【26】そんな目してるよ【03】
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主義主張が、ブレたなぁ。──ってつくづく思うワケよ。
オレって、こんな熱血キャラだっけか?
額に、汗してさ。頭使って、術技使って……。
こんな……ラクじゃねえこと、する奴だったっけか。
──オレぁ、毎日毎日、煙草吸ってられれば平和なんだよ。
あ、いや、煙草吸うのとレッタちゃんのことを考えれば天下泰平かな。
こんな労働する奴じゃねえんだけどな……。
まぁ。そうだよな。
主義主張変化も、オレが登場してから結構、経つから仕方ないか……。これもまた成長──って。
んぁああ?? まだ8か月弱しか経ってないんだっけぇ!?
作中時間は春で、今が冬前の秋???
嘘だぁ!?!? 正気かよ!? 2年5ヶ月くらい経つ気がすっけどなぁ!!??
ま。まぁ……なんでもいいんだよ。時間なんて。焦り散らかしたぜ、おい。
月並みだけど、一緒に居る時間が長けりゃいいってもんじゃないだろーしな。
勿論、一緒に居る時間が長けりゃ、それはそれで楽しいから最高だ。
一緒に居る時間が短かったとしても、大切って気持ちの大きさに代わりは無いと思うんだよな。
だからまぁ。
『カシャン、コ』と銀のライターの蓋を閉じる。
オレの手癖ね。良い音するんだ。『カシャン』で開いて、『コ』で閉じる。
だから『カシャン』と開けて、親指で着火。
火が点いた時にする焼けたガスっぽい香りがオレ、好きなんだよ。
色も良い。なんか根元が青くて上が白っぽくなるこの火、本当に好きなんだよ。
加えた煙草に火を点ける。
さて、と──。
そろそろだろう。
ハッチたちなら、レッタちゃんを何が何でも助ける。
助けたなら魔王城からまっすぐに合流地点のこの廃墟に来る手筈だ。
そしたら、次は逃げる手段の変更だ。
陸路で逃がす。
なんで、ノアの空路を使わないかというと、追跡の目を眩ませる為だ。
魔王城からノアで逃げてるんだ。
だから、敵はノアでそのまま空を使って逃げると思うだろ?
空路の方が早い。だから空路を潰す為の作戦を考えてくるに決まってる。
どんな作戦かは想像つかないけど、想像つかない程の魔法を仕上げてくるに決まってる。
だって相手は魔王討伐の勇者に、魔王になれたかもしれない変態だぜ?
だから敢えて陸路。
ただ当然、ここまでは相手も考えるだろう。
つーわけで、オレ、色々考えて考えて、準備したってワケ。
で、オレが生まれたってワケ。なんつってな。
◆ ◆ ◆
「──なんつーかさ、あんた。見た目よりちゃんと考えてんだな」
「えっと。そりゃ、どうも」
「それに、色々と聞かせてくれて助かった。……手から血が抜けた気分だ。
……ナズクルが、裏切ってた、っていうのはな。王子も言ってたし、真実なんだよな。受け入れがたい、というか……まだ驚いてるけどさ」
──奇妙な組み合わせだった。
黒い、というくらいしか共通点のない二人。
そして、その隣に少年が一人。
話を聞いていたいのは、黒髪を二つに結った小顔の女性。
黒革の靴を、行儀悪く机の上に乗せて足を組んでいる。
ジャラジャラと銀の鎖を衣服に付けた彼女の名前は、セーリャ・ド・カデナ。
S級勇者であり、王の護衛を行う女性だ。
そして、話しをしていたのは肌の黒い混血の男。
ガーちゃんと呼ばれる彼は足を組んで頭を掻いた。
「あー、それでさ、セーリャさん」
「ぁん?」
「王子──流石にその誘拐スタイルは可哀想じゃない??」
そう、セーリャの隣には一人の少年が転がっている。
──何故か両手両足を縛られている。口までガッツリ縛られた誘拐スタイルだ。
だが彼は──間違いなく、この国の王子、ラニアン王子である。
「全く可哀想じゃない」
『もご! もがもがっ!!』
「な、なんか抗議してるみたいだけど、セーリャさん、いいの??」
「いーんだよ。埒が明かないからな。このままじゃ」
「いや、まぁ、そうかもだけど」
「わたしは──何を言われても、ヴィオレッタを待たない。
ガーに協力はしない。わたしは、わたしの使命を全うする」
セーリャがそう言い放った。
それから、セーリャはガーを一度見て、視線を外す。
「……悪い」
セーリャは少しだけ震えた言葉でそう呟いた。
「なんも悪くねーじゃん。セーリャさんは、王家を守るのが最優先だろ。
世界が亡ぼうが王家の血筋が守る、って、そんな目してるよ」
「はっ。分かってんじゃんか、あんた」
「まぁね」
渇いた笑いを浮かべたガーを見て、セーリャは「ふん」と鼻を鳴らした。
それから、品定めするようにガーを足の先から頭の先まで見つめる。
「……わたしも、分かるぜ。あんたの目ぇ見てさ」
「え??」
「休み時間に友達と会話もせずに寂しく寝てる奴の目、してるわ」
「ただの悪口ッ!!」
「精々お調子者止まりだけど基本的には陰キャ層かな」
「追撃かっ! セーリャさんは思い切りクラスじゃゴス位置だろうに!」
「わたしは不思議ちゃんだったよ」
「もっとあれじゃんっ!?」
「ま。なんでもいいけど。そういう目をした奴から順番だったよ」
「何が? 密室の殺される順番??」
「ちげーよ。あんたみたいな目した奴から、どんどん居なくなってった、って話」
「あぁ??」
「大切な物を守る為に、ってね。お国とか、家族とか──女の子とかね」
「……命捨てでも守ろう、って、目ってことね」
「そういうこと」
「命捨てたい訳じゃねえよ。オレは、ただ──みんなで笑えるように、頑張るだけだぜ」
ガーは、にひっと笑って見せた。
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いつもありがとうございます!
軽い熱中症でした。きっともう大丈夫です!
次回更新は6/20予定です。よろしくお願いします!




