【26】ガーちゃん VS ナズクル ⑤【21】
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「──火翼竜ヴァジッダ。そういう竜を知っているか?」
ナズクルは自身の赤い鱗の生えた左腕を撫でる。
鱗は鋭い剣のように尖っていた。腕から肘に向けて撫でれば刺さらないが、逆に撫でれば返しのついた釣り針を直で触るようなものだ。
「知らなくても当然かもしれない。世界にたった2地域しか縄張りは確認されていない竜だ。
とても背丈の小さい竜なんだ。人間と同じサイズくらいだ。
火翼竜という名前だけあって、火を生む翼を持つ竜だ。火を生み、鉄を砕き、空気を焼くと言われている。
そして、最も特殊かつ『破壊的』なのは、その戦闘方法。
鋭い爪こそあるが、爪撃が主な攻撃方法ではない。
火翼竜は、高い筋力を持つ竜でね。その筋力と、生み出した炎による加速。それによって生まれる鋼鉄すら砕く剛拳で獲物を仕留める」
(──ち、くしょう。……っ)
「その竜の説明をしているから分かると思うが、それが俺が使う竜套甲法で再現している竜だ。どうやって火翼竜の力を借りているかは割愛しよう。長くなる。
説明したのは、讃える為だ。誇りに思ってくれ。
我が師の──火翼竜の剛拳を受けて、まだ息があることを、な」
(くそ……が……ッ)
血反吐。
ガーはうつ伏せになって体を震わせていた。
痙攣、が近いかもしれない。起き上がれない。
──階段から跳び降りた直後に、顔面に左拳を受けた。
そして、盾が上手く発動出来なくなったその後。
(一瞬、だった。オレが、落下するまでの間に……何十発、打ち込まれたんだ、オレはッ)
その時のナズクルの動きを、ガーの目では見切れなかった。
顔面に一発。その後、顎と、胴、それから腰に拳は放たれたのだ。
(間一髪……オレの原型が保ってられたのは……ギリ、で術技を使ったからだ。
つっても、今のオレ見て分かるとーり……っ。動けねえ。死んでねえ、だけだ)
「勝負あったな。本来なら命を奪うまではしないのだが、お前は別だ」
ナズクルは言い放つ。銃を抜き、弾を込め直した。
ガーは立ち上がろうとした。が、しかし、動けない。その足に、腕に、力が入らない。
まるで、徹夜した後に受ける授業のように、寝てはいけないと思っても瞼が落ちるように、身体が言うことを聞かない。
(ま、授業なんてまともに受けたこたぁねえけど……それよか)
ガーは拳を握る。まだ、拳が握れることを確認して、歯を食い縛る。
(動けねえ。だけど、死んでねえ。……っへ、そうだ。──死んでねえなら、まだ、やれる、ぜ。
オレは……喧嘩じゃあそこまで役に立たねえけどさ。っへ)
「あんたに……一つ、聞きたいことが、ある」
(口ならまだ、回るんだぜ)
「答える義理はない。だが、聞くだけ聞いてやろう」
「オレ……あんたのこと、全然詳しくなくてよ。……あんたが、なんで、覇王って名乗ったか。
そこんとこが、皆、気になってるみたいでよ」
「……武と知を持って覇動を行く。そう言った筈だ」
「言ってたな……ああ。違うんだ。その質問が、オレの聞きたいことじゃないんだ」
身体を捻って、ガーは身体を起こした。
「あんたにとって、《雷の翼》って、なんだ?」
──その瞬間のナズクルの顔を、ガーは忘れないだろう。
怒りの顔とも違う。目を見開いて口を閉じ、複数の感情が合わさった顔。
強いて言うなら、拒絶。
答えたくない、踏み込まれたくないというのが、顔に出ていた。
故に、回答は──。
「ウっ!」
──銃声だった。
廃墟に反響した銃声。乾いた破裂音が耳に残り、間延びしたパーンという音が残った。
銃弾はガーの腹を貫通した。
二発目は地面に、三発目、四発目はガーの身体を掠めた。
五発目は壁にあたり、六発目はガーの顔に吸い込まれたが──弾けた。
「まだ術技が使えたか……よく粘ったな。だが」
(そうだぜ。銃が上手く当たらないなら、弾けるなら。あんたは必ず、その拳で、オレを殴るよな。
殴るスピードは速すぎて見えないけどよ。殴る場所は! ここだよな!
