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【27】始まりは【01】


 ◆ ◆ ◆




 始まりは──……蛆が沸く死体捨て場だった。




 戦場。それは命を死体に変える場所。

 戦闘。それは命を死体に変える行為。

 兵士。それは命を死体に変える人材。

 魔法。それは命を死体に変える道具。


 魔族。それは最初に命を奪うべき相手。


 命という命が死に塗り潰される。

 土と泥と膿と血に混ざりあって、何か分からない何か、に変わっていく。


 あと数時間、この状況が続いていたら自死を選んでいたかもしれない。

 それ程までに逼迫(ひっぱく)した、鍔迫り合いの戦場(殺し合い)があった。


 8時間前、戦闘行為は終了した。

 魔族侵攻部隊を撃破せしめて、籠城戦に辛くも勝利した。


 周辺地域の安全の再確保が行われている。

 2時間前、周辺探索の任から戻り今は別の任に当たっていた。

 戦闘終了から8時間経ったがまだ気を抜くものは誰も居ない。

 敵を撃破し、すぐに勝利の美酒を浴びるように飲む、なんてのはフィクションの世界でしか出来ない。


 周辺探索による物理的安全確保の後に待つのは、防御陣地内の衛生的安全確保だ。


 つまり、死体処理である。


 若い魔法使いは優先して死体処理に回された。

 勿論、俺もだ。

 死体の悪臭に堪えながら死体を運ぶ。

 長い籠城戦だった。何度か踏まれたらしいこの死体は右腕が取れかかっていた。

 運ぶ弾みで、その右腕が取れた。あっと声を上げてからその腕に手を伸ばした時、断面から、わっと蛆が広がった。自分の、同じ右腕にもぞっとした感覚が走っていた。


 そこまで大きくない穴に死体を投げ入れた。

 10人も入れたら満員の穴だが、俺には無限に続く深い穴に見えた。

 巻き込まれた魔族の民間人も中にはいる。子供もいた。


 不意に。俺の目の端には異質なものが映り込んだ。

 ……子供だ。死んでいない、子供がいた。


 6歳か、7歳か。それくらいの幼い魔族がその穴の淵に立っている。


 すぐに手首を確認した。銀の輪が付いている。

 あの輪は保護済みの証だ。

 勘違いされがちだが、魔族は全て虐殺という訳ではない。

 非戦闘員であることが分かっている魔族をわざわざ殺さない。あれはその類だ。

 後に一時的に収監され、法の下に処理される。

 

 ……家族が穴の中にいるのだろう、と察しがついた。


 目の動きから、家族の誰かだろう。

 そして、その家族の手に──指輪が見えた。


 あの指輪を取って、あの子に渡してやるべきだ。


 ……しかし。俺は。


 何も。……何も動くことは出来ない。


 俺は軍人だ。

 だから、規律に反してあの子に接触することは出来ない。

 次の死体を後続が運んで来たらそれを入れて燃やす。その予定だ。


 ……あの子の為に。何か。

 いや。正しいことは、そんな感傷的なことじゃない筈だ。


 俺の正しさは、機械のように、命令に従うこと。

 効率よく、忠誠心を持って、正しさを作り出すこと。


 正しい兵士になる。

 命を効率良く死体に変える為の兵士に。


 だから。

 ……俺は、また一つ死体に変える。

 俺の心の中にある命を、また一つ選び、銃で撃ち抜く。


 そうやって、魂は冷たくなる。

 こうやって、人は一つ、痛みを感じなくなる。


 これが正しい。

 ……正しいことで、あって欲しい。

 いや。違う。


 あの子に手を差し伸べないことが正しいなんて、──正しくないと否定してくれ。

 俺は。



「軍人さん! 回れ右で見ないように!」



 だから。

 始まりはこの蛆が沸く死体捨て場。




「ただのバカな冒険者の行動! 咎めないようにしておいてくれ!」




 ──風を切って、それは跳び出した。




 風と共に伸びた長い緑髪。宝石のように煌めかせた瞳。



 そして、もう一つの始まりは──一人の女性。



 死体捨ての穴の中、泥、汚泥、血、蛆。

 ありとあらゆる汚れという汚れで作られた場所に、一も二も無く跳び込んだ。


 魔族の子供の為に、その親の指輪を取った。

 そして、這いあがった。

 自分の背中の傷を隠して微笑むその冒険者。


 一際強く輝く星のように見えた。


 ◆ ◆ ◆



「この世界を俺は認めない。だから変えなければならない」



「変える!? 虐殺することが変えるゆうことかっ!? 違うやろ!」

 ──床に組み伏され、聖女ウィンは声を荒げる。

 組み伏しているのはナズクル本人だ。


「最終的に平和になる」

「生物全部いなくなれば平和っちゅう考えならなっ! ただの狂人やんっ!」

「そうだな。……説明、する気はない」

「っ!」


「中立だろう。お前は。死んでない者を助ける為に俺の仲間をしている。

戦場で敵味方区別なく救う誓いだったか? 

そこには何も言わないのだから、俺のやることにいちいち口を挟まないようにしてくれよ」

「虐殺となれば別やさ! あんたが嫌っとった虐殺魔法みたいなもんやんか!!」

「みたいなもの、という意味では頷くしかない。とはいえ、結果的に救われるのだからいい。

……せっかくだ。次々行こうじゃないか」


 ナズクルは立ち上がる。ウィンは立ち上がろうとしたがふらついていた。

「っ……」

「無理をしない方が良い。左足の【感覚を無くしておいた】。立てない筈だ」

「この」


「──手始めに。獣国に撃ち込もうか。

スカイランナー。『回収弾(グラーヴィッツァー)』を装填してくれ」


 虚空に名を呼ぶと『すふふふふ』と反響する笑い声が響く。


「ぶひゅ!? どこからか雑魚の笑い声が……!」

「おや。どこかで潜伏していたようですね」

「あら~、居たのね、あれ。なんかここに居るのが『魔族3名』だったのは作画ミス的(忘れられてるの)かと思ったのにね」


『すふふ! 違いますよぉ! ちゃんと裏方仕事をしているのですよお! まぁ目立つ仕事で裏とは違いますがぁ!!』


「スカイランナーにはこの浮遊城塞都市(アトラシア)の主砲を任せている」


(ぶひゅひゅ……あれが狙撃手? ……それは)

(え、スカイランナーに主砲を任せるって……)

(なんというか……)


(((不安)ですね)だわ……)


「スカイランナー。照準をまずは山岳の国境に合わせろ」

『了解!』

「そして撃てと言ったら」

               ──シュボッ



『あ』




「……まぁ。いい。だが、些か──笑えない程度の破壊力となっているからな。

皆で見ようじゃないか。その一撃の破壊力を」










 

◆ ◆ ◆

次回投稿は 8月22日 です。

よろしくお願いします!



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