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【25】お願いなんかされなくても【06】


 ◆ ◆ ◆


 オレが、術技(スキル)を発動して……1時間が経った。

 攻撃があったらしいから、さっきより強く、強く念じた。

 薄ぼんやりと、今のレッタちゃんの状態が分かる。

 さっきまで激しく動いていたけど……今は、横になっている。

 なんだろう。何があったか分からない。


 ◆ ◆ ◆


 術技(スキル)を発動し続けて……2時間21分。

 馬車が準備出来た。喋るのは、最小限に。

 オレの術技(スキル)は、集中していないと解ける。

 だから。

 レッタちゃんを守る為に、集中をし続ける。


 ◆ ◆ ◆


 ──骸鳥馬(カァク)という魔物が居る。

 天馬(ペガサス)に似て、羽の生えた馬である。

 違いはその顔であろう。骸鳥馬(カァク)の顔は、鳥の頭蓋に皮を張り付けて作ったような顔であり、人の恐怖を掻き立てる顔をしている。

 とはいえ、顔に反してとても人懐っこい。気性も大人しく、従順。

 学習能力も高く魔族の生活には欠かせない生物だ。


 その骸鳥馬(カァク)に馬車は引かれて空を走る。


 空飛ぶ馬車には男女三名と、鴉と猫が揺られていた。

 ガー。ハッチ。ヴァネシオス。──黒烏のノアと、猫のような虎のような子供獅子シャル丸。


 雨と風を切る音だけが馬車の中に響いていた。

 彼らがこんなに静かなことは今までなかっただろう。


「ねぇ、ガー。ごめん。集中してると思うんだけどさ。もしよければ……話し、していい?」

 柔らかい口調でハッチはガーに問い掛けた。


「ああ。いいよ。悪い、集中してるから口数少なくて。寧ろ話してた方が少し楽だわ」

 ガーは組んだ指から目を一度離してから、頷いた。


「ありがとね。あのさ……さっきさ。死の予言に抜け穴がある、ってあんた言ってたじゃない。

ね、教えてくれない? それ」


「ああ。……簡単なことだよ。ハッチの予言は回避出来ると思ったんだよ」

「そうなの?」


 ガーは頷く。

 魔族の予言者ユニーから託された『予知』の書かれた紙を指差した。


「あ、指組み外してもいいの?」

「別に、なんとなく組んでるだけだから大丈夫。オレはガーちゃんだぜ?

