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【26】間違いなくキミだね【01】


 ◆ ◆ ◆


 やぁー……ぼくはシャル丸。

 ちょっと眠くてうとうとしてるんだ。


 あ、ぼくのこと覚えてる? そうそう、可愛い子猫。いや違う、魔物だし獅子だけど。

 まぁいいや、子猫で。背中に羽、片方生えてるのだけは忘れないようにね。

 自慢の羽って程じゃあないけど……まぁ今さっき切り落とした。超(いち)ぃけど、仕方なかった。


 ぼくは、ぼくが思った通りにやりたいことをやった。


 ムカつく男の顔面に、()()()()()()()()爪痕(ストライプ)を叩き込んでやった。

 ノアの顔面に傷付けたんだ。どんな犠牲を払ってでも顔面に3倍返ししてやるって決めて、やってやった。


 だから、まぁ……上出来なんじゃないかな。

 幾ら魔物って言ってもぼくは子猫だぜ。魔法もそんな使えないのにさ。


「──Foooooound……! 猫vill……!」


 やぁ、その声は、顔面シマウマ爪痕(ストライプ)男じゃん。

 ……なんだ。顔の傷が恥ずかしくて()()()()()付けてるのか?

 似合ってないよ。……ああ。


 どうして見つけられたとか、細かいことは分かんないけども。

 ま。仕方ない。やれるだけのことは、やったつもりだ。あーあ。


 ◆ ◆ ◆


 男は笑い声を上げた。ようやく見つけた、と森に響く程の大声で。

 男の名前はセンド。その顔に付けているのは、異様な仮面(マスク)だ。

 白い石で作ったような仮面で、異様なのはその伸びた鳥の嘴。顔より長いだろう嘴がついた仮面である。


「よう、やくっ! 捕まえ……た、ぞ! シャルヴェイスッ!」


 肩で息をしながら、泥まみれのセンドは木の上に居た有翼獅子(シャルヴェイス)の幼生──シャル丸を掴んで持ち上げた。

 シャル丸は身動き一つ出来ない。それは彼の体力の限界でもあったからだろう。


(あーあ。掴まっちゃったよ)


 シャル丸は内心でそんな他人事のような感想しか出てこなかった。

 それ程に疲弊していた。

 対照的に、センドは高笑いを上げてから、木から飛び降りて着地する。


「ああ、不運な日でもあった! こんな魔物の幼生に一度はノックアウトさせられるて!

術技(スキル)が故障したとかふざけた状態にもなって! 身体も結構痛い! 

でも結果、最高だ! おかげで術技(スキル)を自分の装備として扱う方法も得たし、最終的にお前を捕まえられた!」


 首根っこを掴まれたシャル丸。その足の流血も、背の流血も著しい──。


(暴れるのも無理だ。いや無理じゃないかもしれないけど、もうなんか疲れたというかさ)


「なんだ。不服か? 逃げ切れたと思ったのか? うんん???」


 その嘴の仮面がシャル丸にぐんと近づいた。


「くふ、この俺の術技(スキル)はお前はどこまでも追跡できるんだよお! 一度、魔物の臭いをなあ、嗅いだらこの術技(スキル)は忘れないんだぜえ。言っても意味は分からないだろうがなあ!

まるで猟犬のような鼻の良ささ! だからお前は、この俺から逃げられない! 捕まる運命だったんだ! 受け入れろ! そして、諦めるんだなあ!」


 シャル丸はその言葉の意味を半分も理解できていない。


(……ぼくの耳元でガンガンガンガン五月蠅ぇな。ムカつくわ、こいつ)




 ぺっ。と。



 シャル丸は口の中にあった唾液や血が混ざったそれを、仮面に吐きつけた。

 瞬間、センドの身体がビクッと──まるで電流でも走ったかのように跳ねた。


 シャル丸を地面に放り投げ、センドは狂ったように唾液のついた仮面を擦った。


「ぁああああっ!! この、クソ猫ぉおおおおッ!」


 まるでカブれた痒みに狂うように、鳥の嘴を擦りながら叫ぶ。

 センドの術技(スキル)は臭いでの追跡。その術技(スキル)は本来、鳥の形をしており本人とは別行動を取る。しかしその鳥が使い物にならなくなり、仮面として成型し直した。


 つまり、今の彼は、臭いを何十倍にも感じてしまう状態にあった。


 仮面を脱ぎ捨てたセンドは、肩を怒らせて地面にぐったりと転がったシャル丸に向かう。


「く、クソがッ! このクソ、クソッ、クソぉおお!」


 地団駄を踏むように、何度も何度もシャル丸を踏みつけた。


(──……こんな蹴らなくてもいいのにな。ひっどい人間もいるもんだな)


 怒りのままに、反撃も出来ないのを良いことに。


(いい人間も、くそな人間も、今まで沢山会ったなぁ……。一番いい人間は、今ずっと一緒に居る人間たちだな)



 土、血。泥と雨。



(そうだなぁ。一番いい人間はたくさん居る。けどもまぁ──)





 雨、夜。──風が薙ぐ。





 その時だけ、雨が止んだ。





(一番、いい鴉は、間違いなくキミだね──ノア)





「胴部八所、生存急所。腎、脊椎の側面を打つ。

それすなわち、正常呼吸を殺消(さっしょう)す──」




 上空から、その大きな影は真っ直ぐに落ちる。


「な」


「──『腎臓痛打(キドニーブロー)』ッ!!」




 センドの背面に拳が突き刺さる。

 空気と血を吐き出しながら、センドの目が白黒した。


 拳から、その筋肉魔女男(マッヂョマン)は力を抜かない。


「うちの──シャル丸に」

「ぁ、が、ぁ!?!?」


 腕の筋肉が隆起した。

 拳が更に肉の中に食い込む。



「何、してくれてんだ、オルァア!!!!」



「あ、ぎぁ!!!?」

 弾けた。まるでゴムボールのように数メートル吹き飛んだセンド。

 


 シャル丸は、少し笑ったように走ってくる人物を見た。

 ──筋肉魔女男(マッヂョマン)



「シャル丸! 貴方、無事!?」



(ったく。デカい弟。……遅いぜ。それに、そんな抱き抱えるなよ、暑苦しい。

でもまぁ)


「こんなになるまで。貴方、本当……何やってるのよっ」


(うるさいな。もう。そんな泣きそうな顔するんじゃない。まったく)


『──なぁぉ』


 シャル丸はその大きな腕に噛みついた。

 その噛みつきに、安堵したようにヴァネシオスは笑った。


「いつもより、弱々しいんじゃないの、貴方?」


(五月蠅いな。手加減を覚えただけだよ、デカ弟)





◆ ◆ ◆

いつも本当にありがとうございます!

次回投稿は 6/14 を予定させていただきます。

その後、深夜勤務が後1回で終わりとなりますので、

17日以降に改めてスケジュールを調整したいと思います。

この度は不安定な投稿にお付き合いいただきありがとうございます!

今後も何卒、よろしくお願いいたします!

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