【26】この後、ガーが美味しく頂きました【12】
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オレたちはジンさんとルッスのコンビと合流した時に、『敵』になる奴らの情報を共有した。
その時に、『恋』って男の話を聞いた。
オレがレッタちゃんのこと以外で覚えてるなんて珍しいだろ?
いや、まぁ、特徴的だったからよく覚えてるんだわ。
盲目が特徴的?
いや、それは違うぜ。確かに特徴的だけど、それくらいの個性じゃ興味持たないね。
オレが気になったのは、名前だね。
自分の雅号無いし、愛称によ、『恋』なんて名前付けるか? 普通よ?
んで、付けてさ。その名前を堂々と自称する奴なワケだよな。
だから気になったんだよね。
だから──色々と覚えてるし、色々と考えたんだよ。
◆ ◆ ◆
「さて。良かったのは威勢だけかな、騎士道精神くん?」
教会の前の石階段は──真っ赤に染まっていた。
そしてその階段の中腹に、その男は──ガーはいた。
真っ赤に染まって、うつ伏せ倒れていた。
「っ……く」
「はは。大丈夫かい? 斬った感触が薄かったのに、派手に斬れたみたいだね。頸動脈でも斬ったかな?」
恋は薄く笑って見せた。
「恋様恋様! 動こうとしてるですよ! 血の海の中でもがいて、教会の中に入ろうと力を振り絞ってるです!」
「なるほどなるほど。じゃああの教会の中に自分と戦う為の武器でもある、って感じかな?」
「多分そうですよ!」
恋はガーに近づいた。
その背を見下ろしてから「そういえば」と呟いた。
「まだ自分の武器を紹介してなかったね。騎士道精神で教えてあげよう。
自分のこの短剣、名前を『糸在』と言う。紅女帝蜘蛛の紅糸で作られた剣なんだよ。自在に糸を出す剣で、自分の剣術と魔法で──」
「──」
「ん、なんだい?」
「き──いて、ねえよ……ん、なこと、よ」
「はは、そうだね。じゃあさっさと止めを刺してあげるよ」
恋は美しく笑い、階段に足を掛けた。
「最期に何か言葉を残すといい。聞き届けてあげよう」
「……なら……一言」
ガーの言葉の途中、恋は『ぶちゅ』と何かを踏んだ。
「ワインの匂いって、結構、強いよなー」
「!」
鼻腔を擽る香りに気付いた。ぶちゅっと踏んで、気付いた。
踏んだモノは臓器じゃない。肉では断じてない。
噎せ返るような──その香りは。
(これは血じゃないッ! これは!!)
酸味のある独特な香り。
共和国辺りでよくパスタやピザに使われる有名な。
(──トマトソースだッ!!)
「顔面目掛けてストレートパンチだぜ!!」
「っ!」
ゼロ距離。無理な姿勢でも何でもなかった。先ほど動いたのは起き上がりながら殴るポジションを見極める為だった。
恋は身を屈めてすぐに両腕を盾のように顔の前に合わせ──ガーの拳を防ぐ。
「ついでにお前の攻撃を防ぐために使ったトマト缶の空き缶くらえッ!」
──箪笥の角に足をぶつけると、何故、痛いのか。
それは人間の構造に起因する。
人体の感覚神経という物は、足の指、手の指の先端に密集しているのだ。
ただでさえ感覚神経が密集しているのに加え、足の小指はすべての指の中で最も小さい。
即ち、骨が小さく、構造的に衝撃による痛みを強く感じやすくなってしまうのだ。
故に。
「ぬッぎい!!」
(こ──小指にッ!!)
恋! 人生で上げたことのない類の悲鳴を上げるッ!!
恋の左足目掛けて缶が投げつけられ──命中した。
こればかりはガーの運の良さ。狙って投げたワケではなかったが、思い切り足止めをした。
「そしてすかさず教会の中に逃げるぜ!」
ガーは鼠の如く速度で教会に転がり込み、扉を勢い良く締めた。
「な、なんて手際! ドブネズミより素早いですよ、あの男!
