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【08】調査記録【01】


表題【トゥッケ=ブラド 殺害事件 調査記録】


□ブラド家執事 サリヴォンマ

 事件当時、サリヴォンマは領主代行トゥッケ=ブラド(以下、トゥッケ氏)の指示により、

 別室へ武装を取りに行く。


 その後、被疑者の殺害現場を目撃。

 証言から、被疑者は『ヴィオレッタ』と名乗る少女である。


□サリヴォンマとの会話録音の文章化

警兵(以下、警):ゆっくりで大丈夫です。一度に話そうとしないで、大丈夫ですよ。

サリヴォンマ(以下、サ):はい。恐ろしい光景でした。坊ちゃんが、この世の物とは思えない、叫び声を上げ続けていて。

サ:鍵穴から見ようとして、こう、首を伸ばして見てました。

サ:まず、あの少女が、背中から伸びた黒い骨みたいな物で、

  あっという間に坊ちゃんの足を突き刺して。そこから、腰に掛けて、次々と刺したんです。

警:それはその骨で、ですか?

サ:はい。その骨で。その時点でも、目を背けたかったのですが。

  行為はエスカレートして。次に胴が切開されました。

  腸を、引きずり出されていました。

サ:悍ましい。光景でした。……すみません。水を。

警:大丈夫ですか。 (録音時間 51秒間 無音)


サ:落ち着きました。

サ:その後、上半身と下半身が、切り離されていました。

サ:夥しい血でした。ですが。

  少女の手から出た黒い靄が、その断面を覆って……。傷が塞がっていました。

サ:その後は……そう、その靄がハサミのような形になったんです。

  それで、ジョキン、ジョキンと。う。

警:落ち着いてください。大丈夫ですから。 (録音時間 1:22秒間 無音)


サ:すみません。それで。心臓が、露出させられていました。

サ:どんな魔法か、スキルかはわかりません。

  ともかく、不思議と血が出ていなかった気がします。

警:その時、少女とトゥッケ氏との会話はありましたか。

サ:会話ですか。少女が、徹底的に殺す、とか、私へ、私の怒り?

  などと言っていたのは聞こえました。


サ:後は、何分、ドア越しだったので。

警:発動した魔法や、スキルに関するものなどは何か記憶にありますか?

サ:魔法ですか。回復魔法が得意、と言っていたのは聞こえました。

  後は……あいまい? 黒い靄を発動する時、そんな言葉が聞こえたかと。


サ:そうだ。坊ちゃんを惨殺する前に、当家のライヴェ……ではなく、

  ある勇者と、戦闘がありました。

サ:その時、自らの血を出して、それを靄に変換して戦っていたように思えます。


警:ありがとうございます。では、その後は。

サ:はい。その後は、心臓を引きちぎって、少女が踏み潰しました。

サ:そして、窓を割って、逃げたのを見ました。


警:少女は、単独でしたか。

サ:いいえ、黒い肌の男と、狼、それからオオガラスと一緒でした。

警:分かりました。ありがとうございました。


◆ ◆ ◆


 鋭い赤い目に、赤茶の髪の三十代後半程の、その男性は、記録書を読み終えた。

 鍔の付いた白い帽子を目深に被り、指で瞼を撫でた。

 最悪の、結果だ。


「ナズクル参謀長殿。こちらに居られましたか。皆さまお探しでしたよ」

「そうか」

 ぶっきらぼうに答えて、ナズクル参謀長は、椅子から立ち上がった。


「やはり、何も手がかりは掴めず、ですかね。それだけの記録では」

「いいや。掴めたよ」

「え! そ、それなら、すぐにでも」

「お偉いさん方には後でいい。まずは現場レベルに伝える」

「よ、よろしいのですか?」


「かまわん。現場レベルと言っても、数件、電話するだけだ。

 その後、勇者ギルドの中でも、AA級以上が所属するギルドのマスターたちに通達を頼む」


「え、AA級以上っ。はっ。ど、どのように通達を」

「『魔王復活の可能性が極めて高い。直ちに、手配書のメンツを捕縛せよ』と」


 黒い靄だけなら、そういう術技(スキル)はいくらでもある。


「血を靄に変換する……それは、魔王の使っていた術技(スキル)と、同一だ」

 少女が、魔王なのか。それとも、魔王の眷属か。

 ナズクル参謀長の中で、いくつかの可能性はある。


 ともかく、今は最悪を想定して動かなければならない。

「何を棒立ちしている。走れ!」

「は、はいっ!」


 檄を飛ばされ、大慌てで走っていたその背を見送り、部屋にある電話機を動かす。

 回線コードと数字を入力し、受話器を取る。

 電話が、繋がると独特のぶんっ、という音が鳴った。


「……急に連絡して済まない。……いや、少し、話があってだね。 

 分かっている。だが。……ああ。分かった。

 君も話があるんだな。なら、王都へ出て来れるか?

 そうだな……積もる話もあるだろう。

 ふっ……そうだな。ああ。

 大変な体なのに、無理させて済まないな、ルキ・マギ・ナギリ」


 

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