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【26】ガーちゃん VS ナズクル ⑤【21】


 ◆ ◆ ◆



「──火翼竜ヴァジッダ。そういう竜を知っているか?」



 ナズクルは自身の赤い鱗の生えた左腕を撫でる。

 鱗は鋭い剣のように尖っていた。腕から肘に向けて撫でれば刺さらないが、逆に撫でれば()()のついた釣り針を直で触るようなものだ。



「知らなくても当然かもしれない。世界にたった2地域しか縄張り(コロニー)は確認されていない竜だ。

とても背丈の小さい竜なんだ。人間と同じサイズくらいだ。

火翼竜という名前だけあって、火を生む翼を持つ竜だ。火を生み、鉄を砕き、空気を焼くと言われている。

そして、最も特殊かつ『破壊的』なのは、その戦闘方法。

鋭い爪こそあるが、爪撃(引っ掻き)が主な攻撃方法ではない。

火翼竜は、高い筋力を持つ竜でね。その筋力と、生み出した炎による加速。それによって生まれる鋼鉄すら砕く剛拳(こぶし)で獲物を仕留める」



(──ち、くしょう。……っ)



「その竜の説明をしているから分かると思うが、それが俺が使う竜套甲法(ドラグナ)で再現している竜だ。どうやって火翼竜(彼女)の力を借りているかは割愛しよう。長くなる。

説明したのは、讃える為だ。誇りに思ってくれ。

我が師の──火翼竜の剛拳(こぶし)を受けて、まだ息があることを、な」



(くそ……が……ッ)



 血反吐。

 ガーはうつ伏せになって体を震わせていた。

 痙攣、が近いかもしれない。起き上がれない。


 ──階段から跳び降りた直後に、顔面に左拳を受けた。


 そして、盾が上手く発動出来なくなったその後。


(一瞬、だった。オレが、落下するまでの間に……何十発、打ち込まれたんだ、オレはッ)


 その時のナズクルの動きを、ガーの目では見切れなかった。

 顔面に一発。その後、顎と、胴、それから腰に拳は放たれたのだ。


(間一髪……オレの()()が保ってられたのは……ギリ、で術技(スキル)を使ったからだ。

つっても、今のオレ見て分かるとーり……っ。動けねえ。死んでねえ、だけだ)



「勝負あったな。本来なら命を奪うまではしないのだが、お前は別だ」



 ナズクルは言い放つ。銃を抜き、弾を込め直した。


 ガーは立ち上がろうとした。が、しかし、動けない。その足に、腕に、力が入らない。

 まるで、徹夜した後に受ける授業のように、寝てはいけないと思っても瞼が落ちるように、身体が言うことを聞かない。

(ま、授業なんてまともに受けたこたぁねえけど……それよか)

 ガーは拳を握る。まだ、拳が握れることを確認して、歯を食い縛る。


(動けねえ。だけど、死んでねえ。……っへ、そうだ。──死んでねえなら、まだ、やれる、ぜ。

オレは……喧嘩じゃあそこまで役に立たねえけどさ。っへ)


「あんたに……一つ、聞きたいことが、ある」


(口ならまだ、回るんだぜ)


「答える義理はない。だが、聞くだけ聞いてやろう」

「オレ……あんたのこと、全然詳しくなくてよ。……あんたが、なんで、覇王って名乗ったか。

そこんとこが、皆、気になってるみたいでよ」

「……武と知を持って覇動を行く。そう言った筈だ」

「言ってたな……ああ。違うんだ。その質問が、オレの聞きたいことじゃないんだ」

 身体を捻って、ガーは身体を起こした。





「あんたにとって、《雷の翼》って、なんだ?」





 ──その瞬間のナズクルの顔を、ガーは忘れないだろう。

 怒りの顔とも違う。目を見開いて口を閉じ、複数の感情が合わさった顔。

 強いて言うなら、拒絶。

 答えたくない、踏み込まれたくないというのが、顔に出ていた。


 故に、回答は──。


「ウっ!」


 ──銃声だった。


 廃墟に反響した銃声。乾いた破裂音が耳に残り、間延びしたパーンという音が残った。


 銃弾はガーの腹を貫通した。

 二発目は地面に、三発目、四発目はガーの身体を掠めた。

 五発目は壁にあたり、六発目はガーの顔に吸い込まれたが──弾けた。


「まだ術技(スキル)が使えたか……よく粘ったな。だが」


(そうだぜ。銃が上手く当たらないなら、弾けるなら。あんたは必ず、その拳で、オレを殴るよな。

殴るスピードは速すぎて見えないけどよ。殴る場所は! ここだよな! 

