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【08】ジンの家にて【06】


◆ ◆ ◆



「そうだね。中々コンパクトに纏まっていて、とても過ごしやすそうだね」


「ルキ。素直に狭苦しい家だと言っていいんだぞ……」

 ナズクルとの作戦会議は終わり、現在は交易都市に戻ってきた。

 作戦実行は、明日から可能な限り迅速に開始。


 前に約束した通り、ルキが家に来たいとのことだった。

 幻滅するから止めておけ……と伝えたがゴリ押され、現在に至る。


「いやいや。あの頃の野営みたいで毎日が楽しそうじゃないか」

 心から楽しそうに笑顔のルキ。

 比較対象、野営か。

 悪意でも嫌味でもないのだろうけども、まぁ、現在住んでる家のスケールが違うもんな。


「このベッドが二人でいつもイチャイチャする時用のベッドか」

「イチャイチャしてねえっての」

「ポム含めて四人か。ボクの車椅子は片付けておいた方がよさそうだね」

 台所(キッチン)の辺りに止めてある車椅子を横目に、ルキは言った。


 今、ハルルがポムを迎えに行っている所だ。

 我が家に四人は確かに手狭だ。


「ああ。そうだな。じゃあ、ベッドの上に積むわ」

「大丈夫。縮小の魔法で一発解決だよ」

 ルキが指を振ると、車椅子がみるみる小さくなる。

 まるで玩具みたいな手のひらに乗るサイズになった。


「すげ。まるで魔法みたいだ」

「ふふ。魔法だよ? ジンは魔法使わない人だったかい?」

「いや、戦闘用の魔法以外はあまり知らないからな」

「ふむ?」

「俺の知ってる魔法は、殺傷能力が高いやつばかりだから、そういう、なんていうんだ、便利魔法? は知らなくてな。ファンタジーの魔法みたいだと思っちゃうんだよ」

「なるほど。ということは、ジンは生活魔法は使わないのかい?」

「生活魔法?」

 俺が問うと、少しの沈黙が流れ、ルキは苦笑いを浮かべた。


「キミ、戦争の後は本当に世の中と隔絶して生きて来たんだね」

「おかげさまでね」

「戦後、勇者法が策定されたろ。

 民間人非武装の原則とか、公共魔法使用規制とかは知っているだろ?

 字面の通りの規制だけども」


「流石に知ってるな」

 特に、『民間人非武装の原則』を俺は忠実に意識している。

 簡単に言えば、王国民は武器を持たないことを明確に記載された原則だ。

 そして、勇者資格を持つ者は、武器を持っていいことになる。


「民非武に反すると、『俗に言う賊』になるんだよな」


「……」

「……」

「あー、ボクらの隊長は流石、知的応答(ウィット)に富んだ会話を」

「忘れてくれ」

「ふふ。知ってるかい? 歳を取ると上手いことを言いたくなるらしい。

 昨今の研究では脳のブレーキが利かなくなった暴走みたいなもので」

「科学的に老化を説明するのは止めよう。マジで」

 まだ26だし、俺。まだセーフだし。


「ふふ。さて、話が逸れたが、公共魔法使用規制も似たようなもの。

 新しく区分された生活魔法は、公共の場でも使用していいことになる」


「ほう。灯りの魔法とか、飛行魔法とかか?」

「飛行魔法は勇者の階級ごとに使用の可否と高度それから速度も決まっているそうだよ」

「マジかよ」

「大マジさ。まぁ、都市や町村の中と上空だけね」


「はぁー……そりゃ、随分と面倒な世の中になったなぁ」

 時代が変わったんだろうか。

 まぁ、確かに町の上空を高速移動して衝突したら大事件だもんな。

 安全性とかを考えたら、規制や法律がどんどん施行されていくんだろう。


 あれ。そういえば。

「ルキって勇者資格、持ってるのか?」

「ん。あるよ。ほら」

 何もない虚空から一枚のカードを取り出した。

 裏面が艶のある黒。派手すぎない金の装飾。

 その時点で既にハルルの持っていたカードと色が違うんですが。


 名前:ルキ・マギ・ナギリ

 性別:女 階級:AA級 系列:魔法


 写真付きの資格(ライセンス)カードだ。

 他にも血液型や死後の対処のことまで書かれている。

 いや、それより。


「階級、AAなのか?」

「そうだが?」

「そうなのか。なんか、SS級が飛び出すかと思って身構えていたんだが」

「ふふ。前にも話したが、ボクはもう戦闘員じゃないよ。ただの辺境の女学者だよ」

 ふむ。

 俺は腕を組んだ。


「凄く不服そうな顔をして、どうしたんだい?」

「なんか、悔しいようなイライラするような気持ちだ」

 俺が言うと、何故かルキは笑った。


「別に階級イコール強さじゃないさ」

「そうだが。ナズクルがルキをAAとしたなら、なんだかなぁ、って思う」

 凄く言語化し辛いモヤモヤである。


「別に、ナズクルが階級を決めてる訳ではないだろう?」

「それもそうだな」


 そうだ。ナズクルと言えば。

「なあ、ルキ。ナズクルのことなんだが」


「ふふ。大丈夫だよ。あれとは昔から馬は合わないが、有事に裏切ることはなしないよ」


「あ、それは別に心配してない。二人とも切り替えられるだろうから。

 それじゃなくて、ナズクルのこと、知りたいんだが」

「……ナズクルのこと?」


「ああ。あいつ……結婚してたのか?」


「……え?」

「偶然、見ちゃってさ。

 礼服姿のナズクルと、その隣にいた知らないドレスの女の人の写真があった」

「いや……あれが妻帯者とか無いだろ」

「あれって」


「というか、結婚したなら何かしら言うだろ。ボクらには」

「そうだよな。……じゃあ、魔王討伐隊の前に結婚してたとか、無いか?」

「指輪とか付けてなかった気がするが」

「そうだよな」


「でも。ありえなくはないか。魔王討伐の旅の途中、ナズクルとはそういう話題はしてなかった」

「俺もそうなんだよな」

 ふと、ハルルの顔が浮かぶ。歩く魔王討伐勇者のデータベース。

 ハルルならもしや。



「何やら面白そうな話が聞こえたッス!!」



 ばーん! と扉を開けハルルが生き生きとした顔で入ってきた。

「タイミング良すぎだろ」


「扉の裏で聞き耳立てていたんッス!」

「え、マジか。いつから?」


「『すげ。まるで魔法みたいだ』ってくらいからッス!」

「結構前だな!」


「ハルルが面白い話聞けるかもしれない、って言ってたから隠れていたのだー!」

 ハルルの後ろからひょっこりと焦げ茶の頭が顔を覗かせた。

 物理的に一部焦げた髪が特徴的な、ポムだ。


 ハルルより背が低いポムは、久しぶりなのだ、と俺に挨拶してから、ルキに抱き着いた。

 台所からズリズリと音がする。ハルルが木箱を引っ張ってきた。

 木箱を椅子代わりにして、俺の隣にハルルは座った。


「ナズクルさんが結婚していたのか、詳しく遡ってみましょう!」


 水を得た魚のように、らんらんと目を輝かせている。


「お、お手柔らかに頼む」

いいねや評価、本当にありがとうございます!

こんなに応援していただき、本当に嬉しいです!

まだ暫く物語は続きますので、お付き合い頂けると幸いです。

何卒、よろしくお願い致します!

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