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【総集編】ジンとユウ【56】



 武器を持たない状態。

 魔族(ユウ)が有利な状況。

 慣れない砂漠という足場。


 更には、ジンを騙して渡しておいた『禁式』という魔法を禁止する呪いのような魔法も付与。


「だけど、お前、ここまでしても……まだ拳があるぜ」

「そうですね。知ってますよ。貴方の攻撃範囲に入ったら殴られる」

「だけじゃない。正面から来る魔法なんて何も怖くない」

「でしょうね。──まぁ僕だけなら、完封されたかも」


 瞬間、砂丘が燃えるように色づいた。


「──!」


 着弾。爆風。

 それはその位置に目掛けて落とされた無数の火炎系魔法による、爆撃だった。


「一対一じゃ絶対に負ける。だから、数人。いいえ、大勢で一気に圧し潰すのが得策です。

ということで、王国で幽閉されていた囚人の中から、魔法攻撃のスペシャリストの方々を選抜しましたよ」


 降り注ぐ炎は止まらない。

 砂も煙も、舞い上がる。


「矢や弾ではなく純粋魔法攻撃にしているのは、投げて跳ね返されるリスクを極限まで減らす為」


 まだまだ炎が立ち込める。

 それこそ形すら残らないようにと念入りに。


「氷とか形状がある魔法は論外。雷も何か吸収とかされたら厄介だから使いません。

結果、炎。──酸素を奪われ、高熱で焼かれ。生きていることは不可能な筈なのです──が」


 砂煙が霞み、残った炎が燻る中──体の至る所に焦げた傷跡があるジンはギリッとユウを睨んだ。


「流石、魔王討伐の勇者(バケモノ)ですね」

「っち……ふざけやがって」

「ですが、まだまだ魔法はあります。さぁ、ご賞味ください。最高火力の魔法を──」


 ◇ ◇ ◇


 ──僕は間諜(スパイ)です。

 嘘吐きで、裏切り者で、人を裏切って──。

 

 今も、そう。

 僕を信頼している隊長を、砂の国まで来させて。

 嘘を吐いて欺いて、それで、裏切る。


 好きな人の為──フィニロットさんを助ける為になら、なんだって利用して誰だって裏切る。


 懺悔も後悔も無い。

 無い。


 無い──……。……()()()()()()


 あはは。懺悔も後悔も、ありますよ。

 良い人を。裏切って、殺そうとして、嘘を吐いて、騙して……心が痛まない訳、無いんですよ。


 僕だって、知りませんでしたよ。

 僕が、意外とね。隊長を好きなんだ、って。

 皆が思ってるより、ずっとずっと、なんか、良い人だってずっと思ってて。

 ああ……だから。


 僕はどれほど、クソ野郎なんだ。


 覚悟を決めて、隊長とフィニロットさんを天秤にかけた。

 フィニロットさんを選んだ。だから、もう後には退けないのに。

 後悔してるなんて。

 

 でも。この結末は、仕方がないですね。


 古今東西、どこでもね。

 裏で暗躍している人間の、その裏切り者なんて、末路は決まっているじゃないですか。


 ◇ ◇ ◇


 暴力の化身──ジンは自身の服だった()を振り回す。

 布剣術(ふけんじゅつ)

 布の剣は魔法の炎も、音すらも斬り裂いた。

 掻き集めた魔族たちは無残に倒され、ユウ自身も全ての魔法を使い切った。


 ユウは膝を付き──口元だけを笑ませた。


(裏切り者には、無残な死を──)


 内心で小さく呟いてから、息を吐いた。


「……布の剣。本当に、貴方はなんでも使えて……化物ですねぇ、隊長は……」

 ユウの軽口に、ジンは答えない。

 その目を、ユウは見れないでいた。


(数分も持ちませんでしたね。僕と隊長の戦い──ああ、僕と隊長との、最後の戦い、って言った方が良いか)


「魔法も禁止したのに、ほんと、どんな体してるんですかね、隊長は」


 ユウの目の前で、ジンは歩みを止めた。

 布の剣も、拳さえも、この距離ならジンは外さない。


(一つ。嬉しいのは。──最後に見るのが、隊長の顔、ということでしょうか。

……今回は、流石に、甘くないでしょうからね。もう、きっと)


「終わりみたいだな」

「ええ。……終わりです」

「……他の仲間はいないのか。パバトとか」

「いませんよ。パバトは危険人物ですし、部族的にも僕とは組みません。

全戦力で臨み──終わりました」


「じゃぁもう、仲間はいないのな」

「……ええ。仲間は、いません」


(──そうですね。僕に仲間はもう、居ないんですね)


 冷たいジンの目を一瞬だけ見てから、ユウは薄く笑った。


(自分の口で、認めるだけで。──ああ、僕は。いいえ。

最後まで。……最期まで、僕は、嘘を吐き通さないといけません。

僕は。……僕は)


