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【27】どっこいしょっと【07】


 ◆ ◆ ◆


 ──浮遊城塞内。城塞の操縦室とでも言うべき制御室。

 ガラスのような映像受信画面が無数に浮かび、城塞周辺や各地域を映し出している。


 飛ばした浮遊監視の眼(ドローン)の映像をここに受信する。

 戦場をリアルタイムで観察し指示を出すことが可能。

 何世代も先の技術が詰まったその場所で──ナズクルは目を丸くしていた。

 

「モーヴェンがやられたのか」


 端的すぎる報告だった。

 中央のガラスの画面に映る映像──ヴィオレッタが数十名の勇者たちを薙ぎ払った瞬間を見る。

 その中にモーヴェンの姿が無いことから、それは事実だと分かった。


「あははー、みたいですよ。ヴィオレッタ登場と同時に即撃破みたいです」


 ユウは呆れ半分困り半分の笑顔で笑った。


「録画機能でもあればよかったんだがな。開戦数分でやられるとは」

「数分じゃなくて数秒かもしれないみたいですがね」


「なーんだ。おじいちゃん意外と弱っちいのね。もっと活躍してくれると思ったのに」

 隣で聞いていた羊の毛のような髪の女──ルクスソリスが詰まらなそうに言う。


「……そうだな。足止めの予定だったんだが」

「まぁ仕方ないですよ。で、どうします、ナズクルさん。

まだ残りの兵が足止めは出来てるみたいですけど」


「どうするとは?」

「増援ですよ、増援。ヴィオレッタと隊長ですよ。よければ僕、行きますけど?」

 ユウがそう言うとナズクルは指を組んで目を細くした。


(……ユウか。……しかし、ユウを動かす気はないな。

それよりまず、考えるべきは何故2人で攻めて来たか、だ。

機動力を生かす為か? 確かに二人なら、2000人なんて数は()()()()()()だろう。

しかし、正面から来るか? 向こうにはルキもいる。昔の仲間(プルメイ)も合流したと聞いている。

陽動や奇襲は容易い筈だが……。そうだな)


「どうしますか、ナズクルさん?」

「……陽動の可能性が高い。だが、放っておけば前線が食い潰される。

仕方ない。──パバト。出てくれ。前から要望していたヴィオレッタが最前線に……ん」


「おや。パバトさん……居ませんね」

「あ! そういえばさっき。あのデブ、ヴィオレッタが前線に居るって聞いて部屋出てってたわ。

もう勝手に行っちゃってるわよきっと」


「……まぁ、結果采配は変わらないが」


 ──不意に一つのガラスが赤く光る。

「? ねー、ナズクルー。なんか『だんじゃー』って表示されてるわよ」

「『DANGER(デンジャー)』だ。危険信号という意味だが……」

 ナズクルが視線をそちらに向けると、ガラスが拡大され映像が見える。


 それは砲撃だ。

 獣国の山から断続的に砲撃が行われている。


「おお、獣国人の方々ですね。撃って来てますよ」

「だな」

「大丈夫なんですか?」

「……当たり前だろう。こちらの高度は──9000メートル。

悲しいかな、この世界のどこを探してもこの空域へ攻撃をすることなど不可能だ。

しかし……設備上仕方ないとはいえ、危険信号を知らせる警告音が五月蠅いな。

おい、スカイランナー」


『すふふ! お待ちかねの! 狙撃手スカイランナーです!

破壊兵器ですね! 回収弾(グラーヴィッツァ)! すふふ! 落としますか!!!』


「やめろ。後10発も無いんだ」

『すふー……』

「火槍の魔法を固めて落とせ」

『2万発くらい!?』

「100で十分だ」

『すふー……了解しましたぁ』


「……ミスキャストですよね? アレに主砲とか火砲のスイッチ渡すのは危険では……」


「……他の奴を裂くと戦力が薄くなるだろう」


「人望と人材の無さが出てるわね~可哀想~」

 ルクスソリスが興味無さそうにポケットから取り出したナイフをくるくる回して手遊びし始めていた。


「少数精鋭なだけだ」

「あはは。──あれ、そういえばルクスソリスさん。貴方、何でここに居るんですか?」


「はァ? 何、どういう意味よ」

「いえ、ルクスソリスさん。貴方、ライヴェルグ隊長のこと熱烈大好きじゃないですか?」

「ええ。今度会ったら殺すくらいに好きだけど何?」

「なんで一も二も無く飛び出さなかったんですか??」

「それは簡単よ」

「?」

 ──ガラスのような大きな画面に映し出された黒い獅子の甲冑の男を指差してルクスソリスは欠伸した。



「あれ。──ライヴェルグ様じゃないもん」



「え?」

「何」


本物(ライヴェルグ様)はあんな立ち方しない。背丈もちょっと低い。

剣の持ち方も雑。あれは甲冑を着た別の人間でしょうからね」


 ◆ ◆ ◆


「砲撃、届きませんッ!」

「くそっ! どれだけの高度にいるんだあれはッ! 爆薬を増やせ! 魔力を上げろ!」

「まだ反撃が来ていないのだから此方からの場所は補足されてな──」


 ──獣国の軍人たちが怒号を上げたその時だった。



 空中が真っ白に燃えていた。そして熱と痛みと。


 

