【26】ガーちゃん VS ナズクル ②【18】
◆ ◆ ◆
「鴉──ッ!」
「ノア!」
ナズクルの上から、その王鴉は襲い掛かった。
通常の鴉よりも遥かに知能が高く、そして、遥かに戦闘に長けた鴉。それが王鴉。
更に言えば、王鴉は術技まで持っていた。
【大小可変】。彼女は自分の大きさを自由に変化させられる。
彼女の名前はノア。ガーの仲間である。
(貴方を脱出させる為に飛んできたのですが──とても良いタイミングだったようです)
『カァア!!』
威嚇の声を上げ、ノアは鋭い爪でナズクルへ襲い掛かった。
「っち! この鴉め! 先に処分するッ!」
ナズクルがその爪を避けてノアの首を掴んだ。
『ァ、ガッ!』
「熱の──」
「だらあああ!!」
──ガーは雄叫びを上げた。完全にノアの方を向いたナズクルの背後に駆け寄っていた。
雄叫びで気付きナズクルがガーに向き直ったが、ガーの方が僅かに速かった。
(拳か。そして狙いは、俺の顔面を狙っているな。
仕方ない、防御魔法は間に合わない。ならば、発動しかけた熱の魔法から組み直すしかないな。
良いだろう。その拳を受けてやる。ただし)
ナズクルは既に魔法を発動し終えた。彼が唯一、一瞬のうちに発動出来る魔法。
熱の魔法を、発動し終えていた。
(今、俺の左顔面に『反撃の熱』を仕掛けた。
あの男の拳が俺の左顔面に命中した時、その拳を貰う。これで詰みだ)
ガーは我武者羅だった。
掴まれたノアを見て、決死だった。
その拳に、彼が唯一使える魔法を込める。
彼の魔法の師──狼先生から教わった魔法を。
「『鉄』ッ!!」
拳がナズクルの左顔面に減り込む。
(なかなかに──痛烈な一撃だッ。が、これでお前の拳は終わり、だっ! 骨まで溶けろッ!)
壁に背中から叩きつけられ、ナズクルはうぐっと声を上げた。
直後に目を開けた時──気付く。
(! 何故、熱の魔法が、発動していない!?)
ガーの拳は、健在だ。溶けていない。
肩で息をしたガーが、すぐにノアと共にその場から逃げ去る。
その背を見送ってしまったのは純粋な驚きからだった。
(……なんだ、今の魔法は。鉄、と言っていた。鉄の魔法。
自身の身体や物質を硬くする魔法の筈。ただそれだけの魔法だ……なのに)
ナズクルは顔面を撫でながら、分析をしていた。
(……これは。なんだこの奇怪な現象は。
熱の魔法が、発動した痕跡がある。しかし、魔法が発動したが効果を使用出来ていない。
どういうことだ。……あの男。何らかの理由であの男が魔法を消せるのだとしたら。
魔法を消す魔法があるとしたら。それは、最も邪魔な存在だ。痕跡から、消せている訳ではないのが分かるが。だが、それでも)
「……『目的達成』の障害になる恐れがある。故に──」
(あの程度の男は放っておいてヴィオレッタを追う予定だったのだが、軌道修正だ)
「今ここで、殺しておこう」
◆ ◆ ◆
ちょっと距離を取れた。危なかった。
今、ノアが来てくれたからギリで切り抜けられた。
マジにかなり危うかった。
「ありがとな、ノア、来てくれて。危うく死んでたぜ……!」
『カァ!』
ノアを軽く撫でる。──さて、このままじゃ、駄目だ。
現状、罠に掛ける戦いしかオレにはない。だけど、なんかナズクル、滅茶苦茶に罠を看破してくる。
オレの行動を先読みしている? 何故、読める。
考えるんだ。
どうして、オレの攻撃が全部読まれる?
これをちゃんと理解しないと、ナズクルに勝つなんてことは出来ない。いや、それどころか、ナズクルから逃げ切るなんてことも不可能だ。
──分かれ道に来た。
アイツを倒す為の罠が張ってある屋敷に向かう最短ルートと、広場を経由する迂回ルート。
最短距離は読まれてるかもしれない。……一応、迂回だ。
くそ。この道も読まれてるんじゃないかって気になっちまう。
さっきのパンチだって、ナズクルはなんかカウンターを狙ってるみたいだった。
アイツの目がさ、顔面にパンチが来る、って理解している動きだったんだよっ。
最初からずっと行動も攻撃も読まれた。なんで──いや、待てよ。
そうだ。攻撃が通った時がある。
一番、最初。唐辛子煙幕を当てた時だ。
あの瞬間だけはナズクルに命中した。いや、弾かれたから命中じゃないか?