あんたの目の動きが! ここだって言ってんだ! だけど、これを防げなきゃ!
オレァ終わりだ、畜生ッ! 覚悟を決めるぜ!)
「もう黙っているがいい……ッ!」
そのナズクルの移動、拳は誰にも目で追えなかった。
一瞬で数メートルの距離を縮めて、その左拳がガーの顎を的確に叩いた。
ガーはまるで玩具のように軽々しく逆側の壁、窓に叩きつけられた。
蜘蛛の巣型に窓に罅入り、血が噴き出る。
(──オーるラぃ……ッ! ドンピシャ。顎、ギリギリ、でオレの、盾が、防げたッ)
「っへ。……残念、この減らず口は、まだ黙れない、ぜ」
「頑丈過ぎ──!」
ナズクルが一歩踏み込んだ時、気付く。
足元が沈んでいる。右足が膝半分くらいまで。
ガーから流れた夥しい量の血で見えなかったが、そこは床じゃなかった。
粘土。それも、粘々とした粘土。しかし、粘着力が然程ある訳じゃない。
「っち、最後までこの手の罠をっ! だが、この程度の粘土など!」
その右足は竜の足。
(さっきのパンチ、生み出した炎による爆発的な加速で出すパンチっつってたろ。
ってことは、そこから出る為の、高速移動──それも同じだよな。高熱を出す)
「な」
「っへ。ナズクルさんよぉ。子供の頃、遊ばなかったのかよ……オーブン粘土でよッ」
ナズクルは錯乱する。だが、まだ冷静だ。更に火力を上げれば粘土如き燃やせることはすぐに気付く。
(本気で遊んだこと無い顔だなっ! っへ。オーブンで固まる粘土! まぁいいけどよ! 足元をすくえればそれでいいんだぜ! ここから総仕上げ!)
ガーは壁を蹴飛ばし紐を引く。
勿論、事前に仕掛けたナズクル対策の罠。
──『弱点、か。割と目立ったもんねえしなあ……。ハルル。何か知ってるか?』
──『いえ、弱点らしい弱点が無いッス。強いていうなら──』
「くらえオラァ!」
紐は壁の配管を伝い天井のカンヌキを抜く。
天井が抜け、仕掛けたモノが落ちてくる。それは。
「緑のカーテンだぜ!」
部屋を覆いつくす程の緑。
キク科アキノノゲシ属、一年草あるいは二年草。
シャキシャキ触感。野菜界でも珍しい水分含有量95%という驚異の水準を誇る野菜。
「レタスッ──!?」
「嫌いな食べ物だろ!! ざまぁみろぃ!!」
「い、いや。確かに嫌いな食品ではあるが、別にそれで叫んだり逃げたりする程ではないぞ!」
「だろーな! オレもそこまでたぁ考えてねえー!!」
目的は足止めだぜ、と部屋に残った声が響く。
そして、ナズクルの視界が揺れる。
薬、幻覚、魔法──一瞬にしてそれらの選択肢が浮かんだがそうではなかった。
「まさか」
物理。
「き、さまっ!」
物理的に揺れている。
地面が。いや、違う。
ナズクルが怒号を上げるより一歩早く。
「レタスで目晦まし。んで、柱を一本抜いて脱出。これがオレの最初から考えてたあんたを倒す策だぜ!
瓦礫の下敷きになりやがれ! あ、ちなみにこの屋敷は、柱を一本抜いたら後は全部倒壊するようにしておきましたんッ!!」
そして、屋敷が一気に崩れた。
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次回投稿は 7月26日 を予定しております!
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