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【26】血よりも赤い代償を【16】


 ◆ ◆ ◆



 世界の全ては変化させられる。



 故に。

 この予言も。この未来も。

 この運命さえも──実の所、変えることは出来るだろう。


 運命と未来を予言した者の力もまた、『人の力』なのだから。


 人が『術技(スキル)』で見た『運命』なら、それを変えるのも『人の力』であろう。



 ただし。

 


 湯を沸かすには、膨大な熱エネルギーが必要となる。

 凝固させて凍らせるにも、また膨大な力が必要となる。


 等価交換ではない。

 何かを変える為に必要な力は、結果的に得る物よりも、多くの物を支払わなければならない。


 人が作り出した運命ですら、その結果を変える為には要求するだろう。

 残酷な運命は、要求する。──血よりも赤い代償を。


 ◆ ◆ ◆



「──じゃあ何か、全部の馬車に罠が仕掛けられてたのか!?

っだぁああもう!! なんなんだァっ!」


 怒号を上げたのは巨漢の男──パバト・グッピ。

 顔肉に埋まった眼鏡を鼻息と顔の熱で曇らせて、正真正銘、顔を真っ赤にして怒り狂っていた。


「いやぁ、巧妙な罠でしたねぇ……」


 仕方ない仕方ない、と声を出したのは鳥頭の手足の細長い男、スカイランナーである。

 この後どうしましょうかねぇ、と困った声を上げたが、直後、その声は「巧妙だと!?」という怒号に掻き消された。


「ただ()()()()()()()()だけの罠が巧妙!?

見たらわかる程度のくだらない罠になんでお前は引っかかるんだスカイランナーッ!!」


 雑木林の途中街道に向かう途中の出来事。

 なんと、馬車の車輪が全部すっ飛んでいった。

 仕掛けはパバトが言った通りの、コメディレベルの罠であった。


 車輪の留め具が全部氷だった。

 走っているうちに溶けて外れるようになっていたのだ。


 ──簡単に説明したがガーの名誉の為に補足するなら、輪留めを削って細くし、隙間に水を入れ凍らせた。

 外から見てもぱっと見は分からず、氷が溶けたら馬車の自重で軸が叩き折れる、という寸法である。


「まさか車輪に罠が仕掛けられてると思わないじゃあないですか!

残り4台は全部車内に罠が仕掛けられてあったのに! これだけ巧妙に隠してあったんですよ!」

「車輪までよく見れば防げたっつってんだろ!? 脳味噌まで鳥か!? この雑魚!!」

「なっ! 脳味噌はハイスペックですよ!! 全身魔法の()()()になったので滅茶苦茶頭が良いですよ!!」

「嘘吐けこの鳥頭っ! 頭良かったらこんな罠に引っかかる訳がねーんだよヒョロガリッ!」

「ヒョロガリ!? ワタスシだって出来るなら貴方のような体脂肪率90%の豚になってみたいものですよ!」


 ──すっ、とパバトの右手が緩やかにスカイランナーへ伸びた。

 一閃、鮮明桃色(ショッキングピンク)に光る、どろりとした光沢のある泥のような液体が──スカイランナーに襲い掛かった。


「にょわぁあああ!! これ本気で殺す奴じゃあないですかぁああ!」

 すぐさまスカイランナーが飛びのく。


「触れた部位を麻痺させ組織という組織を破壊する毒──パバト・スペシャルだあぁあ!」

「ネーミングクソださぁあああい!! というか待って! ワタスシを殺したらヴィオレッタの居場所は分からないぞおお!! やめておけええ!」


 ──液体が、まるで一時停止ボタンでも押したように全て空中で静止した。


「っち、レッタたそを奪い返したらお前をぶち殺してやる……」

()()って。ほんと気持ち悪」

「……っちぃ!」

 大きな舌打ちをしてパバトは馬車を蹴っ飛ばす。


「まあいいっ! スカイランナー! 飛行魔法!」

「あれちょっと面倒だから使いたくないんですけどぉ……。ワタスシが使う奴は、媒介が火恋鳥(コロマンダー)の尾羽なんで、結構コスパ悪いんですよ。高いし、それにダサいし。

なんか適当な魔物召喚して乗っていきましょうよ。魔物操縦魔法(ライド)とか久々に使う方が絵的にもカッコいいというか」

「急いでんだから早くしろよ、スカイランナーっ!」

「ひぃいぃ。分かりましたから毒を出さないでくださいよおお!! すふぅー! そんなに飛びたきゃ自分で飛べってのぉお」

 最後の方は小声だったが、パバトはしっかり聞こえていた。


「……というか、パバトさん。気付いたのですが!」


「?」


「すっふっふ! 別にこんなに急ぐ必要なんかないですよー!

魔族自治領に逃げ込まれても、その後奪い返せば──痛っ!? なんで頭殴るんですか!!」

「馬鹿っ! ナズクルにしてた説明をお前は聞いてなかったのか!? 時間が無いんだから!」

「は、はいぃ? なんか説明してましたっけ??」



僕朕(ぼくちん)の毒は、まだ解毒出来てないんだよッ!」



「は、え!? 解毒薬は」

「あれは試作品っ! まだ途中なんだよ、解毒作業が!

あの毒じゃあ、一時的に毒を抑えられても、まだ完全な解毒にはならない!」


「だ、だから、パバト。貴方がいつになくシリアスに追いかけてると思ったら!」


「まぁそうだ! だから急げ、スカイランナー!」

「り、リミットは!」

「後、数時間。夜明け前には、レッタたそは。ヴィオレッタは──死ぬ」



 ◆ ◆ ◆

 


「ちょ、ちょっとおお! レッタちゃん!? ハッチ!! 早く来て! 

レッタちゃんが! レッタちゃんが血を吐いたわ!!」



 ヴァネシオスの腕の中──少女はいた。

 口から血を伝わせ、小刻みに体を震わせた少女──ヴィオレッタ。


「そ、そんな。解毒、さっきまで聞いてたのに」

 ハッチはすぐさまヴィオレッタの脈を取る。浅かった。まるで、死期の近い老女ほどに。


「っ……残りの薬を」

 鞄から薬の瓶を取り出した時に、ハッチに予感が走った。

 それは嫌な予感。


(この薬は、あの部屋に置かれていた薬だ。

今更だ。今更気付いた。薬が完成していたなら、わざわざ机の上に置いておく訳が無い。

出来たのなら使うに決まってる。これは、使われていなかった。つまり)



「……この薬は、まだ試作、だったんだ」



 膝から崩れた。瓶を握ったまま。

 ヴィオレッタの顔色は、血の気が抜けたように白くなっている。

 誰の目から見ても明らかだ。


 このままじゃ。



「このままじゃ、レッタちゃんが……死ぬ」

 

 

 


◆ ◆ ◆

次回更新は 7月16日 に投稿予定です!

また、前回の話でもあとがきに残しましたが、【25】の章を分割しました。

もっと短いと思った自身の目算が甘かったです……!

7月13日23時頃に修正を完了しました。

今後ともよろしくお願いいたします!

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