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【26】THE・フェアプレー!!!【14】



 落とし穴。

 古今東西、場所も年代も問わずに使われてきた罠である。

 狩猟、遊び、悪戯、そして戦争にも用いられて来た罠界の古典にして、時代ごとに進化を遂げる先駆け(パイオニア)的な罠。



()()()()()なんだよなー、恋ってよ。

ああ、意味、違ったかぁ?」



 ガーは挑発的にそう言った。

 上から降り注ぐ()()()()()声に、恋はギリッと奥歯を噛む。


 恋が落っこちた落とし穴は、ぬめぬめとした水が張り詰められた穴だった。


(だが、上半身だけは自由。これなら武器を使える……っ!

しかし、具体的な位置が分からねばならない……ッ!

会話をして、割り出す……! 声の位置を!)


「こ、恋様ぁっ! 今引っ張り上げますのでっ!」

 イクサが持ち上げようとするが──恋は出られない。

 足を踏ん張っても、身体が持ち上がらなかった。


「こ、これは」

「す、スライムじゃないですか! 魔物じゃなくて、その」

「その通りだぜ! ご家庭の洗剤などなどで簡単に作れるスライムだ!

子供の頃遊んだろ? で、知ってるかも知れないけど、手作りスライムには塩をかけると固まる性質があるんだぜ?」

「なるほど、塩入のスライムということかっ……! この」

「恋、様ッ」

「へっへーん。やってやったぜ! ま、完全に固まり切ったら逆に出られるんじゃねーかな!」



「っ! 騎士道精神に則ると言っていたくせに!」



「フェアプレー? へへ、あんたも言ったじゃねぇーか? 

戦いってのはありとあらゆる手段を持って勝利する為の過程だ、ってよ!

そういう意味じゃあ、これこそオレのTHE・フェアプレー!!!

()()()()()()()()()()()()()だぜ!」


「っ、いつからこんなものを仕掛けていたんだッ!」

「いつから? それこそ言ったろ。勝負が始まる前からだぜ」

「な、んだと。まさか、こんな仕掛けを逃げながら仕掛けたとでも言うのか!?」

「それはまさかだな。流石に出来ないぜ。かれこれ2時間くらい前に頑張って作った罠だよ」


「に、2時間前、だと?」


(ば……馬鹿な。それは、無いだろ。はったりだ。だって)


「もしかして、『2時間前じゃあ、自分と戦うなんて、思いもよらない筈だぁ!』

とかなんとか思ってるか? だとしたらそれこそ思考力が足りないぜ?」

「っ」




「レッタちゃんを助けた後、お前ら全員が追っかけてくる、なんてのは読める話だろ」




「な、に」

「特にヤベェ強い奴、お前とか、ナズクルとか、パバトとか。他にもさ。

教えて貰ってたからよ。能力とか諸々。だから対策に罠を準備した」



「な……対策に……罠、だと」

「そうだぜ。オレにゃ、圧倒的な力とか瞬発的な思考力なんつー高貴な力がねえからよ。

そんな力が無くても勝つにはどうするか、超考えた。

で、答えはまぁ、罠にハメて倒すってね、そう考えたワケだ」


「この恋が……罠に、まんまとハマった、ということか」


「そうだぜ。ま、罠にハマるかどうかは賭けの部分もあったけどな。

喋ってて、罠にハマるって確信を持ったからよかったぜ」

「確信、だと?」



「元貴族なんだろ。そんでもって、目が見えた頃は相当に強かったんだ。きっと勇者に届くくらい」



 短剣を掴む恋の手に、ビキッと青筋が浮かんだ。

 しかし、ガーからはそれが見えなかった。だが、今も尚、挑発が効いているということは雰囲気で分かってしまっていた。


「超強いし頭も良い。生まれだってオレみたいなクズと違う高貴な人間。

だから、思ったんだろ。『オレに負ける筈がない、追っかけて直接倒してやる。負ける瞬間の馬鹿みてーな顔を絶対に見てやる!』ってな具合によ」


 恋が一瞬、言い返せず口籠った。

 それは自身の心に当てはまる事実があったからだ。

 負ける筈がないという自負心。追いかけて追い詰めることを僅かにでも楽しんでしまっていた心があった。


「小賢しい小さな攻撃に小さくイラついて、頭に血が上ったことに気付くべきだったんだぜ?

だから罠があることを警戒せずに教会の中に入っちまったんだよ。

貴族のボンボンには合わない泥臭い戦いで冷静さを欠い──」




「侮辱を! これ以上聞き入れないと言った筈だッ!!」




 腕を振り上げ、短剣が空を斬る。

 その軌道に合わせて鞭のように撓った細い糸が天井の一ヶ所を切り裂いた。


「落とし穴程度で勝ち誇るなッ! お前の居場所なんてもう丸分かりだったんだ!

