【26】ガーちゃん VS ナズクル ④【20】
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『あのなぁ……俺だって、ナズクルのことを何から何まで完璧に知ってる訳じゃないぞ。
つか、お前が知りたいような戦い方だの武器だのは、ハルルの方が知ってるんじゃねえかな』
『なんでも答えるッス!』
『うーん。俺からどうしても何か一言、っつーなら。そうだな。
まぁナズクルと戦闘するっていう事態は避けた方が良い。
今のナズクルは魔王の使ってた魔法まで使える。サシは危険だ、ってのが見解、かな』
『ガーちゃんさんなら常に誰かといると思うッスけどね』
『そうだな。まぁすぐに俺とか誰かを呼ぶ感じにしてくれ』
『それでも戦うことになったら、か。うーん。
弱点、か。割と目立ったもんねえしなあ……。ハルル。何か知ってるか?』
『いえ、弱点らしい弱点が無いッス。強いていうなら嫌いな食べ物がレタスってことくらいしか』
『え、マジか。あいつレタス嫌いなの???』
『そッスよ! 『月刊イケメェーン4月号~勇者私服特集~』にインタビュー記事があって、そこに書いてあったッス!』
『イケメンしか乗らないあの雑誌か。まて、俺その雑誌の取材、来たこと無いぞ』
『ちなみに表紙はサシャラさんとルキさんで、男装が超カッコいいんスよね~!』
『ま、まて。隊長の俺に、何も、何も──ッ!』
『ま! まったく役に立たない弱点かもしれないッスけどね、えへへ』
『ん? なんだよガー。もう弱点は聞き終わったろうに。
まったく役に立たない弱点でも良いって言われてもなぁ……。んー……。
あ。──一個あった。ただ、なんつーか。ある意味でまったく意味のない弱点だな』
『【竜套甲法】。ナズクルの奥の手──それに付随する弱点、だ』
『あ、そもそも竜套甲法を知らないのか。
そうだな。専門家から言わせると魔法じゃないらしいけど、俺らから見たら『ナズクルしか使えない特殊な魔法』って思ってくれればいいかな。
竜の力を体に出現させる魔法。例えば竜の腕とか、足とか、爪とかさ。
ただ竜の腕になる訳じゃなくて、なんていうんだろう。人間のスケールに収納した腕、っていうのかな。
ともかく爆発的な破壊力を生む魔法だよ。超自己強化って考えても良い』
『その魔法の代償が、ものすごい大きいんだ。反動っつーのかな。
発動して解除した時、代償が発生する。想像に難くない、超簡単な代償だ。
発動していた時間分、発動した箇所が動かなくなる。
より厳密には、動きが鈍くなる、かな。まぁ使えば使う程、動かなくなるらしい。
だからアイツは、この技をギリギリまで使わない』
『この技を使った後の時間、それが一番の弱点だ。ただ、どうしてこの弱点が、『ある意味でまったく意味が無い弱点か』って話だけどさ。……まぁ、言わなくても勘のいいお前なら分かると思うけどよ』
『ナズクルがこの技を出して、倒しきれなかった相手はいない。
使われる側にしたら、こんな弱点、意味のない弱点だ、ってことだ』
◆ ◆ ◆
四階建て。打ち捨てられた廃墟の屋敷。壁は石造りで至る所に蔦が侵食し、今にも壁は崩れそうだ。
その廃墟の屋敷の中にガーは転がり込む。
(うしっ、滅茶苦茶に厳しかった第一関門突破ぁ! ──痛っう!!)
