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【25】ヴィオレッタ VS パバト・グッピ ③【05】



 嵐のように荒れた海。風と雨の飛沫が、その巨体に当たっていた。


 パバトは──魔王城の石壁、その外壁にくっ付いていた。

 さながらヤモリやトカゲのように。


(──ぶひゅひゅ! 危なかったけどもっ! 経験が生きるとはまさにこのことだぁあ!)


 内心で叫びながら、べちゃりと手を離し──壁にべちゃりと叩きつける。

 指が4本程弾け飛びながら、壁と手がぐちゃぐちゃに混ざり合う。


(ハルルちゃぁんに投げ飛ばされて死にそうになったからねぇ! 僕朕(ぼくちん)はそういうのをしっかりと対策するっ! というか今更しった僕朕(ぼくちん)の明確な弱点だったしね!!)


 パバト・グッピという魔族は体をまるで粘土のように自在に変形させられる。

 それを応用して、頭や四肢が取れてもくっつけたり、頭の位置を変えたりも出来る。

 心臓さえ無事なら、なんとでもなるのだ。

 故に、超高度の落下で全身が叩きつけられた場合、流石に死ぬ。


 過去にハルルとの戦いで落下死を経験したこの男は、対策として両手両足を壁に粘着させる技術を得ていた。

 といっても、粘着の魔法を習得した訳では無い。彼は毒の魔法以外、あまり使えないのだ。

 それ故、自身の手をぐちゃぐちゃに溶かし、壁に無理矢理くっつけているだけだ。

 少し動くのも亀の歩みであるが、着実に上階へ登っていた。


(しかし戻ってもレッタちゃんはもう逃げた後だろうなぁ……。

となったら、魔王城内を大捜索かぁ? はぁ。憂鬱だなぁ。

実は僕朕(ぼくちん)も詳しい訳じゃないんだよねぇ……。いやね、一応は僕朕(ぼくちん)の研究部屋が城内にあるよ? だけどさぁ。城内じゃ魔王様の目が厳しいからさ?? 悪事用に別荘立ててそこに住んでてんだよねぇぇ。……ともあれ、まぁ)


 パバトの顔がぐにゃりと歪み、ぐちゃぐちゃな笑顔を浮かべた。


(隠れた獲物を狩るって、やっぱり■■(そそる)なぁ……ぶっひゅぅ!)


 そして、自身が叩き出された壊れた窓に辿り着いた。

 雨にも濡れた重い体をトドのように部屋に上げる。無論、警戒は怠らずに。


(上がった瞬間にドガーン! ってことも考えられたけど、どうやら逃げたかなぁ。ぶひゅ)


「さぁて、かくれんぼを始め──?」


 そして、パバトは混乱半分に驚いた。

 それは、パバトが予想もしていなかった事態。


 ヴィオレッタが、そこに居たのだ。


 ただし、臨戦状態ではない。

 諦めている訳でもない。──ヴィオレッタはその壁に背を預けて、気を失っていた。

 罠。パバトはそう考えたがすぐに違うことが分かった。


(……僕朕(ぼくちん)、戦闘中に気付くべきだったなぁ……。そうだよなぁ。

あの防御は魔法を防げるから、僕朕(ぼくちん)の魔法も防げる、と思い込んでしまってたなぁ)


 パバトは首を回しながらヴィオレッタに近づく。


 ヴィオレッタが今、居る場所の足元。

 そこには夥しい鮮桃色(ショッキングピンク)の血溜まりがあった。


「踏んじゃったんだねぇ。僕朕(ぼくちん)の血を。ぶひゅひゅ」


 それは一つの保険。彼の今までの生存戦略。


「──僕朕(ぼくちん)の血はねぇ、踏むとねぇ、気化するんだよねぇええ。ぶひゅひゅ

とはいえ、さっきの戦闘で毒は無効にされたから気にしなかったが!

そうかそうか! その防御は! 空気に混ざった毒は、防げなかった訳だぁ!」 


 ガーの術技(スキル)で、ヴィオレッタはいかなる攻撃も彼女を傷付けることはない。

 だが、その防御は万能ではない。


「さてさて。今回のレッタちゃんが喰らった毒は──僕朕(ぼくちん)の血だね!

ぶひゅひゅ、聞こえてるかな? 今、レッタちゃんを侵してるのは、猛毒だぁ。

と、言ってもすぐ殺す類じゃあない! 僕朕(ぼくちん)を傷付けた代償に! 時間を掛けてゆっくりたっぷり苦しみを与える猛毒さ!

まぁずは速攻毒! 全身が痺れて動けなくなってぇ。次に遅行毒! 

身体の自由を奪い、呼吸を奪う! 一日中痛みを与えてね! ぶひゅひゅ! ぶひゅ……ぁー」


 パバトは一人で淡々と喋ってから、気付く。

「……媚毒(びやく)であれば色々と凄いことが出来たというのにッ! 僕朕(ぼくちん)の毒ゥ!!

何やってんだよ! 僕朕(ぼくちん)の血毒ッ!!」


 叫んだ時、丁度、ごふっとヴィオレッタが血を吐いた。


(……まぁ、なんかつまらない幕引きになっちゃったけども。仕方ないね。

さて……一度、この猛毒は他の毒より強いからねぇ。解毒した後じゃないと、僕朕(ぼくちん)()()()の毒で楽しめない。さぁレッタちゃん、この解毒(やく)を飲み飲みしましょぉねぇ~!)


 パバトが指の先から透明な液体を生み出す。生理的に穢く見えるが、紛れもない解毒効果がある。

 しかしそれは。


 ヴィオレッタの唇に当たる前に、弾けて消えた。


「な──! おい! 防御魔法!? これは本当に解毒(やく)だぞ!?

どういうジャッジしてんだよ!!」


 パバトは慌てた。両手から絞り出すようにして解毒の水を出す。

 だが、その全ては、ヴィオレッタに当たることはない。

 まるで、透明なアクリル板が間にあるように、全てが弾けて避けていく。


「っ! 待て待て待ってッ! 僕朕(ぼくちん)の毒は猛毒だ!

ちょっと気化させられるタイプの解毒は無理なんだけど! おい! 防御魔法! 聞こえてるか!!?」


(や、ヤバいぞ。僕朕(ぼくちん)のこの毒は、僕朕(ぼくちん)の解毒(やく)でしか解除できない。

今から気化式を作るか。それしかない。マジかマジか! 折角手に入れたヴィオレッタちゃんがっ)


 つぅ、とヴィオレッタの頬を血が伝う。


(し、死ぬ……っ! り、リミットは一日あるけども! あるけど!)


 パバトは焦る。

 殺すことが目的なら成功。しかし、パバトの目的は生かしてなければ意味がない。


「っ! そうだ。僕朕(ぼくちん)の研究部屋がある!! そこで気化解毒(やく)を作ればっ」


 なんとかなる。

 ヴィオレッタを掴み上げ、パバトは壁にあたりながら魔王城の細い廊下を走り出した。


 ──不意に、階段を下る辺りで停止。

 パバトはヴィオレッタを階段の上に置く。

 数段降りて、彼女のスカートの中を覗き込み──。


「くそが! レギンス履いてやがったッ!! もういい! やっぱり早く解毒するぞぉおっっ!!」


 改めて抱えて走り出した。

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