その天井に隠れているなんてことはな!」


 息を荒く言う。だから。


「だから、冷静さを欠いてるぜ、って注意したのになあ」

 天井からまだ声がした。


「ば、かな。斬った感触が──っ」


 今更に恋は気付く。

 斬った感触は、人より硬かった。まるで鉄の──。


 コンコン、と教会の壇上。

 説教台がノックされた。


 にひっと笑う肌の黒い男──ガーがそこに立っていた。

 その手には、たわしのようなもの。そこから伸びてるのは鉄の管。



「あ、あれは──! 伝声管(でんせいかん)ですッ! 恋様、あれは!」



 伝声管(でんせいかん)。船や飛行船の中で使われる管である。

 念話等が使えない人間の知恵であり、漏斗状の送話口から喋ったことがもう片方の口から聞こえる。

 単純な構造ではあるが、電話が無い時代の知恵である。


 恋が斬った物は、その伝声管だった。


 即時。

 恋は短剣を振り下ろした。その時、シュボッという音で、何かが発火したのが恋でも分かった。

 簡易な火薬が仕掛けられていたのだと気付いた時には、もう振り下ろしていた。


「んでもって、オレが目の前に出て来たってことは、既に詰ませたってことの証明よ。

瞬発力のあるお前は、必ずオレに向かって攻撃をする。オレはこれを超本気で防御無いし回避しなきゃあいけないけどよ。

──同時にお前は何で防ぐんだろうな。その分厚い鋼鉄は、きっとちょっとやそっとじゃあ、斬れないぜ?」



 『リィン、ゴォン』と鳴りながら。



 恋が居る場所の、丁度真上。

「恋様ッ!」

「ッ。イクサ!」


 どん、とイクサを突き飛ばす。

 落下してきたそれは、ピッタリ落とし穴を完全に覆うサイズ。



 教会の鐘が、落下した。



 そして、すっぽりと恋を覆うように落ちた。


「危な……かった。しかし……っはは! キミ、最後の鐘を落とす作戦、失敗したようだね!

逆を向けばこの自分に大ダメージを与えられただろうけど、こっち向きじゃあ、鐘は恋を守る盾になる!」


「いいや。計算通りに大成功だぜ。まず、お前とお付きの女の子を引きはがせた」


「っ! 私をただの女の子だと思ってるなら甘いですよっ! 戦闘だって」

「──ほーれ」

 ぴょんっと投げたのは──8本の足が悍々(おぞおぞ)と動く人の手よりも大きな。


「蜘蛛ぉおお!!?」


 身体にくっ付いた蜘蛛を振り払おうとした時、ヒールが板に引っかかった。

 そしてそのまま後ろによろけ、壁に背中を当てた時。


「ナイス場所移動だぜ」


「このっ! なんて卑怯な──ぁ」


 イクサの視界が急に上を向く。

 壁が、床ごと──外れた。


「あ、あああああっ!!?」


 教会の外にはちょうど良く斜面があった。

 イクサはその壁の板切れと一緒に、まるでソリに乗せられた子供のように絶叫しながら、滑っていった。


「いっちょ上がりだぜ! んで、最後は」


 ガーはその鐘の前に駆け寄っていた。

 その拳に、唯一仕える魔法──(フェル)の魔法を纏って。


「──とりま、鼓膜が破れないことを祈ってくれよな」


 鐘を全力でガーが殴ると、ゴォン! と鋼鉄の音がした。

 殴る度に面白いくらい大音量で鳴る鐘を──。


「目が見えないなら、多かれ少なかれ耳は重要だよな。つーわけで、潰すぜ、その耳!」


 ──拳打。

 そして、乱打。

 乱打(ラッシュ)乱打(ラッシュ)乱打(ラッシュ)乱打(ラッシュ)



(拳で鐘を殴って、音で攻撃をっ! しかし、音くらいじゃ……っ!)



 ──一つの大音量で人間が気を失うことは稀である。

 しかし、激しい音に晒され続けた結果、具合が悪くなることは日常でもありうる。


 人にもよるが、120~130デシベル以上の音を長時間鳴らされれば、耳は痛みを覚え始める。

 120デシベルに相当するものは、トランペットが最も分かり易いだろう。

 そしてこの鐘の音も、この至近距離だ。

 

 全方位からの音の攻撃。

 計測こそ無いが、恋の耳に割れるような痛みを与えていた。


(音をっ……イクサッ、音をっ) 


 声に出しているのか、それとも心で思っているだけなのか。

 音が響き続ける暗闇の(ドーム)の中で。


(止めさせて、くれ……っ)


 恋は気付けばがくんと意識を手放していた。


 ガーが乱打(ラッシュ)を止めたのは、恋が気を失ってから数分後のことであった。


 留め具の隙間から恐る恐る覗いて、中で意識を失った恋を見て、ガーはガッツポーズをして見せた。


 ◇ ◇ ◇


 作戦が、割とガッツリとハマってよかったぜ。

 『恋』ってこの男が、本当になんつーか、プライド高くて馬鹿にされたくない人間性で良かった。

 真っ向勝負だったら絶対勝てんだろうからな! 本気でラスボスっぽいし!


 まー、ね。強い相手でも、一対一で罠ばかりの状況さえ作れば勝てる!

 実例を作ったのは良いんだわ。

 オレがラスボス級の強敵をしっかりと倒して、この章を最終回にしてやんよ! って意気込みだったけど。

 

 けど、さぁ。……あのさぁ。




「ぶひゅひゅ。あーあー、まーさか『恋』が倒されたっぽいなぁ、ぶひゅひゅ」

「すーっふふっふ!! 結構弱いんですねえ! 恋って男ぉ!! あんなにスカしてた癖に!」

「ぶっひゅー、お前よりかは強いと思うけどねえ~」

「なにぉおおー!!」



 食い込む眼鏡の変態巨漢──パバト。

 鳥頭に枝のような手が生えた見てくれの──変な魔族。



 そして。



「『恋』を倒す程の男として侮らずに戦うべきだろうな。それが例え、偶然だったとしても。

その偶然を引き起こせる男なら、警戒はすべきだ」



 赤褐色。鳥みたいな鋭い目。筋肉。威圧感。熱。

 見てるだけで息が出来なくなりそうだ。


 元魔王討伐の勇者の一人。王国の、偉い人。

 ナズクル。




 あのさぁ。




「──3人同時はズルくない!???」



 



◆ ◆ ◆

次回投稿は7月12日を予定しております。

よろしくお願いいたします!

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