 それが浮遊城塞からの攻撃だとその時に気付けた者はいなかった。

 土と岩と爆弾が混ざり合い──一瞬して獣国の軍人たちが玩具みたいに吹き飛んだ。


 ──誰も例外なく吹き飛ばされた。


 運が良かった者もいた。その上空からの火槍の魔法が着弾した際、対空砲の影に居た者だ。

 対空砲が壁になり、炎の熱に焼かれなかった。

 その幸運な者の一人が──獣人の青年、シュトラ。


 彼の左側に炎が落ちたのか、損傷は左側に集中していた。


 だが、不運でもあった。

 

(対空砲に、足が……っ)


 彼の両脚の上に対空砲は倒れ込んでいた。

 対空砲は人間より巨大だ。そして、鋼鉄より重い。総重量2トンを超える。

 魔法を発動出来れば動かせるが、痛みで魔法を組み立てる処じゃない。


(……どうにかして抜け出さないと。それに、どうにかして、あの兵器を止めないとッ)


 身体をよじる。足に激痛が走るが、それでも。

 

(王国の兵器……これが、世界の当たり前になったら、世界は本当に終わる)


 どうにか出ようとする。


(だから)


 ──鋼鉄の対空砲が、動いた。


「大丈夫か」

「え──あ」


 男が居た。

 スリッパで、ジーンズ履いた──寝起きのようにパッとしない顔の男。


「足が折れてるな。無理するなよ。でも、死んでなくてよかった」

「あ、ありがとう」

(すごい、怪力だ。あの砲を一人で……)


「なぁ。俺もこれ、使っていいか」


「え?」

「俺も、あの城塞を落としたいんだ。でもあの高度じゃ手が出せない。

一発当てればもうちょっと低くなると思うんだよ」

「いい、ですが……ただ、あの高度、は」

「山より高いな。でも大丈夫だ。俺、昔さ、狙撃のプロと勝負して互角に持ち込んだことがあるからさ」

(狙撃のプロって何だろう……でも、やってくれるなら)


「……お願い、します。……あの城を」


「ああ。任せてくれ」

「砲弾は……あっちの」

「あー。砲弾はいいや。狙撃も、俺、銃弾じゃないの使ったし」

「え?」

「あの時は確かコルクだったな」






 ──夢か幻想か、痛みで頭が可笑しくなりすぎて変な空想を見ているかもしれないと、シュトラは思った。





 スリッパで、ジーンズの男──寝起きのようにぱっとしない顔の男が。




「どっこいしょっと」




 男が──対空砲を左手で持ち上げてた。

 まるでボールでも手に乗せたように、ぽんぽんっと投げた。


(え──)





「行くぜ。ナズクル──俺からの開戦のッ! 合図だ──!!」





 対空砲()城塞に向かって投げられた。

 ぐんぐん空に吸い込まれるように、点になっていく。




 『開戦は()()()()()()()だった。間延びしたドカーンという音だった。』




 爆音と共に、城塞の壁面から黒い煙が上がった。


「うし。命中」


 『僕たちはそれを見て震えた。正(しい)高度測定は無し(だ)が、どうみても対空砲の射程外。』

 『見事に浮遊要塞に当てた彼に、僕たちは震えを隠せなかった。』


「え……えぇ……」


 『まさか対空砲本体を投げて……空飛ぶ城塞に当てられる人間がいるなんて。僕たちは夢でも見ているのかと思った』



「あ、貴方は……何者なんですか」





「ん。あー……。まぁただの便利屋だよ。ちと、勇者をぶん殴るのが趣味なね」




 

「流石ジンさんッス! 砲弾なんて必要なかったッスね!!」

「お。なんだ集めて来てくれたのか。じゃあついでに何発か投げとくかね」




◆ ◆ ◆

次回投稿日は 9月5日 を予定しております。

よろしくお願いいたします。


◆ ◆ ◆

※ 対空砲は用法用途を守って正しくご使用ください。

◆ ◆ ◆

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