【27】今日も二人は楽しそう【05】
◆ ◆ ◆
暗視モード。キュピィン、デース。
視界正常。足元オッケー。勇者は熟睡デース!
さてさて。
これは。
杭、デスね?
Oh。厳密には杭と違うのかもしれないデス。岩に近いデスかね?
でも杭とでも呼ばないと説明できないデスね。
先端は鋭利デス、きっと地面に刺さった先端もそうなのデショウ。
しかし……ここまで近づくと、やはり途轍もない大きさデス。
え、大きさの説明デスか? うーん……。
魔術師マーリンが作った石作りの遺跡くらいデスかね!
……分かり辛い? うーむデース。
2階建ての家くらいデスかねえ。大きな樹くらいでもいいですが。
あ! そうデス! 分かったデス!
この杭の名前は『ビッ杭』としまショウ!
……ワォ! すみません! 通話切らないでくださいデス!
OkOk! ジョークじゃないデスかぁー! 『杭』で行くデス。デース。
では。始めるデス。
この杭の解析……ワタシが頑張っちゃうデスよー!
◆ ◆ ◆
雪を固めて作った、そう言われたら信じてしまうだろう美しい城がある。
近づけば顔がぼんやり映る程に磨かれた鉱白石は北東炭鉱地帯でも希少な石だ。
『鉱白石が希少なのは、珀帝城を立てる為に大量に使われたからだ』なんていう帝国流の冗談もある程にこの城には使われていた。
その城は──王国の東、別の国にある。
帝国。
その首都、その中心──そこに聳える皇帝の居城こそ珀帝城。
多くの人間がそこに集まっている。
長い髭を蓄えた将校。表情の読めない軍人。少しよれたスーツの執政官。
一兵卒こそ居ないが、帝国を陰で支える人間から、矢面に立って戦う者たちまでそこには多種多様の人間が居た。
共通しているのは、誰もが焦ったような難しい顔をしていることだろう。
否──違った。今、ここに戻って来た2名だけはそんな顔をしていない。
「Oh! 皆様! なんか浮かない顔してるデース!!」
長い藍色の髪、兎のような機耳、ほのかに光る深蒼明の瞳。
機械の両腕、人懐っこい顔立ち──チョコレートのような茶色いドレスの女性。
王国民あるいは帝国民なら誰もが知っている元《雷の翼》の一人『メッサーリナ』。
に、よく似た女の子──メッサーリナリナだ。
そしてその隣を歩くのはケラケラと笑う男。
「だね~。どーにもこーにも、こんな湿気た顔を並べるのが好きみたいだぁーね!
そんな顔した所で問題解決なんか何も出来ないっていうのにね~」
真っ黒な髪に黒い狐目。白い襯衣に灰色のパンツ。
役人然とした若い男だが、彼の声が聞こえるなり周囲の将校も軍人も、誰も彼もが頭を下げる。
その中で、最も背が高く筋骨隆々の男が、彼の前で跪いた。
「フェイン・エイゼンシュタリオン皇帝陛下。──現状をお伝えしたく参りました」
役人と言われた方がまだ分かる。それ程に覇気もなさそうな細身の男、フェイン。
知らなければ誰もが目を丸くするだろう。
だが、この男こそが、帝国第88代皇帝である。
フェインは挑発するように鼻を鳴らした。
「僕らが知っている以上の話しだろうね?」
「……王国の新型兵器の件です。浮遊城塞が出現してからもう10日経ちます。
浮遊城塞からの攻撃ですが、『大量殺戮爆弾』の他に『杭』のような爆撃が認められます。
その杭はまだ王国領と獣国領にしか撃たれていないようですが──昨日未明に帝国領の国境付近にも『杭』が撃たれておりました。
我らが国に攻撃がされるのは時間の問題でしょう」
「まさかだねえ」
「?」
「まーさーかー、新聞に載ってる程度の情報を言われるとは。
やれやれ……ほかに情報がないならもう下がっていいよ」
「っ……! お、王国内に落とされた巨大な杭の数は合計8本!
獣国内には2本を確認しておりますっ!」
「他には他には?」
「目下調査中で……」
「そうかそうか。──ごめん。やっぱり話にならないな。下がっていいよ」
「っ! こ、皇帝陛下っ! これ以上、手を拱いていたらっ!」
「拱いて? そういえばさ、拱くってどんな感じなんだろうね?
招き猫みたいに招くのかなぁ? それとも狐の手みたいに、コンコンって~?」
「冗談をやってる場合ではないのです! 陛下ッ!」
全く、と呟いてからフェインは深くため息を吐いた。
そして、フェインは腕を組んだ。
「あの杭は、帝国領には落ちてこないよ。──ま、僕の見立てでは、という注釈が付くけどねえ」
(まー、尤も、もっと大きく描くつもりなら話は変わるけどねー)
フェインは内心で補足すると、軍人は目を白黒させた。
「な──何故に、そう分かるのですか」
「サルでもわかる。杭の場所を地図上にマークしてみなよ。
浮遊城塞を中心に円形になってるのがサルでも分かるだろう??」
「え、あ……!」
「だから後2本、どこかに落ちてる。
まーきっと、位置的には海の中と山の上だから見つけられないんだろうなあ。
合計12本。きっかり時計の文字盤の位置さ」
フェインが言うタイミングに合わせてリナリナが恭しく軍人に地図を手渡した。
「ま。現状、王国はクーデターの真っ最中ってことみたいだ。
変に手を出してガブガブと噛みつかれるのも面白くないだろう?
魔王側に居る王子か、王宮側の勇者か。どっちが勝っても良いように眺めてればいい。
上手くすれば勝手に王国が潰れて今後十年は帝国の一人勝ちかもしれないからねー!」
「な、なるほど」
「今は王国は帝国に攻撃する意思は見えないし、悠長に構えていればいいさ」
フェインはそう嘲笑うように言ってから階段を登っていった。
「ただまぁ──僕の帝国に害を及ぼすなら……な、リナリナ」
「Yes。ワタシは敵は薙ぎ倒すデスので」
フェインとリナリナは目を合わせて笑う。
「楽しそうデスね。フェイン様」
「ああ。そうだね。──好き勝手やってる王国の横っ面を、引っ叩くのは楽しそうだ」
◆ ◆ ◆
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
先日は休載申し訳ございませんでした。
体調に悪影響が出る程の精神的な色々があり、お休みさせていただきました。
何れ、完結の際には触れられるかもしれませんが大丈夫です。元気です!
次回投稿は 9月1日 に行わせていただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。