「──お前が何を考えてるか、全然わからん」

「ええ。そう、ですね」

「でもな」

「?」


「お前のことは分かるんだよ」


「え?」

「お前がハルルん()に来た時も、どうせ俺のことをどうにかして嵌める気だってのは分かってた」

「ああ……なるほど。最初から、疑われてた訳だ」

「違ぇよ……ユウ」


 ジンはユウの胸倉を掴んで、立ち上がらせる。


「俺は嘘を見破れない。どっかの新魔王(ヴィオレッタ)みたいには出来ない」

「……知ってます」

「だけどな。……友達の言葉が、真剣で本気だってことくらいは分かる」

「え?」


「何しに来たって聞いた時に、お前は言っただろ」


 『助けて下さい』

 ユウは最初にそう言った。


 そう、その言葉は、何故か自然に彼の口から飛び出した言葉だった。

 砂の大国に連れていくだけなら、もっと違う言い方も出来た筈なのに。

「あ……」


「あの言葉に、嘘は無かったんだろ? 

少なくとも俺にはそう聞こえた。真剣な、本気な言葉だった。だから、俺は乗ったんだ」


「……っ」

「罠でも地獄でも、いくらでも持ってこい。飛び込んでやる。

んで、もう罠も地獄も終わったんだろ。聞き耳立てる奴も居ない場所に来たみたいだし」

「……隊長」

「俺に──何か頼みはあるか?」




「助けて、ください……」




 砂が舞う。震える唇を噛んだ。

「ったく。なんて顔してんだか。

はぁ。……だから、何からだよ、ってツッコミは、しないでおいてやるか」

「ぁ」

「ま、何からでも構わねぇけどな。──今度こそ本当に、しっかり引き受けてやるよ」


 ジンが笑って見せた。ユウは困ったように笑う。


「ありがとうございます。隊長」

「だから、隊長じゃなくて」

「……でしたね。便利屋の、ジンさん」

「おう。──まぁ、俺も馬鹿じゃないから実際はあたりが付いてるんだよな」

「え?」


「フィニロットさんの記憶が入った術技(スキル)、所在は掴めてるんだろ?」


「!」

「じゃなきゃ俺を殺すなんて行動しないだろうからさ。

それが人質ならぬ術技(スキル)質だから従った」

「は、い。そうです。

──実は、ナズクルの研究の後ろ盾の、『恋』っていう人物がいまして。

彼が何か知っているのは間違いないんですよ」

「へぇ。……よくその場でぶち殺さなかったな」

「ああ、会ってないので」

「何?」

「ただの状況証拠です。

──ルクスソリスさんが、フィニロットさんの術技(スキル)の内容を知ってたんですよ」

「?」


「フィニロットさんの術技(スキル)を知っているのは、《雷の翼》の中だけ。

ナズクルさんから聞いた可能性もありましたが、それは話していないということ。

なら──残るのは、パバトか恋、その二人だけ」


「おお。なるほど。本編でもしっかり書いといて欲しい内容だな」

「いや、それはこの次の章で具体的に……というか何言わせるんですか」

「あー、いやー、まぁようやく本編に辿り着けそうだからちょっと今の内からアップをなぁ」

「止めときましょう。その反省関係、割と真剣に反省しているみたい何で。またストレスによる体調不良(笑)でアップ止まっちゃうと困りますし」

「だな」


「で、話を本筋に戻しますと、パバトはそんなことに興味はない。

なら残るは、その『恋』っていう研究者だけ、です」


「……研究者か。そいつが黒幕か?」

「かもしれませんね。ともかくその人物に接触さえできれば──!!」

「!!」


 二人は同時に顔を強張らせる。

 熱気。そして怖気。悍ましい魔力が砂の都の方で渦巻くように沸き上がった。


「この魔力は。おい、ユウ!」

「る、ルクスソリスっ! いえ、そんなアイツにはこの場所を伝えて無いんですよ!」

「尾行でもされてたんじゃねぇのか。ともかく戻るぞ! 転移しろ! 転移!」

「いや使えないですよ!! 魔力が底ついてるんですよ!」

「あぁ!? 帰りのことくらい考えとけよ! 俺を倒せたらどうする気だったんだっての!」

「休んでから戻る気でしたよ!!」

「何を悠長な作戦立ててんだよ!」

「そりゃそういう作戦立てますよ! 悠長な作戦を、ユウだけに!」

「うるせえ!」

 ごちんとユウの頭が殴られた。

 緊急事態だというのに、少し良くないかもしれない。

 だけど、二人は少し馬鹿らしくて笑った。

 まるで、十年前のあの頃のように。



 からのすぐに切り替えて。


「ダッシュだ、走れ一年!」

「ひ、ひぇぇぇ」


 体育会系のノリで二人は走り出した。

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