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【25】あと100発 受けても無毒化を出来るねえ!【29】


 ◆ ◆ ◆


 目の前のパバトっていう変態巨漢は、ただの変態巨漢じゃない。


 禍々しい変態だ。

 ──元魔王の腹心。レッタちゃんクラスじゃなきゃ勝てないと思う。


 持ってる魔法も、使う術技(スキル)も異次元。

 自分の身体に、自ら手を突っ込んでさ、あたしが刺した毒針も抜いていた……文字通りの化物だ。


 ただ。

 それが──()()だ。


 パバトは、身体の中に入っていた毒針を抜いた。

 あの毒針はあたしの術技(スキル)で作った毒針で、体内に入ってからも毒を出し続ける。

 それに気づいたから、身体から毒針をぬいたんだ。



 つまり、毒が体の中にあり続けたら中和しきれない。



 なんだろう。近いニュアンスで考えるなら──飽和かな。

 毒を撃ち続ければ、きっと毒が中和しきれず、飽和する。


 そして……あたしは多分、一度だけ、パバトの限界まで毒を与えることが出来る。


 それは、今だけの好機。

 パバトの誤認識と、侮り。


 後は時間だ。準備の時間。

 息を殺して、潜ませる。煌々と光る。


 ◆ ◆ ◆


 ハッチとパバトは睨み合っていた。

 

 睨み合っているが、互いに動かない。

 奇妙な沈黙だった。


 それは、二人の間合いが原因で生まれた沈黙だ。


 パバト・グッピは術技(スキル)によって体を軟体動物のように変形させながら近接格闘を行う戦闘方法である。

 身体を引き延ばすことも出来るが、それでも有効な攻撃射程範囲は意外と短い。

 正しい殺傷力を出すなら、半径2メートルが最大だろう。


 ハッチが獲得した術技(スキル)も、今使える武装は右拳のみ。

 翅による加速が出来るが、パバトに確実に当てるなら2メートルは接敵したい。

 そうすれば背後に回って拳を当てられるだろう。


 ──お互い、距離が一歩足りないのだ。

 

 しかもその一歩目は割と隙を晒すことになる。

 つまり、先に踏み込んだら──動いた方が不利。



「ぶひゅひゅ。考えてることを当てようか?」



「……何よ」


僕朕(ぼくちん)が毒針を体外に出したから、毒を中和出来る限界がある、って考えてるんだろう?」


「そうだけど」

「ぶひゅひゅ! 素直でいいなあ! 素直なキミに事実を教えてあげよう!

絶望する事実をねえ!!」


 パバトはぐちゃりと涎を垂らしながら走り出す。


「!」


 先に動いたパバトは不利。

 ハッチからの一撃は必ず貰う。



 一撃。パバトの顔面に右拳が叩きつけられる。

 パバトの指より太い毒針が、その頬を貫通している。


 だが、パバトは恍惚──悦を瞳に浮かべて、ぺろりと伸びた長い舌でハッチの拳を舐めた。



「ホスホリパーゼ、ヒアルロニターゼ、メリチン、ヒスタミン等……!」



「!! なっ!」

 一歩下がるハッチに、パバトはにたりと笑い、頬を貫通した針を抜く。

 血と泥のような肉が地面にどしゃっと落ちた。


「ぶひゅひゅ! 毒の主成分は……そんな感じだろう?? 2発の毒針から分析したよ。

一般に蜂毒と呼ばれる毒だぁ。まあ、蜂なんだから当然か!」


「……っ。成分の分析が出来たからって何」

「変な強がりはする必要ないよぉ。毒使い同士、分かってるだろう?? 

成分がバレれば、中和は容易! もっちろん、その分の魔力(コスト)が掛かるけどねえ」

「……でも」

「事実を突きつけてあげよう。ぶひゅひゅ。僕朕(ぼくちん)はねえ──」





「──あと100発 受けても無毒化を出来るねえ!」





 ハッチは目を見開いた。


「……なん……ですって。……ひゃ、100、発?」

 

「ぶひゅひゅ! 絶望したかい!? そうとも!

キミの自慢の毒針を後100発! つまり、100回も僕朕(ぼくちん)を殴らなければならないんだよ!」


 パバトは左拳を叩きつけるように振り下ろした。

 風切る音と同時に鞭のように撓った腕がハッチの肩を叩く。


「がっ」

「キミに100回も僕朕(ぼくちん)を殴れるかなあ!? 試してごらんよッ!」


 パバトの右拳がハッチの腹を打った。

 みしっと重い拳。拳を引き抜かれると同時に、ハッチは膝から崩れて、おえっと血反吐を吐いた。


「絶望したかい? 絶望したろう? ぶひゅひゅ! 僕朕(ぼくちん)はねえ、絶望する顔が好きなんだよ!

どんな大人になろうかと夢見る少女たちが痛みに! 苦しみに! あるいは不可逆な四肢欠損に!

絶望していく姿が何よりも、何よりも幸福を与えてくれるんだよぉ! キミは一体どんな目で絶……、望……を??」


 パバトは目を細くした。


 ハッチは、口を押さえながらしゃがんでいた。

 その目は──まるで晴れやかな空のように、雲一つなく、どこまでも透き通った輝きがあった。

 それは、この状況にも痛みにも──一切の怯えが無いという。


「絶望……っていうなら、絶望はしてないわ。ただね……。驚いた、だけよ」


「はぇぃ?」



 ハッチは、髪をかき上げた。






()()()()()()()()()()()()





 羽音。羽音、羽音羽音──一斉に。虫の羽搏きが部屋中に木霊した。



「なッ!」


「あんたさ、勘違いしてたんだよ。【帝蜂(アベリア)】は自身に蜂の力を付与する()()術技(スキル)じゃない。

蜂の女帝──あんた、詳しいみたいだから知ってるでしょ。女王蜂は戦闘も出来るけど、専門じゃない。

女王蜂の力は【蜂を生み出し】【命令し】【身を守る】。

だから、戦闘の専門は……。蜂の女帝を守るのは──!」




 空中浮遊(ホバリング)する独特な低い羽音が無数。

 聞くだけで鳥肌が立つような、その音たち。



「ひっ、あっ! あ、ああっ」 

 流石のパバトも、顔に脂汗を噴き出した。

 闇の中、物陰に隠れていた煌々と光る目の蜂たち。




「【働き蜂(ビジー・ビー)】! 

あんたが言う100回毒針を刺すってさ──この200匹の蜂の群れなら、一匹あたり何回刺せばいいか、教えてくれるかしら」




(ぶ、物質、または何かの媒介を、蜂に変える術技(スキル)かッ!! 

や、やびぃぃぃぃい! 100って数値は嘘じゃないッ! 本当の本当だッ!

この量、まともに刺されたらッ! 刺されたらこれはッ! ぅぅあおおおおおお!!)




 一斉に、蜂は襲い掛かった。

 毒液を撒き散らしながら、パバトは悲鳴交じりに暴れる。


 しかし、四方八方囲まれれば、──用意さえあれば別だが、突発の戦闘。

 一度にこの蜂たちを殺す手段はない。





「あぎぃいぁぁああっぁぁぁああああぁあああああああ!!」





 野太い悲鳴が、部屋中に反響した。


 



 ◆ ◆ ◆

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

評価やいいねにブクマなど、本当に元気付けられました!

これからも一層がんばります!


また、次回更新日は5月28日を予定しております。

よろしくお願い致します!


2025/05/27 0:25 暁輝

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