ガーは顔をくしゃっと引き攣らせて左肩を押さえた。
心音に合わせるように、どくどくと血が流れて落ちる。
ナズクルの放った三発の銃撃。その内、命中したのは二発。
一つは左足。掠めた程度だ、とガーは強がるだろうが実際は肉が抉れている。脹脛には火傷のような銃創。
もう一つは、ガーの肩を貫通していた。顔を顰めて、ガーは奥歯を噛む。
(やっぱ無傷とはいかねえよな。くそ、超痛ぇ……っ)
内心で文句を放ちながら、ガーは壁に背を預けた。
古びた大時計の物陰。ここは顔を出せば扉が見える位置かつ、階段がすぐ傍にある。
(けどよ。これで──オレの頭の中にある、ナズクルを倒すシナリオ、条件が整った……っ。
アイツがこのまま省エネな戦い方をし続けてくれるなら、この後の数手で詰ませられる。
ただ、問題は、『ドラなんたら』っつー魔法。使ってくるか? もし使われたら、どれくらい強いかが問題だぜ。
『ドラなんたら』の話を聞いた時はオレがまだ盾の術技を得て無い時だ。オレの盾で防げるかどうか、その議論はしてねえ。ぶっつけ本番。もし、この盾で防げなかったら……)
ぎし、っと、木材が軋む音がした。
ガーは背筋を伸ばす。外にいる。外の扉の前に立った音だ。
「まず謝っておこうと思う」
外からの声にガーは耳を傾けながら、警戒は怠らない。
「正直に言うと、お前を侮っていた。他者を侮るのは愚かなことだと理解していたつもりだった。
しかし、侮っていたんだろう。だから、ぬるい攻撃ばかりになった。
手を抜きたかったんだ。体力や魔法の消耗は最小限にしたいという気持ちが強かった。
だが、ただの雑兵ではなく、それなりに戦う方法がある相手だった。
その為、お前には残酷かもしれないが──俺も少しだけ全力で戦おうと思う。その意味は」
ドアノブが動いた。ガーの視界、そのドアノブの先には。
(掛かったな! オレも大好き超熱々のトラップだぜ!!)
悪戯の範疇を越えた高熱。そのドアノブは焼き鏝のように熱されていた。
触れたら火傷必死のそのトラップ──が。
「──お前が凄惨に死ぬ、という意味になる」
扉が開け放たれた。
(なっ、開けやがった!?)
そして、火傷はしていない。
その異変には、誰もが気付けるだろう。見て分かる、その腕の変化。
ナズクルの左腕が紅色の光沢を放つ鱗に覆われていた。
よく観察すれば、指は長く、四本。鋭い爪は猛禽類のそれを彷彿とさせた。
その鱗の色、指、爪のセットを見れば、この世界の人間ならば誰もがある生物を連想する。
(ドラゴンの腕──!! あれが、ジンさんが言ってた竜化かっ)
すぐに判断しガーは階段を駆け上った。
「【竜套甲法】。追加、右足」
ガーの耳に聞こえたのは、椅子が砕けたような破壊音だった。
何かが壊れた音だとガーは思ったが、その音がナズクルの跳躍の音だと気付いたのは。
「逃げれると、思ったのか?」
ガーの目の前に左拳を振りかぶった男が居た。その拳を視界の端で捉えた瞬間だった。
「な」
「さらばだ。一撃に沈め」
左拳がまっすぐに──ガーは目を見開く。
「やだね!!!」
左拳と自身の顔面の間に──半透明な盾が生まれた。
止めた。だが、術技の発動者のガーには分かる。
(割れ、るッ!! けど、大丈夫だ! 一撃を防げたなら!! 重ねて使えばいいんだからよお!)
「ならば二撃で沈むのはどうだ」
蹴撃。凄まじい速度だ。
空中で体を捻り、爆撃のような風切音を立てて右足の蹴りが向かう。
「ばっかっ、それも嫌に決まってんだろッ!!」
空中に浮かぶ半透明の盾二枚目。──だがそれはあっけなく破壊される。
ナズクルもその盾の強度は一撃目で学習したのだ。
蹴りがガーの左腕に入る。肉が拉げて骨が軋む、みしりとした音が響いた。
(いっ、勢いが、削れてて、この威力かよッ……! くそ、別のルートだこうなったら!)
ガーは階段の手摺りから落ちるように跳び出した。
しかし。
「わがままだな。一撃と二撃が嫌か。ならば──」
空中。ナズクルが、空を踏んでそこに立っていた。
(な、ん──で)
「──惨劇に沈め」
ナズクルの左拳がガーの顔面に叩き込まれた。
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次回投稿は 7月24日 を予定しております!
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