でも、あの一撃は、読まれてなかったよな。だから顔面寸前でアイツは防御したんだ。
何が違う。あの時と、現状は。
──……待て。待て待て。
オレ、今、答えを自分で出してなかったか!?
そうだ。オレも、オレ自身もその技を使えてるじゃねえか!
オレが、ナズクルを殴った時、オレは見たんだ。
ナズクルの目を──目の動きを!
立ち止まる。廃墟に掛かった鏡を見た。
オレは自分の拳を一度ちらっと見てから視線を戻す。
これだ。この目の動きだ。
ナズクルは、オレの目の動きで爆薬の位置も、拳の狙いも、逃げる先すら読んだんだ。
……。
か、神業過ぎねえか。……いや、でも。目、の動きか。
確かに──そうだ。人間が攻撃するなら、どこを狙うか見るもんな。
オレだって、そうじゃんか。
今、改めて気付いた。自然にしていたことじゃねえか。
そうだよ。出来る。オレも。オレだって出来る。──かもしれない。
意識的にやるんだ。相手の目を見て、相手の次の攻撃を予測して。
それで、オレの狙い通りの場所に、奴を動かすんだ。
そうだ。
戦闘で行動読まれてビビっちまったけど、アイツの考え方だけなら既にオレだって読んでるじゃねえか!
忘れたのかよ、レッタちゃんの好きな言葉をっ。勇気をくれる言葉をよ!
「臆したら負けだ、死ぬしかないっ! おっしゃアッ!」
オレの背後の細い道、から分岐した──
「独り言か。孤独だな」
「っへ! ノアが居るから独り言じゃねえよ!」
──左側の廃墟の影、ここだろ!
廃墟の壁から身を出したナズクルに突進。
肩から全体重掛けた突進だ。
っへ、ナズクルの奴、驚いてるぜ。
その目──なるほど、オレなら分かる。これを見ていたのか。
「っつ!」
右手、振り下ろしてくるが、それはフェイントだな。
左のホルスターを確認したのを、もう見てるんだよ、オレは!
目線を逸らさないぜ。もうオレの右拳がお前の右手を──殴り上げる!
「な! ──しかしっ!」
銃を抜いた。引き金を引いた。
けど無駄ァ!
「オレの術技! 愛だぜ! 自己愛分の硬さの盾だァ!」
「弱そうだな」
「どっこい! ちぃとは硬いぜ!」
銃弾一発、狙いはオレの顎だったな!
ナズクルは数歩後ろに下がる。オレも下がるぜ。
「──余計なことを、俺はお前に話したようだな」
「っへ。だな。観察力と洞察力。相手の目の動きを見て、次の動きを予測する。
こりゃ、オレにとって良い武器になったぜ!」
(気付いたとて、そう簡単に使える類の武器じゃないんだがな。
厄介な男だ。しかし、ガーと言ったな。──まだ甘い。自分の視線を殺しきれていない。
知ったことによって意識的に視線を遮っているようだが、罠の位置は明らかだ。
オレとガーの間。この地面の下に何か埋めてあるのか。
それも、性懲りも無くまた爆薬だろうな。極冷温によって、爆薬は殺しておく)
「……っへ。ナズクル、どうしたよ。ビビったか? こっち来いよ」
「俺にそんな口を聞く奴は久しぶりだ」
(罠の場所は分かっている。だが念の為だ。絶対に安全な場所を使う。それは)
ナズクルは正面、ガーに向かって突進をし返した。
「っぉお!?」
瞬時、ガーは後ろに下がった。
(ここだろう! お前が今いる場所、)
「そこにだけは罠を仕掛けられない! とか考えると思ったぜ。ま。この罠はあんた用じゃあないんだけどな!」
べぎぎ、と音が鳴る。
(まさか──こんな単純なッ)
「オレより体重が重い奴が落ちるようにしてある──本来はパバト用の罠だけど、あんたは筋肉量めっちゃあるから、オレより重いだろう!」
ぼごんっ! と土煙が舞い、ナズクルが穴に落とされた。
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次回投稿は 7月20日 を予定しております。
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