【08】ルキとナズクル【03】
◆ ◆ ◆
受付嬢を見送って、俺たちは渡された手紙を開けた。
「師匠って、勇者資格剥奪されていたんじゃ?」
「ああ。そうだよ。資格なんて持ってない」
「なのに、この手紙には、特級勇者、って書いてあるッス。
特級なんて、聞いたことないッスよ」
「だな。……さらに封を開けたらもっと驚きだったぞ」
中から出てきた硬いカードを机の上に置く。
「あ! これは」
ジン・アルフィオンと名前が刻まれた、勇者資格カード。
ご丁寧に、写真欄は空白で、生年月日などの刻印もない。
ただ、資格取得日は十四年以上前になっている。
「写真欄も生年月日も無しって……偽造ッスか?」
「いや。この裏面。金印と、刻印は流石に本物だろうな」
「ってことは」
「ああ。架空の勇者を一人作るくらい訳が無い奴が、ご丁寧に俺を勇者に仕立ててくれたようだ」
「そんなことできる人、いるんスか?」
「ああ。いる。というか、差出人、書いてあるぞ」
達筆な文字で、ナズクルと記載されていた。
「! 魔王討伐隊の中でも、師匠に次いで有名な一人じゃないッスか!
炎将、ナズクル・A・ディガルド様!」
ナズクル。
魔王討伐の旅の時、俺と一緒に戦った男だ。
彼は、堅物だったし、傑物だった。
魔王討伐後、国の中枢でめきめきと頭角を現わした人物だ。
そして、その人からの手紙の内容は、簡素だった。
『重要案件発生。詳細は、会議時、口頭で伝える。転移魔法札を同封した。指定日に起動されたし』
という手紙。
さらに、その手紙に同封されていた朱色の短冊みたいな、転移魔法札。
と、転移魔法札の使い方のメモ。
こういう細かい仕事。間違いなくナズクル本人だろう。
「こんな高級な転移魔法札まで送って来るなんてな。
ただ同窓会やろう、とかそういう話ではなさそうだな」
俺の経歴も捏造して、勇者の資格まで取り付けている、という時点で、厄介事であることは確定だしな。
「なななっ、ナズクルさんの直筆手紙! 実質サインッスね! やっほーっ!」
ハルルは、いつも幸せそうで何よりだ……。
飛び上がって喜んでいるハルルを横目に見ていると、ハルルが突然、動きを止め、首を傾げた。
「……でも、なんで私にもこの手紙が届いたんでしょう?」
「それは……まぁ」
俺は口ごもる。
意味は理解しやすい。ナズクルらしい、やり口だ。
多分、俺とハルルの関係性を、ナズクルは知っているのだろう。
ともかく、ハルルも、『会議』とやらへの出席を要求することによって、俺が断れないようにしてある。と言ったところであろう。
実際、効果は抜群だ。
「本当にその日、なんの会議するんだろうな」
「意外と、飲み会だったりしないッスかね。集まって、いぇーいみたいな」
「それは……まぁ、そうだったら、本当にいいがな」
ハルルに答えてから、俺は、呟くように言葉を続けた。
「ナズクルとは、歳は離れているが、ルキと同じように大切な仲間だ」
……そう。大切な、仲間が呼んでいるんだから、何も深く考える必要はない。
俺は、自分に暗示をかけるように、そう呟いていた。
妙な胸騒ぎを、押し殺すように。
◆ ◆ ◆
「一日早いぞ、ルキ」
ナズクルは、自分の執務室に突如として現れた『来訪者』に、
ただでさえ鋭い赤い目をより鋭くして睨みつけた。
「ここの防壁、そう簡単に解ける物ではなかったはずだがな」
転移魔法無効化の為の特殊術式。王国の中でも重要な施設にだけ施される魔法だ。
「防壁? ああ。触れたら壊れたよ、あの程度」
かたや、車椅子の女性。
「流石、大賢者、ルキ・マギ・ナギリ殿だな。で、何用かな」
転移魔法で、突如としてナズクルの目の前に現れた相手に、彼は嫌味ったらしく言った。
夜空に近い紫色の長い髪のルキは、鼻を鳴らす。
「そうだな。ボクは言いたいこと、聞きたいこと、山ほどあるからね。
先に聞いておこうかとね」
少し細い猫のような目で、まっすぐにナズクルを見る。
「何故、ライヴェルグの生存を、黙っていた?」
ぴくっと、眉を動かしたナズクルは、ふむ、と声を上げた。
「何のことかな。さっぱり分からないが」
「とぼけるな。ナズクル。キミがやったんだろ。
いや、政府側だったキミしか無理だろう。
ジンという架空の人間を書類上に作るなんて芸当、キミにしか出来ないはずだ」
「まぁ、そうかもな」
「っ! ……ボクが。ボクが、あの後、どれほど……!
……なんで、仲間たちにも教えなかった!?」
ナズクルは、指を組み、椅子に深く腰掛けた。
「あの時は、それが最善手だった」
「最善……だと」
「ああ。誰から情報が洩れるか分からなかった。だから、秘密裏にすべてを終わらせる必要があった」
ナズクルがそう言い放つ。
「……仲間くらい、信じてくれてもいいんじゃないか。
誰も漏らすような奴は居なかっただろ」
「仲間と言っても、魔王討伐の仕事を一緒にした、ただの仕事仲間、だろ」
その言葉にルキはいよいよ言葉を無くした。
「それ以上でも、それ以下でもない」
冷たく放たれたナズクルの言葉に、ルキは思い切り唇を噛んでいた。
あけましておめでとうございます。
この度は、いいねや、評価、本当にありがとうございます!
今後の創作の活力となりました!
今年も、がんばらせて頂きます。
本年も、何卒、よろしくお願い致します。




