【26】怪刻【28】
◆ ◆ ◆
オレの中に、もう一人のオレが居て……あ、ちょっと待ってって!
マジな話、逃げないで! いきなり発狂系中2な奴感だして悪かったって!!
でも、リアル、そんな感じだ。
オレの中に、なんつーか、ちょっとひんやりしたオレがいた。
まぁ怪刻の遺伝子だろうよ。そう分かる。
なんつーか、顔が細くて、口は鳥とも竜とも取れる感じで。
凄い目立つのは角かな。額から生えた角。それが頭に沿って後ろに向かって生えてる。
この国の怪刻じゃないんだな、って一発で分かった。
つまり。
オレの父親、外国魔物だったのね!?
という一言。
『そうだとも。今更ながらに分かったのは、それ故に『鉄』という魔法が発動しなかった。
代わりに近しい音の魔法である『失敗』が振り当てられたようだ。
最も、思考言語と魔法言語が混在し複合した結果、二つの特性を持つ魔法になってしまったようだがな』
……なんて?
『……お前のヒアリング不足の結果、新しい概念が生まれた。以上だ』
分かり易いぜ! 脳内の幻想の狼先生に罵られてちょっと懐かしい気持ちだけど!
まぁ、つまりは、オレの拳は鉄みたいになると!
その上、相手の魔法や術技を失敗させることが出来る! ってことだな!
ま。ともかく。幻覚の狼先生がよく分からんこと言ってたけど。
結果わかるのは一つ。これが武器だってこと。
それから。
オレの中にいる、この怪刻が──頑張ってくれてる、ってこと。
オレも、怪刻も、多分マジに大したことない強さ何だと思う。
ぶっちゃけ、パバトが今動揺してくれてるから何か良い感じにパンチ決めたけど、そんないきなり強くなった訳じゃない。
ただ、なんつーかね。
オレと怪刻は、別に意思疎通してる訳じゃない。
別の人格ってのが近いのかもしれないけど、そうとも言い切れないというか。ただ一緒にいるだけのオレ。
言語も違う、なんとなく同居している存在……。
あー、説明つかねえ。
ともかくオレとは違うオレ。
……まあ、もう複雑に考えるのは辞めよう。
たった一つ、分かってくれればそれでいいや。
オレも、怪刻も、今、たった一つの意思だけ共有してる。
ここで、レッタちゃんを守る。
その意思だけが共鳴してんだわ。
だから。
バケモノ・パバトに対して。オレは。
オレたちは──死に物狂いだぜ。
◆ ◆ ◆
「なん、だ。この状況は」
生唾を飲んだ。まるで世界中の海が干上がった瞬間でも見たかのような動揺だった。
ありえない、そう呟きたくてもその言葉が出てこない。ただ目を見開いて言葉を失ったナズクルが、ようやくひねり出した言葉が、先のそれだった。
「痛ぃい……ッ! 痛ぃのは、い、嫌だぁああ!」
稚児のように叫んでいるのは、巨漢の男。
その男は自身の右目を覆いながら、あうあうと口を動かし尻餅をついたような姿勢で仰け反っていた。
醜悪さと悪臭を詰め込んだようなその巨漢の魔族は、本当に自分の知っている男、パバトで間違いないだろうか。
ナズクルが疑ってしまう程の慄き様だ。
同時に、ナズクルは気付く。パバトが赤い血を流しているということに。
(パバトが、傷を負う、だと。……あれは術技で傷を負わない筈だ)
パバトという魔族は自身の身体を粘土のように形を変えることが出来る。
そして硬度も自由自在。
故に、刀程度の刃物なら硬度を高めて弾き飛ばす。それ以上に高い威力なら柔らかくなって傷を負わない。避けられないのであれば体自体を泥に変えて威力を極限まで削ぎ落すことが可能だ。
そのパバトが、痛がっている。傷を負う。その異常現象。
戦いの痕跡が夥しい。森に囲まれたこの辺り一帯だけ、まるで腐敗した荒地のようだった。
木々が枯れ、地面が腐り、腐臭すら漂う。水溜まりには虫の死骸、落ち葉は泥のように液状化している。
ナズクルとティス隊が来るまでの間、パバトが夥しい量の毒を散布したのだろう。
そして、その散布させた相手。
パバトの前に立つのは──魔物。
怪刻。王国でよく見かける二本角の種ではない。
一本角。頭を這うように背に向いた長い角。
マントのように伸びた長い翼。黒く光る岩の身体。
……攻撃を何度も受けたのか、その両腕からは血の汚れ。
翼も、よく見れば所々切り裂かれて、脈々と血が流れている。
だが。
そんなことよりも、問題なのは。
「お前は……先ほど向こうで倒さなかったか? 何故、先回りしている。あの王鴉か?