こ、恋様っ! 大丈夫ですか!!」
「っぅ……だ、い丈夫、……っう」
足を押さえながら恋はギリッと奥歯を噛んだ。
「こ、恋様?」
「は、はは……随分と、ユニークな戦い方をする奴だよね、彼……っ」
声は比較的穏やかに聞こえる。だが、ずっと一緒に居るイクサには分かる。
(き、キレてますっ。この恋様は、今っ、超キレてるですっ)
ずし、ずし、と大げさに木の床を踏みしめて、恋は教会の扉の前に立った。
「──ガーくん、だったね。自分は生来穏やかな性格なんだ。
だけどね、久々に、こうお腹の底が熱くなる気分だよ。
昔、仲間内に自分のことをやたら侮辱する魔法使いがいたのを思い出している」
◇ ◇ ◇
さて。
色々と覚えてるし、色々と考えたんだ、って言ったよな、オレ。
そう。オレ、一応、自分のことを『恋』って名前付ける奴ってどんな奴かな、って分析してみたんだぜ。
まー、オレの分析だから、当たってるとは限らないけどさ。
コイツの性格は──まず、相当にいけ好かない野郎だな、と思う。
名前の音は綺麗だ。けど、男で態々、恋って名前付けてるあたり、ちょっとアレだよ。
そうだな、どんな名前でもオレはカッコいいぜ、と思ってる『自分自身に誇りがあるタイプ』と見たね。
自意識がバリ高い。だから一見クールぶってるけど、馬鹿にされたり攻撃されたら『やり返さずにはいられない性質』とも見た。
それも、どんな手を使ってでも相手に恥をかかせてやる、って燃えるタイプだね。いや偏見が過ぎるか?? まぁ、ともあれ。
「──次に奴は扉を切り裂いて、部屋に突っ込んでくる。んで更に」
聞こえないように、小さく一人で言葉を編んで。
◇ ◇ ◇
──サイコロステーキよろしく、扉が切り裂かれて転がった。
顔は笑んでいる。しかし、その短剣を握る手には血管が浮き上がっていた。
「恋様! あの男、長い十字架みたいなモノを持ってます!」
「十字架型? あー、なるほど。はは! 捕具だね! 暴徒鎮圧や犯人逮捕に保安官が使う奴さ!
棘が付いているんだろう、その先端に!」
「はい、その通りです!」
「ははーん。あれだね、自分の糸を絡め取ろうって算段かな?? しかし、その捕具はきっと木製だろう。軽くて扱いやすく捕まえやすい。その上で犯人への怪我は最小限、という作りになってる筈だ」
見えてこそないが恋は言い当てて見せた。
「その通りだ。捕具っつーのは知らなかったけどな──じゃあ行くぞ! オレは正面から」
「ああ、待ってくれ」
ガーが声を上げて一歩踏み込もうとしたその時に、恋が声を出した。
「……っ。んだよ!」
「いやね。騎士道精神に則ると言ったろう、キミ。その言葉、自分は甚く感激したんだ。
昔から、そういう正々堂々とした決闘が好きでね」
「へぇ、そうなのかよ。オレぁ別にあんたを喜ばせるつもりで言ったんじゃないんだけどよ」
「でも喜んだ。ので、提案だ。西部劇を知ってるかな。無学だろうが、多少聞きかじりはあるだろう??」
「……あれか。3、2、1、バーンって奴か」
「そう。それだ。3、2、1。そして、0で互いに武器を抜いて撃ち合う。
どうかな。やってみないかい?」
「……」
「どうした? 顔は見えないが不服そうじゃないか」
「いや。いいぜ」
「嬉しいね。さて。じゃあ、カウントしようか」
「オーケー。オレから言うぜ、3」
「2」
破砕。
その刹那、ガーの真横の擦り硝子が砕け散った。
そして──チェーンのような鋸刃が付いた糸がガーの顔面に向かっていた。
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ガーちゃんが週3で作るアラビアータ
材料
床に散らばったトマトソース (踏まれていない部分、土に当たっていない部分を選別し回収)
…… 目分量(トマト缶未開封なら1缶でOK!)
オリーブオイル …… 大さじ3
にんにく …… 3欠片くらい(おこのみの量でOKだぜ!)
(やすい)唐辛子 …… 2本(小指くらいの長さ2つくらい!)
パスタ …… 2束
塩 …… 適量
① フライパンに、オリーブオイル大匙2を入れ中火。
※ いいタイミングでパスタを茹ではじめましょう♪
② 熱されたらニンニク3欠片を輪切りにしたモノと唐辛子を投入する。
(好みによるが唐辛子はヘタと足を切って揉むようにして中にある種を出しておくと◎)
③ 沸々とニンニクから気泡のような泡が出たら火を止めて、回収したトマトソース一缶分を加える。
【ポイント!】カットされているトマトより、ホールの方が甘みが出るかも。
(カットは酸味がトマトのソースに移っているからか、酸味が出やすい。好みによってはカットもいいかも? ガー調べ)
④ 中火で熱しながら混ぜ合わせていく。
⑤ ゆで上がったパスタと合わせる。
(この時ガーは湯切りが少し面倒なのでちょっと水分がある状態でソースの方に合わせているが、パスタを茹でた茹で汁の塩分で少し風味もよくなる気がする、とのこと)
⑥ 後は混ぜながら火を通せば完成♪
オレが週3で作る、トマト缶と唐辛子とニンニクで簡単に作れるアラビアータ(2人前)!
これにはレッタちゃんもにっこりっ!!
(尚、実際に作る場合は衛生に気を付け、地面に落ちた物は使用しないでください)
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次回更新は 7月8日 を予定しております。
よろしくお願いします。
また、地面に落ちたトマトソースを使った為、ガーが腹痛地獄に見舞われますが、それはまた別の話。




