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【26】ガーちゃん VS ナズクル ④【20】


 ◆ ◆ ◆


『あのなぁ……俺だって、ナズクルのことを何から何まで完璧に知ってる訳じゃないぞ。

つか、お前が知りたいような戦い方だの武器だのは、ハルルの方が知ってるんじゃねえかな』

『なんでも答えるッス!』



『うーん。俺からどうしても何か一言、っつーなら。そうだな。

まぁナズクルと戦闘するっていう事態は避けた方が良い。

今のナズクルは魔王の使ってた魔法まで使える。サシは危険だ、ってのが見解、かな』

『ガーちゃんさんなら常に誰かといると思うッスけどね』

『そうだな。まぁすぐに俺とか誰かを呼ぶ感じにしてくれ』



『それでも戦うことになったら、か。うーん。

弱点、か。割と目立ったもんねえしなあ……。ハルル。何か知ってるか?』

『いえ、弱点らしい弱点が無いッス。強いていうなら嫌いな食べ物がレタスってことくらいしか』

『え、マジか。あいつレタス嫌いなの???』

『そッスよ! 『月刊イケメェーン4月号~勇者私服特集~』にインタビュー記事があって、そこに書いてあったッス!』

『イケメンしか乗らないあの雑誌か。まて、俺その雑誌の取材、来たこと無いぞ』

『ちなみに表紙はサシャラさんとルキさんで、男装が超カッコいいんスよね~!』

『ま、まて。隊長の俺に、何も、何も──ッ!』

『ま! まったく役に立たない弱点かもしれないッスけどね、えへへ』



『ん? なんだよガー。もう弱点は聞き終わったろうに。

まったく役に立たない弱点でも良いって言われてもなぁ……。んー……。

あ。──一個あった。ただ、なんつーか。()()()()()()()()()()()()()()()()だな』



『【竜套甲法(ドラグナ)】。ナズクルの奥の手──それに付随する弱点、だ』



『あ、そもそも竜套甲法(ドラグナ)を知らないのか。

そうだな。専門家(ルキ)から言わせると魔法じゃないらしいけど、俺らから見たら『ナズクルしか使えない特殊な魔法』って思ってくれればいいかな。

竜の力を体に出現させる魔法。例えば竜の腕とか、足とか、爪とかさ。

ただ竜の腕になる訳じゃなくて、なんていうんだろう。人間のスケールに収納した腕、っていうのかな。

ともかく爆発的な破壊力を生む魔法だよ。超自己強化って考えても良い』


『その魔法の代償が、ものすごい大きいんだ。反動っつーのかな。

発動して解除した時、代償が発生する。想像に難くない、超簡単な代償だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

より厳密には、動きが鈍くなる、かな。まぁ使えば使う程、動かなくなるらしい。

だからアイツは、この技をギリギリまで使わない』


『この技を使った後の時間、それが一番の弱点だ。ただ、どうしてこの弱点が、『ある意味でまったく意味が無い弱点か』って話だけどさ。……まぁ、言わなくても勘のいいお前なら分かると思うけどよ』


『ナズクルがこの技を出して、倒しきれなかった相手はいない。

使われる側にしたら、こんな弱点、意味のない弱点だ、ってことだ』

 

 ◆ ◆ ◆


 四階建て。打ち捨てられた廃墟の屋敷。壁は石造りで至る所に蔦が侵食し、今にも壁は崩れそうだ。  

 その廃墟の屋敷の中にガーは転がり込む。


(うしっ、滅茶苦茶に厳しかった第一関門突破ぁ! ──痛っう!!)


 ガーは顔をくしゃっと引き攣らせて左肩を押さえた。

 心音に合わせるように、どくどくと血が流れて落ちる。

 ナズクルの放った三発の銃撃。その内、命中したのは二発。

 一つは左足。掠めた程度だ、とガーは強がるだろうが実際は肉が抉れている。脹脛には火傷のような銃創。

 もう一つは、ガーの肩を貫通していた。顔を顰めて、ガーは奥歯を噛む。


(やっぱ無傷とはいかねえよな。くそ、超痛ぇ……っ)


 内心で文句を放ちながら、ガーは壁に背を預けた。

 古びた大時計の物陰。ここは顔を出せば扉が見える位置かつ、階段がすぐ傍にある。

 

