
──壁に頭をぶつけて怒鳴るルクスソリス。響くアナウンスでスカイランナー。
警告音鳴り響く浮遊城塞の制御室。
「は、はは……ナズクルさん。
忘れがちでしたが、僕らの隊長ライヴェルグさんは週刊誌のギャグマンガ出身ですよ。
物理法則無視して生きているんですよ。僕らは硬派な文芸作品ですが」
犬神家の体勢でユウが呆れたような皮肉な顔で笑う。
至る画面全てが赤く光り、その中心に居たナズクルも額をぶつけて僅かに血を押さえつつ頭を抱える。
「っ……。笑えない冗談だ……。お前が硬派な文芸作品というのが特にな……。
だが、そうだった。物理法則無視は、あの隊長の専売特許だったな……くそ」
ナズクルが頭を振って画面を確認する。
「高度が落ち続けているな……」
「あーあ。墜落って感じー?」
ルクスソリスが自身の髪をくるくるしながら興味無さそうに呟いた。
「いや、浮遊装置一機が破損しただけだ。まだ飛べる。だが。
映るライヴェルグ──もとい、ジンを見た。
「──山の高さまで下がれば、アイツなら跳んでくるな」
「そんな馬鹿な……って言いたいですが、やりかねなくて恐ろしいですね」
『すふふっ! ナズクルさん! 準備完了ですよッ!』
「なに?」
『回収弾! いつでも打てますよッ! すふふ!!
これならあのバケモノでも一撃でKO出来るでしょうっ! すふふふ!!』
「いや、撃つな。アイツに砲撃なんか──」
──シュボッ
『あー……。なんというか、えー。あれ、ワタスシ、何かしちゃいました??
ボタンが勝手に』
「……ナズクルさん。あれもう狙撃手下ろした方が良いですって」
「そうだな。本当に俺が愚かだった。仕方ない。狙撃がそれなりに得意な奴に代わって貰うとするか」
『なんかすみません』
「……スカイランナー。全速力で次弾装填だ。間に合わなければ、この城塞が落とされる。
死ぬ気で準備しろ」
『い、いぇっさあ!!』
◆ ◆ ◆
「貴方達は……本当に凄い方だ。すまない。助けられたよ」
「いえいえ! 凄いのはこちらのジンさんッスよ! 私は何もしてないッス!」
「いや救助の手際が素晴らしい。同胞たちを助けてくれて助かったよ」
──獣人たちが倒れている火と土に耕されてしまった山頂。
山の側面側に居た獣人国の別働隊が合流し手当てを始めていた。
「えへへ。お任せくださいッス!」
ジンとハルルも生存者を救助していた。
その最中だった。
ジンが米俵のように持っていた獣人3名をそっと地面に降ろした。
「ジンさん?」
「ほー。──ナズクルの野郎。ヤキが回ったか?」
彼は空中を見上げる。そしてあきれ返った声を上げた。
ハルルも真似て空を見上げる。
そして──青ざめる。
「ジンさんっ!! あれは! ヴィオレッタさんが言っていたッ!!」
「ああ。だな──回収弾って奴だな」
黒い水晶のような砲弾。
それが──落下してきている。
上空にあるのに巨大さがありありと分かる異質な存在感。
「! あの爆弾だッ!」「み、みんな逃げろぉお!」「落ちてくるぞぉお!」
緩やかに落ちてくる砲弾を見て、その場で動けた獣人たちが悲鳴のような声を上げた。
「貴方達も逃げろっ! 負傷兵より貴方達が──」
「いや気にしなくて大丈夫だ」
ジンが首をこきこきと鳴らす。
そして腰の刀を鞘ごと持ち、鍔と鞘をぐるぐると布で巻く。
軍人が錯乱した顔をするがそれもお構いなしで、ジンは刀を握った。
その構えは異形。
両手で持った刀を後ろに引いて、左足を前方にし少し足を開く。
理想的な攻撃──否。
「──『八眺絶景』。対飛竜戦想定『雷雲』を改め。突進攻撃反撃技」
腰を捻り、向かってくる打球に狙いを合わせる。
それは理想的な打撃姿勢。
そのまま空中へ──跳ぶ。
「『弾撃返球』ッ」
──見事な振り。
衝突音は天高く響き、砲弾が震える。
「うらッ!」
最早、見ている者たちが絶句する光景だった。
その家程ありそうな巨大な砲弾が──撃ち返されてしまった。
「お見事ッス! これはもう落としたんじゃないッスか!?」
「いや──流石にまだみたいだな」
直後。城塞から同じ物が発射され空中で爆散する。
「結果は目に見えてたんだがな。さては撃ってる奴とナズクルは連携できてないな」
「ジンさん! この後、どうするッスか? プルメイさん待ちます??」
「待ってもいいな。でもなんかあの城塞、ちょっと混乱してる感じにも見えるよな」
「確かに。チャンスにも見えるッス!」
「どうする? 行くか、先に?」
「……そッスね! 行っちゃいましょう!」
ハルルは、リュックサックからゴーグルを取り出した。
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次回投稿は 9月7日 を予定しております。
……しかしながら、9月5日、本日、親知らずを抜く予定です。
人生初めてで。もし万が一、激痛過ぎて書けなかったら、またこちらに状況を記載します。
……親知らず……痛い、のでしょうか……未知との戦いです。がんばります。
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次回投稿ですが、すみません、9月9日に変更させていただきます……。
親知らず、ギリギリ腫れはしなかったのですが喉に違和感が凄く集中が出来ない状態です……。
申し訳ございません……。
徐々に治っている感覚はあるので、9日には投稿できると思います。
何卒よろしくお願い致します……。
2025/09/06 20:54 暁輝




