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【25】赤守族 族長 ヘイズ・ヒーディアン【08】



 ◆ ◆ ◆



 ──()()()、ある魔族が勇者に殺された。



 その魔族は、(わたし)の憧れだった。

 人も、魔族も、隔たりなく重宝する情愛を持っていた。

 同時に、人であろうと魔族であろうと容赦なく切り裂く冷血さもあった。


 王とは、誰よりも慈悲深く、誰よりも冷酷であるべきだ。

 祖父はそう言っていた。そして、それを体現したのが【彼】だとも言っていた。


 時代が違えば、確実に【彼】は魔王だった。


 その時代、【彼】は使えるべき主君を持っていた。だから王にはならなかった。

 魔王フェンズヴェイ様。誰もが認める魔族の王。その腹心。


 一族も、【彼】が二番手というのは納得した。それ程にフェンズヴェイ王は実力があった。

 王も、【彼】は自身と同列に強いと認めて下さっていた。

 それが、誇らしかった。そして、(わたし)は【彼】の補佐が出来て、光栄以外の何物でもなかった。



 その【彼】の名前は──【思い出せない】。



 ……思い出せないということがあるだろうか? 

 畏怖し、尊敬し、敬愛した、その方を。


 だが、何故か、【思い出せないこと】が【自然であり】それ以上は考えられない。


 考えれば考える程、【思い出せなくなる】。

 何か、思い出があった筈だ。


 それは──(わたし)の人生で、最も輝かしい宝物だった。


 あの日々が。

 【彼】に対して、忠誠を抱いた思い出が。

 (わたし)の、存在全てを、決める程の、宝だった。

 筈なのだ。

 

 だが、何故。



 (わたし)は……。 



 (わたし)が、あの男に近づいたのは……【彼】が為したことを継ぐためだった筈。



 あの男に。

 ナズクル・A・ディガルド。

 (わたし)たちを虐げし勇者の中で、その後も執政に関わっていくその男。


 (わたし)は、……魔族を守る為にナズクルに近づいたのだ。


 接触をしたのは、今から十年前。

 戦後まもなくだった。


 ◇ ◇ ◇


「──魔族殲滅の足止めをして欲しい、と」

「はい……ナズクル殿」


 当時、王国は魔族狩りに躍起になっていた。

 それはもう、戦史に残すことが憚られる次元(レベル)で。

 凄惨極まれる。

 それ程に王国民の感情は魔族敵視、蔑視が極限まで高まっていた。

 魔族による弾圧が酷い地域もあった事実と、戦勝の機運も後押しし、魔族に対しては何をしてもいい、そういう正義の鉄槌型の私刑が横行していた。


 その状況を改善する為の具体的な話し合いを、(わたし)はナズクル殿へした。


「良い案だな。魔族全体が西北諸島へ押し込まれれば、かなり平和的に解決するだろう。

しかし、だ」

 ナズクルはテーブルを挟んで静かに指を組んでいた。


「この案を捻じ込む為にはかなりの労力が必要となる。それこそ俺の力を全て注ぎ込む程に。

現王ダックス殿下は賢い。だから俺が本気になればその熱意は伝わるだろう。

さて。しかし、それをして、俺は何を得られるんだろうか」


 その言葉に、(わたし)はすぐに返答が出来た。


「何を、所望されましょうか。……(わたし)は魔族を裏切る真似は、しませぬが」

 

「話が早くて助かるよ。そして、思った通りの堅物で好感も持てるな。

さて……望みは簡単。小さな望みだ。──魔族内の行動を、常に伝えて欲しい」


「……行動を?」


「ああ。族長たちの行動だ。この先、情報が力になるからな。

どんな情報も流して欲しい。小さくても些細でもいい。

それくらい細やかなら、魔族を裏切ったことにはならないだろう」


 正直。

 (わたし)の当時の見通しは甘かった。

 それくらいなら、問題はないと思っていた。

 魔族の国を、せめて自由自治が出来るように復権する為には。

 ナズクルというパイプは必須でもあった。

 だから。問題ない範囲の情報を流し続けた。


「分かり申した。……虹位七族、赤守(あかもり)が族長──ヘイズ。……誓いましょう。貴方に情報を流すと」


 だが。このやり取りが。

 やり取りをしてしまったからこそ。(わたし)は。


 ◇ ◇ ◇


「は、話しが……違いますぞ、ナズクル殿」

 ──声が上手く出なかった。

 それは、ルクスソリスの爪に喉を抉られたが故だった。

 だが、それでも。声を絞ってでも出した。

 

「ああ、すまない。ルクスソリスにはキミがもう一人の仲間だとは伝え忘れていたよ」

「っ……その、話ではない」

「ではどの話かな」


「センスイ殿を……殺した、話し、でありまする」


 センスイ殿を死に追いやった張本人となったのだから。


「ヘイズ。……お前はユウ奪還には協力的ではなかったか?」

「それは。そうだ。ユウ殿をこちらが有していた方が、危険、だから。だが」

 ──センスイ殿の目を欺いて奪還する。そう聞いていた。

 いや、そう言いながらも気付いていた。

 これは……子供っぽい言い訳に過ぎない。


「ナズクル殿……。まさか……セレネ殿も、殺す気、なのでありましょうか」

 暫くの沈黙の後、(わたし)は言葉を絞り出した。

 

 その男は……つまらなさそうな顔をしていた。


「お前は情報を俺に渡した。それだけだ。何の責任を感じることも無い。

しかしながら……どうやら同族の命が失われたことに強く自責を感じているようだな。

既に──十年弱前から、魔族を裏切っている癖に」


「っ! 裏切っている訳ではありませぬ! (わたし)は、魔族の為に、ここまで」


 その時、(わたし)が口を止めた。

 辟易。ナズクルの顔にはそれがあった。


 同時に、彼は笑っていた。口元だけが、歪むように笑っていた。


「結果的に、幸福を与えられるだろう。ともかく、ヘイズ。この距離、この間合いが問題だ」

「な、何を言って」


 吸い込まれるような瞳の色。

 深い奈落に燃える緑穢(みどり)の炎のような──。


「【偽想】──【お前の信じる者】は【俺】に書き換え(リプレース)する」

今から、【お前の信じる者】は【俺】だ」


 その瞬間から。

 (わたし)は、なんだか。

 大切なことも。

 大切なものも。


 思い出せなく。


 なっていて。


 ◆ ◆ ◆





 


 ◆ ◇ ◆


いつも読んで頂きありがとうございます。

先日は本当に申し訳ございませんでした。

どうしても納得がいかず、試行錯誤させて頂きました。

今後も継続して投稿致しますので、何卒、よろしくお願い致します!


2025/04/18 16:56 暁輝

(後書き書く前に誤って投稿してしまいました……っ。すみませんっ)

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