いや、そんなことよりも」
その顔立ち。細長の顔だが、ナズクルは分かった。
彼が──先ほど、意識を手放した筈の男、ガーだということが。
「──行かせ、ナいぞ。……ナズク、ル」
「お前、一体……!」
黒曜石のような羽が広げられた。
身を低く屈め、足の筋肉が膨れ上がる。
(飛ぶのか──?)
そう警戒したナズクルは間違った感性ではない。
王国の怪刻の翼は飛翔する為にある。
だが。
「ナズクル先生殿!! 下がってくださいであります!」
たが、あれは飛ぶ為の翼ではない。
ナズクルより先に察知したのは彼と共に来た少女だった。
赤熱した髪を振り乱し、正義が刻印された鉄槌を振り上げる。
同時。弾丸のようにその怪刻は突撃してきた。
そう、弾丸のように、身体を捻ったのだ。
豹のように素早い移動。そして、加速しながら振り下ろされる石の翼。
見ただけで分かる。まともに受ければ肉どころか骨まで引き裂けると。
鉄槌の少女、ティスはそれを受け止める。踏ん張った地面が割れる程の威力。
「翼手による断撃、か」
ナズクルが呟く。
「ナズクル先生殿ッ! それは、なんであります、か!?」
「海の向こうの北国異領に存在する怪刻が使う攻撃方法だ。
向こうの怪刻は翼を手の代わりに攻撃に使うと聞く」
「なるほどであります!」
防いだ翼は重い。弾く為にティスは鉄槌の頭を蹴飛ばして、大振りに振った。
その反動を狙っていたのだろう。怪刻はその反動で後ろに大きく跳ぶ。
ナズクルは舌打ちをしていた。
(くそ。竜套甲法を使ってしまっている。魔法と術技の再使用までは後30分は掛かる。それまで銃しか使えん……っ)
「ティス、スタブル。すまないが」
「分かってます。──援護! アハト、ユニム、ロシュ!」
男の声がナズクルの後ろから響いた。それはティスの副官の無精髭の男の声だ。
その声に合わせて、呼ばれた男たち3名が即座に森の中に向けて石の弾丸を射出する。
効いているかどうかは不明。いや。
「──ここから、先は……行かせない」
効いていない。
半透明な氷のようなモノが石弾を防いでいる。
「あれは」
「盾の術技だな。健在、のようだ」
「なるほどであります。──しかし、あれくらいの薄さならまだ私の鉄槌で破壊出来そうであります」
ティスが走り寄る。
それに合わせてスタブルは声を発した。
「臨戦態勢を取れ!」
この対応は、ただ緊急の戦闘に慣れていたが故の対応だった。
隊長のティスが突発的に魔物や魔族──さらには、竜を襲うことも日常茶飯事だ。
竜種との戦闘は、遠距離攻撃をしながら残りの隊員の臨戦態勢を整えることが基本。
そして、整った戦力を一度にぶつける。
つまりは。
「物量で轢き殺す! 全体、包囲!」
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次回投稿は 8月9日 を予定しております!
あと、すみません! 先日、親知らずを抜くと記載したのですが、はやとちりでした!
お医者様は、親知らずを抜くと言いましたが次回抜くとは一言も言っておらず
なるほど叙述トリックとはこういうことを言うのかと納得しながら歯医者を後にしました。
結果、いつ抜かれるか分からない恐怖に今も怯えております……。
また職場の皆様曰く、凄い痛いそうなので……もしかすると近いうちに休載をするかもしれません。
その時は改めて記載させていただきます。
よろしくお願いいたします……っ!!
暁輝




