【25】自己紹介から始めようぜ?【07】
魔王城。それは、王国から見て西の果ての海の上、絶海の孤島にある城だ。
厳密に地図を広げればその先にも国はあるが、王国では畏敬の念を込めて西果ての城と呼ばれている。
侵入経路は、海路、または空路。
天候が大雨で嵐。彼らにとってはこの嵐は追い風だ。
嵐に紛れて空路から侵入が出来る。
ハッチもヴァネシオスも、二人ともガーが口を開くまで空路での侵入だと考えていた。
しかし。
馬車の中で聞かされた、侵入経路は。
「え。ガー、聞き間違いじゃないわよね」
「我もびっくりなんだけど。その、侵入経路」
二人が目を白黒させた。
そんな二人を見ながら、銀色のライターを取り出した。
カシャン、コと音を立ててライターの火を煙草に付けて、ガーは苦笑いした。
「転移魔法で侵入するよ」
転移魔法。
高位の魔法使いしか使用出来ない魔法だ。
ちなみに、魔力だけは馬鹿程あるライヴェルグですら使えない魔法である。
繊細かつ超高難度魔法。
「て、転移魔法って。ガー、あんた、魔法使えないでしょ? 勿論アタシも使えないけどさ??」
「我なんてコップ動かしがギリよ!?」
「だろうなぁ」
「だろうなぁ、って! それに、あんた知ってるでしょ! 魔王城は転移魔法禁止が何重にも張り巡らされてるって!」
「そうよ! たしか、魔王城内にある認証? の魔法を使ってようやく使えるようになるのよね?
仕組みは我も知ってるけど、認証の魔法は」
「まぁそれも大丈夫だよ」
「……あんたね、真面目に」
「オレぁ真面目だっての。だから信じてくれって言ったじゃん」
「……はぁ。アタシ、なんで信じる、って言っちゃったのかなぁ」
「まぁ、転移魔法は使える筈なんだ。だから、そこは割愛するぜ」
「わかったわよ。で、作戦は」
「滅茶苦茶に単純。オスちゃんなら余裕」
──そして、煙草の灰を、皿に落とす。
煙草二本目。煙が充満し始めた馬車の中で、彼らはガーの作戦を聞き終えた。
無茶ではあるが、一番勝算が高い。
「……それ、実行する我、リスキーよねぇ」
「頼むよ」
「あぁもぅ。分かったわヨぅ」
「それともう一つ頼みがあってさ」
「??」
「まぁちと、全部を説明してからじゃないと頼むことが出来ないんだけどさ」
ガーはそう言ってから頬を掻いた。
ただその顔は。窓の外の雨を見る顔は、酷く遠くのものを見る目だった。
頬杖ついた指を、自身の頬に突き立てる。自傷とまでは行かないが、それはまるで怒りを抑えるようにも見えた。
はぁ、と吐いた溜め息が、少し広い馬車の中で一度反響し、そこから誰もが沈黙した。
「城壁の港で、セレネさんが襲われてさ。裏切り者を探し始めただろ、オレたち」
ガーが語り出したことは、最近のヴィオレッタと皆の行動だった。
「襲撃されたセンスイさんとセレネさんと、赤守の族長さん。
合計七人の族長が、行先を知っていた。だから残った四人の族長が裏切り者で、それを見つけ出す為に動いていた」
「そうだけど?」
「裏切り者はナズクルと繋がっていて、情報を流していた。で、一番怪しいのが、橙陽族だ、って話だった」
「確かそうヨね。我たちと連絡取れなくなってね」
「でも違うと思うんだ。裏切り者は、そんな見つかるようなヘマをしなかった。
予定と違うことがあって容疑者が絞られた結果、仕方なく橙陽の族長を、殺すか拘束した、ってところだと思うんだ」
「え。それって」
「裏切り者は他にいるってこと」
「いいや。七人の族長の中にいた。……なんて言うんだっけか。ミステリーでさ。
犯人が先に被害者に紛れるトリック。心理的トリック? まぁいいか。
さて。モクモクと煙らせたのは、見つける為だぜ。何を見つけるかって? そりゃもう。分かれって。
オスちゃん! 扉から逃げる!」
瞬間、ばん! と音を立てて馬車の扉が中から開いた。まるで誰かが逃げ出すかのように。
しかし、ヴァネシオスは素早かった。
何も見えない、何も分からないが──ガーの声に合わせて馬車の外に飛び出した透明なそれを殴りつけた。
錯乱するハッチを横目に、雨の泥濘の中で、ヴァネシオスはそれを取り押さえていた。
ガーは煙草を咥えて、雨の中。
ヴァネシオスが取り押さえた透明な──彼を、見下ろす。
半透明に、徐々に変わったその男。
目を布で覆った、赤黒い髪のやせ細った男。
彼は。
「なぁ。赤守の族長さん」
魔族七族、赤守族の族長。
「いつから……気付いていたのでありましょうか」
「気付いたのは最近だし、一緒に来てるって気付いたのはさっきだ。まぁ、すっかり騙された。
センスイさんと一緒に殺されたって聞いてたからな」
「っ……!」
「とりあえず──自己紹介から始めようぜ?
そういや、あんたは作中に名前、出てねぇもんな?」
そう口元を笑わせたガーの目は、一つも笑ってはいなかった。
◆ ◇ ◆
いつも読んで頂き本当にありがとうございます!
昨日は何も告げずに投稿せず申し訳ございません。
以降は無いように行わせていただきます。
これからもよろしくお願いします!
2025/04/16 暁輝
◆ ◇ 25/04/17 0:34追記 ◇ ◆
いつも読んでいただきありがとうございます。
誠に申し訳ございません。
4/17投稿、休載させていただきたいと思います。
今回は、完全に作者の我儘ではありますが、
次話が上手くまとまらず、どうしても納得が出来ない為、お時間をいただきたく思いました。
遅くとも、4/18には投稿させていただきます。
本当に申し訳ございません。必ず投稿致します。
何卒、ご容赦いただけると幸いです。
2025/04/17 0:34 暁輝