レッタちゃんの防御を外すようなヘマだけはしねぇよ?」

「あはは、ブレなくて良かったよ」


 ガーが指でハッチの予言を撫でた。

 『自ら毒を飲み、全身に溶解毒を浴び、激痛に喘ぎながら死亡』。


「……これは十中八九、パバトの奴との戦闘の暗示だと思ってるんだ」

「パバト。あ、毒……!」


 そう、とガーは頷く。

「でもさ、ガー。自ら毒を飲むって、どういうことだと思う??」

「オレも考えたけど、何パターンかあって絞れなかった。ただ分かるのは、二種類の毒の存在かな」

「??」


「その予言には『自ら飲んだ毒』と『全身に浴びる毒』の二種類が出てくる。

解釈は広い。例えば、レッタちゃんを返して欲しくば毒を飲め、的なね」

「……結局その後、裏切られて毒を浴びせられる、と」

「そう。まぁ分からんけど対処法は簡単。──パバトと会わなきゃいい訳だ」


 あっけらかんとガーは言い、ハッチは苦笑いした。


「いや、それ、無理じゃん?? レッタちゃんを助けようとしたら絶対出てくるでしょ」


「無理にしない為に入念に索敵するんだよ。オスちゃんと一緒に行動してさ」

 桃色髪の筋肉魔女男(マッヂョマン)──ヴァネシオス。

 (彼女)は見た目こそラフレシアのようにド派手だが、隠密としては超一流だ。


「でも、オスちゃんの予言は? あの予言じゃ含意が広すぎて回避し辛いわよね?」

「そうだな。でも──」

「大丈夫よ! (あたい)、絶望なんかしないから! 良い筋肉はね、絶望なんか跳ね返すのよ!」

「──だってさ」

 ガーがけらっと笑うとハッチは苦い笑顔を取り繕った。


「気合で乗り切る訳ね……」


「そうよ! (あたい)は気合と腕力の魔女なんだから!」

「まぁ……オスちゃんはさっきちょっと話したけど、抜本的な回避が出来そうなんだよな」

「え? 何、あたし抜きにして話しをしてたの??」

「ちょっとね」


 ──失った腕の他に、()()両足を捨てる。


(状況が分からないけど、自身の足を捨てなければ、『死』自体は回避出来る。

ただ……オスちゃんも理解してたけど。足を捨てなければならない状況になった時点で、『死』が確定する。

……これは、正直、賭けの部分だ。どういう状況なら足を捨てるのか、考えつかなかった。

いや、見当は幾つかあるけどね? 岩盤が落ちてきて動けないとか、それこそ毒が足から回るとか……。

ただそれは考えれば考える程、何もできなくなる。だから)


「まぁまぁ! (あたい)はこんな所で死なないから大丈夫よ!

(あたい)、レッタちゃんを助けたら超イケメン魔族のホストを呼んで、滅茶苦茶に飲ませて潰して。そして滅茶苦茶にするんだからネ!」

「絶妙に死亡フラグっぽいからやめなさいよね!!」

 ハッチが心配半分にそんな言葉をあげた。

 ガーは二人を見てから少し微笑んで、指を握り締める。


「ガー。大丈夫? あんた、さっきから」

「ああ、うん。大丈夫大丈夫。……術技(スキル)、連続で使うとさ。めちゃ疲れるだけで。

まだまだ元気があるから大丈夫だよ」


 ガーはそう言うが──もう既に見て分かる程、彼の目の下にはくっきりとクマが出来ていた。

 だが、それでも。ガーは術技(スキル)を解除しない。

 レッタちゃんにどんな危害が及ぶか分からない以上。

 絶対に、彼は術技(スキル)を解除しない。


 ◆ ◆ ◆


 ただ、問題は……死の予言じゃない。

 オレは、言ってしまえば死の予言なんてどうでもいいと思っていた。

 軽視してる訳じゃない。そっちはもう()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 だが、もしその予言を変えることが出来たなら。


 一つ、とても大きな現実問題が出てくる。


 ……寧ろ、そっちの方が予言より確実な死だ。


 レッタちゃんは、何故か分からないがあの魔王城に囚われた。

 捉えたのは十中八九、ナズクルだろう。

 魔王城に居る理由やレッタちゃんを誘き出した方法はどうでも良い。


 魔王城にいるレッタちゃんを助け出すのは、割と簡単だろう。


 捕まってる場所は、もっと近づけばオレには分かる。

 そしたらオスちゃんの隠密行動を駆使すれば、救い出すのは簡単だろう。


 問題は……帰りだ。

 レッタちゃんが居なくなったら、ナズクルたちはすぐに気付く。

 どれくらいの戦力が魔王城にあるのかは分からないが、下手すれば何十人、何百人の追手が掛かる。


 それを、どう撒く?


 ──ごごんっ、と馬車が揺れた。

「あれ、どうしたんだ?」

「あれよ。分厚い雨雲! だから高度を下げたみたい」


 がたん、と一度の揺れの後、地面を車輪が掴む振動が腰に響いた。

 雲の周辺には雷もいる。なるほど、空を飛ぶと危ないのか。

 骸鳥馬(カァク)はかなり賢い。昔舗装されていたであろう地面を択んで走っていた。


 ここは……廃村か。

 結構大きな村だったようだが、完全に打ち捨てられている。



 ──……!



「……ハッチ。オスちゃん」

「うん?」「ぁに?」


「……オレのこと、信じてくれるか?」

「え?」


「オレを信じて、オレの作戦に、乗ってくれないか? レッタちゃんを助ける為に……お願いだ」


 ガーの言葉に、ヴァネシオスとハッチは目を見合わせる。

 それから、二人は溜め息を吐いた。


「あのねぇ。ガー。お願いなんかされなくても、あんたがこの作戦で行きたいって言ったらさ?」

(あたい)たちは全力で協力するに決まってるじゃないのよ」


 ◆ ◆ ◆


 術技(スキル)発動から……6時間42分。

 現在の時刻は……深夜3時を回った辺りか。

 眠気、空腹感、疲労感すらもある。

 膝を中心に足全体が、まるで罅でも入ったみたいに痛かった。

 術技(スキル)は……精神も体力も、どちらも疲弊させる。

 けど。

 絶対に、解除なんか、してやるものか。

 意地でも。なんでも。


 絶対に。レッタちゃんを助け出す。


 ◆ ◆ ◆


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