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【総集編】偶然の暴発【52】


 ◆ ◆ ◆


 ジンとハルルがメッサーリナリナと戦っていた、その裏側。

 ルキも、ヴィオレッタも、それぞれが行動をしていた。


 ルキは、ナズクルに対抗する為に仲間を集めていた。

 ただの仲間ではなく、《雷の翼》の元メンバーたち。

 その中でも協力してくれるであろうと算段が付くメンバーだ。


 まず《中身こそちょっと駄目だけど美人に成長した鬼の姫》。

 そして《十年ですっかり肥大化してしまった蛙っぽい拳闘士》。


 最後に目の前にいる《永遠の少女》である。


 《永遠の少女》と呼ばれる彼女の名前はプルメイ。

 寿命の時が来るまで、『死が存在しない』という術技(スキル)を有する女性である。


「……昔の、仲間。集まった。……集めなきゃ、マズイ、の?」

「ん。ああ……ナズクルのことだからな」

「う、ん?」

 プルメイにルキは頷いて見せた。


「アイツにボクの持っていた『天使の書』を渡したんだ。

……そして『魔王書』もアイツは持っている」


「? それ、何?」

「天使が書いた、と言われている魔法の書さ。

……この世界の理をも歪める魔法が記されていた。空間を破壊するような魔法さ」

「それが、ナズクルの欲しい物?」

「らしいね。……ただ、そうだな」

 ルキは、小さく呟いてから遠くの空を見上げた。


(空間に干渉する魔法が記された『天使の書』。

少し解読した範囲では空間そのものを焼き滅ぼす魔法や、空間を圧縮する魔法があった。

そして、歴代魔王たちが編み出した魔法が全て記されていると言われる『魔王書』。

その上、王国を実質支配した……ならば。国王の持っていた『王の書』も手に入るだろう。

王の書があれば『王城の真の姿』が発動する。

……また、その書物三種類は、別に3つ揃えたからといって竜が現れて願いを叶えてくれる訳じゃない。

だが、それぞれの特性を知っているからこそ言えることがある)


「──アイツは、最後に世界全体を相手取る力を手に入れる。そしてそれを、振り回すだろうな」


「そう、なの?」

「ああ。……だからそうなったら、ボクらが食い止めないといけない」

「ルキ」

「うん?」

「オーキー、ドーキー。プルメイに、任せて、ね。最年長、だもの」

「ふっ、そうだったね。じゃあ頼りにさせて貰うよ」


(──《雷の翼》で連絡が取れる仲間は連絡を取った。

後は、ナズクルが行動を起こすより早く……ナズクルを止めればいい。

たったそれだけ、というところまで来た。だから。ナズクル)


「──踏み止まっていてくれ、と願うしか無いね」


 ルキは小さく呟き、祈るように指を組んだ。


 ◆ ◆ ◆


 そして、ヴィオレッタは──狼先生こと、魔王フェンズヴェイの隠し書庫を見つけていた。

 その部屋は、魔王が、ヴィオレッタと出会う前に使っていた部屋だった。


 その机の上に置いてある、開きっぱなしの研究書物(ノート)には、よく知っている人の字があった。

 よく知っているその人の、少し丸くて女の子のような文字。それでいて読みやすくて、丁寧な文字。


 その字を、指でなぞって。


 ヴィオレッタは、涙をこぼした。

(くす、ダメだね。泣かないって、約束したのに。笑うって。

復讐じゃなくて、違う、もっと違う、生き方するって、決めたのに。ね。でも)


 衣服。帽子。羽根ペンに付いた手の染み。

 魔王の。彼の痕跡を一つ見つけるごとに。


(せんせー)。もっと、話したいって思っちゃう、よ。私は。もっと)


 ──陽が沈むまで、ヴィオレッタはその部屋に居た。

 部屋を夕陽と夕闇が二分している。

 不意に目に入ったのは夕闇の中に飲み込まれていたクローゼットだった。


(……あれ。これって、転移魔法具じゃないのかな)


 鍵が掛かったクローゼット。鍵を開ける。


(間違いない。これ、転移魔法具だ。もう一個の出口と繋がってる奴。

……でも、どこに、繋がってるんだろ?)


 ──ヴィオレッタは、どこかに行く時には必ず誰かに告げてから行く。

 しかし、この時は周りに誰も居なかった。

 ガーもハッチもオスちゃんも、ヴィオレッタの時間を邪魔しないようにしたからである。


 結果として、彼女は一人でその転移魔法具を使ってしまった。


 それを責めることは出来ないだろう。

 すぐに戻れるし危険な場所に繋がっていないことが想定出来たのだから。


 誰も予期しない。まさか、その転移の先が『現在は使われていない魔王城』だなんて。

 そして、誰も使っていない筈の魔王城に──誰かが先に居ることなんて、想像は出来なかった。


(魔王城……初めて来た……。あれ。でも封鎖されてるって聞いてたけど……あの部屋)


 ヴィオレッタの視線の先、僅かに零れる明かりが見えた。

 扉の隙間から漏れる、小さな明かり。


 そして、ヴィオレッタの耳は、僅かな音を聞き逃さない。人の動く音がした。

 扉にゆっくりと近づいていく。

 会話の音じゃない。ただ動いている音。

 扉の横にヴィオレッタはしゃがむ。より部屋の中に聞き耳を立てる為に意識を集中した。


 その瞬間。


 『がちゃり』。


 扉が開き、部屋から出てきた男と目があった。

 赤褐色の髪。猛禽類のように鋭い目。筋骨隆々の男。


 二人は目を合わせて──同じように目を丸くした。


「──……ヴィオレッタ……?」

「ナズ、クル」


 お互いに知りようがない偶然。

 ナズクルは、現在の王国所有物であり他からの介入が出来ないという条件の良さから、魔王城を度々会議の場に使用していた。


 そんな事実を、ヴィオレッタは知らない。

 こんな事態を、ナズクルは想定していない。


(何故、よりにもよって今、ヴィオレッタが!! いや、それより──)

(こんな場所にどうして。でも──)


((──ここでコイツを押さえれば!))


 暴発した偶然。

 ヴィオレッタとナズクルの戦闘が、始まった。

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