(けどよ。これで──オレの頭の中にある、ナズクルを倒すシナリオ、条件が整った……っ。

アイツがこのまま()()()な戦い方をし続けてくれるなら、この後の数手で詰ませられる。

ただ、問題は、『ドラなんたら』っつー魔法。使ってくるか? もし使われたら、どれくらい強いかが問題だぜ。

『ドラなんたら』の話を聞いた時はオレがまだ盾の術技(スキル)を得て無い時だ。オレの盾で防げるかどうか、その議論はしてねえ。ぶっつけ本番。もし、この盾で防げなかったら……)


 ぎし、っと、木材が軋む音がした。

 ガーは背筋を伸ばす。外にいる。外の扉の前に立った音だ。


「まず謝っておこうと思う」


 外からの声にガーは耳を傾けながら、警戒は怠らない。


「正直に言うと、お前を侮っていた。他者を侮るのは愚かなことだと理解していたつもりだった。

しかし、侮っていたんだろう。だから、ぬるい攻撃ばかりになった。

手を抜きたかったんだ。体力や魔法の消耗は最小限にしたいという気持ちが強かった。

だが、ただの雑兵ではなく、それなりに戦う方法がある相手だった。

その為、お前には残酷かもしれないが──俺も少しだけ全力で戦おうと思う。その意味は」


 ドアノブが動いた。ガーの視界、そのドアノブの先には。


(掛かったな! オレも大好き超熱々のトラップだぜ!!)


 悪戯の範疇を越えた高熱。そのドアノブは焼き鏝のように熱されていた。

 触れたら火傷必死のそのトラップ──が。

 


「──お前が凄惨に死ぬ、という意味になる」



 扉が開け放たれた。

(なっ、開けやがった!?)


 そして、火傷はしていない。

 その異変には、誰もが気付けるだろう。見て分かる、その腕の変化。


 ナズクルの左腕が紅色の光沢を放つ鱗に覆われていた。

 よく観察すれば、指は長く、四本。鋭い爪は猛禽類のそれを彷彿とさせた。

 その鱗の色、指、爪のセットを見れば、この世界の人間ならば誰もがある生物を連想する。

 

(ドラゴンの腕──!! あれが、ジンさんが言ってた竜化かっ)


 すぐに判断しガーは階段を駆け上った。


「【竜套甲法(ドラグナ)】。追加、右足」


 ガーの耳に聞こえたのは、椅子が砕けたような破壊音だった。

 何かが壊れた音だとガーは思ったが、その音が()()()()()()()()()だと気付いたのは。



「逃げれると、思ったのか?」



 ガーの目の前に左拳を振りかぶった男が居た。その拳を視界の端で捉えた瞬間だった。



「な」

「さらばだ。一撃に沈め」


 左拳がまっすぐに──ガーは目を見開く。


「やだね!!!」


 左拳と自身の顔面の間に──半透明な盾が生まれた。

 止めた。だが、術技(スキル)の発動者のガーには分かる。


(割れ、るッ!! けど、大丈夫だ! 一撃を防げたなら!! 重ねて使えばいいんだからよお!)


「ならば二撃で沈むのはどうだ」


 蹴撃。凄まじい速度だ。

 空中で体を捻り、爆撃のような風切音を立てて右足の蹴りが向かう。


「ばっかっ、それも嫌に決まってんだろッ!!」


 空中に浮かぶ半透明の盾二枚目。──だがそれはあっけなく破壊される。

 ナズクルもその盾の強度は一撃目で学習したのだ。


 蹴りがガーの左腕に入る。肉が拉げて骨が軋む、みしりとした音が響いた。


(いっ、勢いが、削れてて、この威力かよッ……! くそ、別のルートだこうなったら!)


 ガーは階段の手摺りから落ちるように跳び出した。

 しかし。


「わがままだな。一撃と二撃が嫌か。ならば──」


 空中。ナズクルが、()()()()()そこに立っていた。

(な、ん──で)




「──()()に沈め」




 ナズクルの左拳がガーの顔面に叩き込まれた。



◆ ◆ ◆

次回投稿は 7月24日 を予定しております!

よろしくお願いします!

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