あんたの目の動きが! ここだって言ってんだ! だけど、これを防げなきゃ!

オレァ終わりだ、畜生ッ! 覚悟を決めるぜ!)



「もう黙っているがいい……ッ!」



 そのナズクルの移動、拳は誰にも目で追えなかった。

 一瞬で数メートルの距離を縮めて、その左拳がガーの顎を的確に叩いた。

 ガーはまるで玩具のように軽々しく逆側の壁、窓に叩きつけられた。

 蜘蛛の巣型に窓に罅入り、血が噴き出る。


(──オーるラぃ……ッ! ドンピシャ。顎、ギリギリ、でオレの、盾が、防げたッ)


「っへ。……残念、この減らず口は、まだ黙れない、ぜ」

「頑丈過ぎ──!」


 ナズクルが一歩踏み込んだ時、気付く。

 足元が沈んでいる。右足が膝半分くらいまで。

 ガーから流れた夥しい量の血で見えなかったが、そこは床じゃなかった。

 粘土。それも、粘々とした粘土。しかし、粘着力が然程ある訳じゃない。


「っち、最後までこの手の罠をっ! だが、この程度の粘土など!」

 その右足は竜の足。

(さっきのパンチ、生み出した炎による爆発的な加速で出すパンチっつってたろ。

ってことは、そこから出る為の、高速移動──それも同じだよな。高熱を出す)


「な」

「っへ。ナズクルさんよぉ。子供の頃、遊ばなかったのかよ……オーブン粘土(ポリマークレイ)でよッ」

 ナズクルは錯乱する。だが、まだ冷静だ。更に火力を上げれば粘土如き燃やせることはすぐに気付く。


(本気で遊んだこと無い顔だなっ! っへ。オーブンで固まる粘土! まぁいいけどよ! 足元をすくえればそれでいいんだぜ! ここから総仕上げ!)


 ガーは壁を蹴飛ばし紐を引く。

 勿論、事前に仕掛けたナズクル対策の罠。


 ──『弱点、か。割と目立ったもんねえしなあ……。ハルル。何か知ってるか?』

 ──『いえ、弱点らしい弱点が無いッス。強いていうなら──』



「くらえオラァ!」



 紐は壁の配管を伝い天井のカンヌキを抜く。

 天井が抜け、仕掛けたモノが落ちてくる。それは。



「緑のカーテンだぜ!」



 部屋を覆いつくす程の緑。


 キク科アキノノゲシ属、一年草あるいは二年草。

 シャキシャキ触感。野菜界でも珍しい水分含有量95%という驚異の水準を誇る野菜。



「レタスッ──!?」



「嫌いな食べ物だろ!! ざまぁみろぃ!!」

「い、いや。確かに嫌いな食品ではあるが、別にそれで叫んだり逃げたりする程ではないぞ!」

「だろーな! オレもそこまでたぁ考えてねえー!!」


 目的は足止めだぜ、と部屋に残った声が響く。


 そして、ナズクルの視界が揺れる。

 薬、幻覚、魔法──一瞬にしてそれらの選択肢が浮かんだがそうではなかった。


「まさか」


 物理。


「き、さまっ!」

 物理的に揺れている。

 地面が。いや、違う。


 ナズクルが怒号を上げるより一歩早く。



「レタスで目晦まし。んで、柱を一本抜いて脱出。これがオレの最初から考えてたあんたを倒す策だぜ!

瓦礫の下敷きになりやがれ! あ、ちなみにこの屋敷は、柱を一本抜いたら後は全部倒壊するようにしておきましたんッ!!」




 そして、屋敷が一気に崩れた。




 


◆ ◆ ◆

次回投稿は 7月26日 を予定しております!

よろしくお願いします!

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